第11話 閑話 その頃のクラスメイト達



「――洸烈斬こうれつざん

「グモォオォッォォ――」


 白銀に青い線が入ったザ・勇者という見た目の鎧を着た人物。地毛の茶髪を揺らし、光り輝く剣で緑色の体を持つ豚の様な魔物――オークの脇に一撃を入れる。


 その一撃をもろに直撃したオークは断末魔をあげ、魔石となる。


「流石【勇者】様!!」

「お見事で御座います!!」


 魔物を屠った人物の活躍を見た周りにいる騎士達は歓声を上げる。


「いえ、皆さんのバックアップがあったおかげです!」


 みんなから【勇者】と呼ばれた人物――『王国』に召喚された『救世主』の一人、【勇者】天王寺は自分の武器を腰の鞘に納めると驕ることなく背後にいた騎士達に頭を下げお礼を言う。


「騎士さん達も凄かったけど、光輝君も負けてないぐらいカッコよかったよ!」

「ふ、ふん!――まあ、上出来じゃない?」

「光輝さん、とてもカッコ良かったですわ」


 天王寺のパーティメンバーの早乙女と姫乃、梓川の三人娘が寄るとそれぞれ褒める。


 早乙女は白いローブ姿に蒼い杖を持つ。姫乃は白銀の軽鎧を着て、腰に銀色の細剣レイピアを吊るしている。梓川は早乙女と同じ様に白色の杖を持っていた。


「ありがとう! みんなも怪我なくて良かった!」


 三人に褒められ、好青年の様な笑みを見せる。


 

 天王寺、早乙女、姫乃、梓川の4人パーティは『勇者パーティ』と呼ばれていた。


 他のクラスメイト達も16ので4人パーティの計4パーティを作り『王国』の『救世主』の集まりとなっていた。


「――では、『救世主』の皆様。今日の訓練も終わりましたので王国に戻りましょう」

『わかりました』


 代表の騎士の言葉を聞いた天王寺達は声を合わせて帰路に立つ。



 天王寺達クラスメイトは須藤と離れた後『王国』の王、ドレミンとの謁見をした。

 

 ドレミンから直接『王国』の『救世主』として招かれることになった天王寺達は各一人ずつの個室を貰い丁寧にもてなされた。

 そして約一ヶ月の間『王国』の手練の騎士達と訓練をしてスキルの使い方、魔物との戦闘に慣れ、順調に成長していた。


 そんなクラスメイト達は須藤のことを気にしていない。その理由は須藤が使えないから――ではない。『王国』から「須藤様は戦える力が無い為、我々が用意した場所で安全に暮らしております」と、聞かされているからだ。


