転売ヤーと家族

第12話 テンプレは人生の潤いです



「――『魔法国』に行くとしても、方向感覚がわからないのだが……北ってどっちだ?」


 森からかなり離れた場所まで進んでいた。ただ道がわからず近くにあった大岩に背中を預け、黄昏れる。


 この数日、出会う魔物を屠って屠って屠りまくった。そのおかげか生き物を殺生する耐性は付いた。慣れとは怖いものだ。棚ぼたでレベルも上がったのは大きいが。


 ちなみに魔物からの戦利品は普通「魔石」。そしてレアだと魔物の「素材」が落ちる。「魔石」も売れるがその「素材」は「魔石」よりも高値で買取をされるとか。


 魔石や素材を沢山手に入れたが地図も道もわからないので自分の感覚頼りに適当に道を進んでいた。その間魔物と会っても誰一人として人間と呼べる人種と会っていないのはある意味奇跡に等しい……そんな奇跡はいらないが。


「ふざけんなよぉ。別に地球にいた頃からぼっち、ソロは変わらないけど。流石にそろそろ誰か人と会わないと――ハゲそう」


 自分の感覚としては約一年間は誰とも会っていない感覚だった。


 そう思っても自分がいる草原に現れるのは魔物か動物だけ。【インベントリ】から取り出したジャンボ○ナカを食べながら独り言を呟く。


 そんな時【空間把握サーチ】に何かが反応する。


 【空間把握サーチ】は常時発動し、須藤の脳を通して情報を目で視認させてくれる。距離はおよそ5キロ圏内なら把握できる。


 人なら青く。そして魔物なら赤──だと認識している。人と会っていないから不確かな情報。ただの動物なのかもしれない。


 そして今、反応したものは──


「――赤色だから魔物、か。いや、待てよ少ないが青色もいる──もしや人間か!!」


 やっと人と会えると思い食べかけのジャンボ○ナカを一息に食べる。その勢いで【空間把握サーチ】が反応した場所に急いで向かう。


 人間に会える。とても嬉しい。そんな思いは勿論ある。ただそれよりも――




「『魔法国』の行き方を教えてくれ! そしてあわよくば人脈をコネを!」



 ――自分の欲望しかなかった。



 ◇



 さっきまでいた草原から少し離れた場所に来ていた。


 草陰から顔だけ出すと【空間把握サーチ】が反応する。その何かを確認する。


 そしてそこには――


「――あれは、馬車か。待てよ……馬車に、魔物――は!……お約束テンプレ!!」


 自分が隠れている草陰から見える少し先に馬車が停車していた。そんな馬車を囲む様に沢山の魔物達がいる。


 それを見て須藤はお約束テンプレと言い喜ぶ。

 



 須藤が一人喜んでいる時。 



「――お嬢様、ここはもう持ちません。私達のことは良いのでお嬢様だけでもお逃げください!!」


 真っ白な騎士の甲冑に身を包む金髪の男性は騎士剣を構え、後ろに庇う女性に声をかける。


 周りには自分の仲間だった骸と沢山の魔物。そして守るべく主君。


 自分の命を引き換えに自分の主君を守ろうとする男性騎士。


「だ、ダメだ! 私も戦う! ここを一人で抑えるなんて――そんなこと私は断じて許可出来ない!」


 清楚感溢れる青と白の制服を着た少し気の強そうな赤髪の美人の女性は騎士の思いを拒否し、自分も赤い剣を構え戦おうとする


「ローズお嬢様。お許しください。私の失態です。生きていたら如何様な罰も受けます。ですので――」

「やめろ、ダニエル――!!」





「……」


 そんなことを話している二人を遠目で見た須藤の率直な感想。



    【良いから早く逃げろや!】



 ま、まぁそれは置いといてだ。あんな大きな声で会話してる二人の間にどうやって助けに入るか。世の主人公達はどうやってんのよ。初めから仕組んでるんじゃないの? そう勘繰っちゃうわ。それかただのKY。


