N横キッズ  1





「ふーん、あいつらか。」


深夜の繁華街、猫の手通りと書かれたアーケードのアーチの近くだ。

とあるビルのそばで少年少女が何人もたむろしていた。

みな片手にビールやチューハイを持っている。

タバコを吸っている者もいる。

見た目はみな未成年だ。


それを一角と千角は少し離れたところから見ていた。


「ああ、あの辺りの子供はみんな持ってるみたいだけど……。」


一角は地図を見る。


「これで見ると一つ玉があるみたいだが、

あの辺りにいる子がみんな欠片みたいなものを持っていて、

それがまとまって一つに表示されているみたいだ。」


彼は目を細めて10人ほどいる少年少女を見る。


「げーっ、一つずつ引っこ抜かなきゃならんのか。

めんどくせー。」


深夜と言え人目はあった。

あの場所で全部の珠を抜くは難しいだろう。


「一列に並べて一気に抜いちまおうぜ。」


千角がにやにやしながら言った。


「そうしたいがここでは無理だ。」

「じゃあどうするよ。」

「うーん。」


二人が見ているとそのそばに白い営業車が近づき止まった。

車の横に紫垣しがき製菓と書いてある。

運転席からすぐに若い男が降りて来て、後ろ座席のドアを開けた。


すると中から背広を着た中年の男が下りて来た。


「おい、一角。」

「うん。」


二人はその男を見た。

その体中に大きな赤い玉がある。


「でっけえな。」

「ああ。」


その彼の周りに座り込んでいた子供が近寄って行くと、

男は彼らに笑いかけ気安く話をし始めた。

男の口元から細かい赤い粒が出て来て

周りの人間がそれを吸い込むのが見えた。


少年少女の中にはまだ赤い玉を持っていない者もいたが、

彼らにもその粒が鼻や口から体に入り込んでいた。


最後に男は財布からお札を出し

彼らのボスらしい少年にそれを渡した。

子供らは声を出して礼を言い、男は車に乗り込んで去って行った。


残った彼らは嬉しそうに笑い合い、

貰った金を使うのだろうか、


「N横キッズ!イェーイ!」


と叫びながら場所を変えるのか集団で立ち去った。


「エヌ横ってどういうコト?」


千角が聞く。


「猫の手だからNEKOのエヌじゃないか?」

「……だせぇ。」


二人は苦笑いする。


「あのおっさん、でっかい玉抱えていたな。

あいつが粒をばらまいているんだ。」

「そうだな、それを子供が吸いこんで体に貯める。

そして新しい子供にもそれが体に入り込み増えるって事か。」


一角が薄く笑う。


「逆数珠の玉は108と決まっているが、小さいものはどうなるなんだ。

まとめたり出来るのかな。

煩悩を吸い込めば吸い込むほど大きくなるのかも。

それならどれほど大きくなるか楽しみだな。」

「だな、俺達に抱えきれないぐらいでかくなったらどうする?」

「笑いが止まらないな。」


二人は顔を見合わせて笑った。


その二人を物陰から六つの眼が見ていた。

息を潜めて、静かに。

だがその眼には炎があった。


「じゃあ、あのおっさんの後を追うか。」

「ああ。」


一角と千角ですらその六つの眼の気配は今は分からなかった。

二人はふっと姿を消す。

それは絶対に見られてはいけない仕草だった。


それをあの眼は見た。


一角と千角が姿を消してしばらくして、

その眼の主達が物陰から出て来た。


「おい見たか、桃介とピーチ。」

「ああ見たよ。豆太郎。」

「鬼よね、豆太郎、間違いないわ。」


きりりとした顔立ちの青年と白い犬が二匹だ。

散歩の途中と見せかけるために犬にはリードは付けてあるが、

しゃべる犬だ、普通ではない。


「まだ若い鬼だな。退治しなきゃならんかな。」


豆太郎と呼ばれた男の眼が光った。




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