 そのことを信じたクラスメイト達は「安全に暮らしているなら良いか」という何も疑わない考えを持ち。『王国』の言葉に従った。


 『王国』は須藤のことを隠蔽することに成功したが、今も捜索は続けている。



 ◇



「――俺はソアラ姫から呼ばれているので三人とも、また後で」

『また後で』


 『王国』に無事戻って来れた天王寺達『勇者パーティ』は合流した他のクラスメイト達と今日あったことをお互い話し合った。


 そして夕食の時間まで別れることにした。


 三人に挨拶をした天王寺は自分の自室に歩いて行く。


 その姿を見ていた梓川が二人に話しかける。


わたくしは先の戦闘で汗をかいてしまいましたので湯浴みに行きますが、お二人はどうします?」

「私は大丈夫!――正直今日の戦闘訓練であまり動いていないから、汗とかかいてなくて。えへへ」


 梓川の質問に早乙女が苦笑いで答える。


「光は【聖女】だから動かないのもしょうがないわよ。私もそんなに汗をかいていないから気にしないで千尋は湯浴みをしてきても良いわよ」


 自分の親友の早乙女を気遣う姫乃。


「わかりました。ではお二人は自室で休憩してくださいまし。では」


 二人の話を聞いた梓川は薄く笑みを見せ、頭を下げると長い金髪を揺らしながらその足で女性用の湯浴み場まで歩いていく。


『……』


 天王寺と梓川がいなくなったことを確認した二人は――。そして無言で早乙女の部屋に入っていく。



「――で? は城下町に居たの?」


 部屋に入った直後、姫乃が食い気味に早乙女に聞く。

 姫乃の言葉を聞いた早乙女は首を振る。その時に日本では珍しい白髪も揺れる。


「うぅん。先日も城下町に【聖女】として出向いたけど――はやっぱり居なかったよ」


 その話を聞いた姫乃はわかりやすく落ち込む。ただ早乙女は話の続きがある様で。



「でも――嗣君を追い出した騎士が『王国』の地下牢獄に幽界されていることは聞いたよ」

「――そんなの当然よ。を身勝手に外の世界に追い出した奴なんて。本当はこの『王国』を――」

「胡桃ちゃん。その気持ちはわかるけど、「今」は駄目だよ」


 感情のあまりか胡桃は腰の細剣レイピアに手をかける。だがそれを親友の早乙女が止める。


「――わかってるわよ」


 親友に止められた姫乃は――早乙女親友の顔を見て直ぐに細剣レイピアから手を離す。


 姫乃が見た早乙女の顔は真剣でもあり、何かを我慢している様な険しい顔付きだった。


 親友も我慢しているのに、たった一度の激情で身勝手に動くのは良くないと自分でも思った姫乃は早く金嗣と会いたいという想いを秘めながらも従う。


「それで他に金嗣を探す手立てはあるの? ないならいっそのこと私達がここから逃げれば良いんじゃない?」

「それはまだ早いかな。一つの手立てではあるけど今の私達では力不足だよ。今は力を蓄える時。その点とパーティを組めたのは都合が良かったよ」


 ただ「天王寺」という単語を聞いた姫乃は嫌そうに眉を顰める。


「ねぇ、光。まだ天王寺に媚びを売る様な態度取らなくちゃ駄目なの? 私はもう疲れたんだけど。結局金嗣は私達が天王寺と仲良くしても嫉妬しないし。それどころか周りからは天王寺の「ハーレム要員」なんて呼ばれているのよ?」

「ごめん。それは私の判断ミスだよ。嗣君が私達に振り向いてくれると思って……」


 罰が悪そうに落ち込んでしまう。


 そんな親友を見て自分の茶色の髪を掻く。


「ごめん。私も言い方がキツかったわ」

「うぅん。胡桃ちゃんありがとう。ただもう少しだけ辛抱してくれると嬉しい」

「ハァ、わかったわ。光に付き合うわよ」


 とは言いつつも姫乃は早乙女に追撃をする。


「でも、あの時――金嗣の『職業』が決まった時助けられたらなぁ〜?」

「うぅっ!」


 姫乃の言葉に涙目になる早乙女。


「これだけは言わせて貰うわよ。あの時光は私が金嗣を擁護するのを止めたけど、どうせいつもの――「嗣君なら大丈夫! 逆境に立たされてこそ彼は輝くんだから!」――とか思ってたんでしょ?」


 早乙女の口調に似せる様に声を出す姫乃。そんな姫乃は目の前で泣きべそをかく親友にジト目を向ける。


「だってぇ〜嗣君は本当にピンチになった時、カッコいいんだもん!」


 怒られているのにそれでも自分の好きな人の頑張ってるところを見たいという早乙女は頰を赤らめていた。


 そんな親友を見て額を押さえる。


「あんたその性格直しなさいよね……金嗣に知られたらドン引きされるわよ?」

「大丈夫だよ。私は嗣君にバレない様にしてるから!」

「……そう。まああんたがそれで良いならいいわ」


 溜息を吐くと親友の性格はまだ直りそうにないと思う姫乃だった。


「――胡桃ちゃん。その話は置いておいて」

「――今はあのことでしょ?」


 早乙女の言葉に頷く姫乃。



「嗣君に悪い虫が付いてないか!」

「金嗣の女の問題よ!!」


 二人は同時に似たようなことを口にする。


 そして夕食が始まる前までいつもの様に須藤の話で盛り上がる。

 


 そんな二人は須藤が『亡くなった』など微塵も思っていなかった。


 それはそうだ。本気を出した須藤が凄いことを昔から近くにいた自分達が一番知っているのだから。それも最愛の妹を一人残して命を落とす様な人ではないと。


 二人は須藤に絶対の信頼を置いていた。



 


 






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