 どうするか悩んでいると魔物達が動きを見せる。



『『ギャッァァッァ!!』』


 そして一斉に襲いかかる魔物達。


 ほら、言わんこっちゃない。


「うわーぁぁーー!!?」

「キャッァァァーーー!!?」


 魔物達に驚いた二人は悲鳴をあげる。


 何、驚いてんねん。


 そんな愚痴を呟いてしまうが。



「――あぁ、もう焦ったいわぁ!!」


 耐えられなかった須藤は飛び出すと右腕を魔物めがけて振るい【空間断裂スピリットエア】を【無詠唱】で使う。


『グキャッッッァァアッ!!?』


 数十匹はいた魔物達は見えない無数の刃に切り刻まれ、断末魔を上げ吹き飛ぶ。そして跡形もなく魔石と素材とかす。


「――は?」

「――え?」


 ようやく事態に頭が追いついた二人は魔物だった物魔石等を見て、須藤を見る。


 ただ須藤はそんな二人に物申したいことがあるようで、戦利品など無視をしてズンズンと近付いていく。


「おい、あんた達!」

『は、はい!』


 自分達を助けてくれた人物が血相を変えてこっちに近付いてくる。怒鳴りつけられる。そのことに怯えた二人は萎縮してしまう。


「――『魔法国』って何処ですか?」

『え?』


 そして思っていた内容と違かった言葉に二人は呆けてしまう。



 ◇



「いやー、一時はどうなることかと思いました。殿が助けに入って下さり本当に助かりました!」


 馬車を操縦する騎士長ことダニエルは満面の笑みを須藤に向ける。


「ハァ。まあ、それは良いので危ないので前見てください」

「わかりました!」

「……」


 元気よく答えるダニエルに内心「ウルセェ」と思いながらも耐える。


 ちなみに自分の本名は迂闊に名乗れないので神から貰った『ピアス』の力を借り「スカー・エルザット」と名乗ることにしている。


 そして何より厄介なのが。


殿。この度は私達を助けてくださりありがとうございます。あの、それで、その――スカー殿の好みの女性はどんな女性ですか!!」


 顔全体を真っ赤にした赤髪のお嬢様、ローズは須藤の隣に座っていたと思うと、その大きなお胸を突き出してさっきからそんな質問ばかりしてくる。


 須藤とて鈍感ではない。自分に好意を持ってくれて接してくるのだと。


 ただ思う。


 チョロ過ぎて草。


 異世界もので異性に助けられて恋に堕ちる……ということはだ。ただそう言うことは置いとくとしてもどうせ自分は地球に帰る身。なのでこっちの世界で恋人など作ってもと思い、敬遠してしまう。


「――は奥ゆかしい女性が好きですね」


 遠回しに「お前みたいなズイズイ来る女性はタイプではない」と伝える。


「そ、そうか! 私のことが好きか!」

「ローズお嬢様よかったですね! 帰ったら式をあげましょう!!」


 何を勘違いしたのかそんな話ばかりする二人。


「――」


 須藤は思う。


 こいつら馬鹿なのか。そして頭おかしいのか、と。


「――はぁ」


 現実を直視したくないと言う様に馬車の外を眺め、溜め息を吐く。


 ヤバい連中と接触してしまった、と。




 須藤が二人の窮地を助け、「『魔法国』は何処ですか?」と聞いた後のお話。


 二人は呆けていた。だが直ぐに須藤恩人が怒っていないとわかったローズは助けてもらったお礼を伝える。


『あ、ありがとうございます。貴殿のお蔭で窮地を脱しました。どうお礼をしたらいいか』


 ローズはオロオロとすると魔物の残骸と須藤をおっかなびっくりチラチラ見る。この時はおかしくはなかった。


 そんな須藤とローズの間に騎士長ことダニエルが間に入る。


『――ローズお嬢様。まずはこちらの自己紹介をしなくては失礼に当たります。私達は助けて頂いた身なのですから――』


 ダニエルは優男風にローズにそう伝える。そして須藤になか○ま○んに君ばりに白い歯を見せる。


『――と、私の名前はダニエル・オルマリンと申します。ドレミン王国、フラット公爵に仕える騎士でございます。この度はお嬢様諸共助けて頂き感謝致します』


 片膝立ちをする。そして片手に持っていた剣を自分の顔の前に掲げる騎士長ダニエルはお礼の言葉を伝える。


 恐らくそれがこの世界の騎士の感謝を伝える礼儀作法なのだろう。


 ダニエルに言われ、そしてダニエルの自己紹介を見たローズは慌てる。


 自分の着ている制服のスカートを両手で少し広げ、右足を引く。そして頭を下げる。


『――先程の無礼、お許し下さい。私はドレミン王国、フラット公爵長女。ローズ・フラットと申しますわ。本日は従者共々助けて頂き感謝致しますわ。以後、お見知り置きを』


 格式のある礼儀作法を見せ、頭を上げたローズは須藤に笑みを見せる。


 二人からの自己紹介を受けた須藤はこちらも自己紹介をしなくては、と思い。ラノベの知識を見様見真似で挨拶をする。


『――自己紹介痛み入ります。の名前は――と申します。ただの『旅商人』でございます――貴方方が無事でよかった』


 自分の偽名を使い胸元に右手を添える。そして90°のお辞儀をする。最後に頭を上げるとを見せる。


 その時に須藤の顔を見て――ローズは顔を真っ赤にさせる。


 挨拶を終えて『フラット公爵領』内でおもてなしをすると強引に話を纏められてしまい馬車を引くダニエルの元、須藤一行は『フラット公爵領』内に向かっていた。


 そこでグイグイ来るローズに対応をして「ローズが自分に好意がある」と気付いた。



 二人から聞いた話ではなんでもローズは今日まで『王都』の学園に通っていたとのこと。

 学園の卒業式が終わり、ダニエル含む護衛に守られている中、馬車で自宅まで帰っていると途中でに襲われてしまったと言う。



 ◇



「――スカー殿。子供は何人欲しいですか?」

「い、いや。私は――」


 ローズの質問にどう答えるか悩む須藤。

 そこには今さっき魔物に襲われて怯えていた少女の面影はなかった。


 そんな二人に馬車を引いていたダニエルから声が掛かる。


「――お二人とも、お話もいいですが――もうじき、『フラット公爵領』に入りますよ」


 ダニエルからそう言われたローズは嬉しそうにしている。須藤はどんな場所なのか気になり、馬車から顔を出す。


「――綺麗だ」


 外の景色を見た須藤は思ったことを口にしていた。


 初めに大きな白亜の門が見えた。ここからでも少し見える白い壁で囲まれる街並み。その壁の外は色とりどりの花が咲いていた。


「喜んで頂いてよかった。ここ――『フラット公爵領』は「歌」と「花」の都。『領』内もとても綺麗ですよ」


 須藤の横顔を見たローズは自慢をする様に、そして自分の大好きな場所を知って貰うように――そう言葉を並べる。














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