第6話:婚約者と妹




 ルロローズは、決して馬鹿ではなかった。

 ただ、我慢というものを知らない我儘な令嬢なだけ。

 それは何でも我儘を聞いてきた両親と、周りの使用人のせいである。

 因みに兄のホープは、ルロローズに関心が無かったので放置一択だった。もう少し大人になり、婚約者を探す頃になったら干渉してくるだろうと予想は出来たが。


 皆に大切に育てられている、可愛い可愛いルロローズ。

 そんなルロローズだが、どうしても納得のいかない事があった。

 それは姉のフローレスの婚約者が第二王子な事だ。

 なぜ、自分よりも可愛くないフローレスが選ばれたのか。

 なぜ、自分の婚約者より、フローレスの婚約者が上の立場なのか。


 ルロローズの婚約者は、まだ決まっていない。

 しかし第二王子より上の立場は、第一王子しかいない。

 その第一王子の婚約者は、隣国の姫に決まっており、政略なのにとても仲が良いらしい。

 必然的に、ルロローズの婚約者は第二王子より下の立場の者になるのだ。



「1年早く生まれただけなのに、王子様の婚約者なんてズルイ!」

 フローレスが王子妃教育の為に王宮へおもむく度に、ルロローズは絡んで来るようになった。

 フローレスの成人前王子妃教育が終わり、王宮に行かなくなったので落ち着いたのかと思いきや、そうでは無かったようだ。


 侯爵邸に第二王子が来るという情報を使用人から仕入れ、出会いの瞬間を虎視眈々と狙っていたようである。

 着飾った姿で第二王子の前に現れたのだ。

 間違い無いだろう。




「お前が婚約者だったら、きっと楽しかっただろうにな!残念だ」

 第二王子の言葉がフローレスの鼓膜を震わせた。

 その内容に驚き、部屋に置いてある読みかけの小説の世界へと旅立っていた意識を引き戻す。


 聞いているフリをして、二人の会話を全然聞いていなかったフローレスは、どんな流れで第二王子が今の言葉を言ったのか解っていない。

 しかし口の端を持ち上げて、ニヤニヤとフローレスの反応を見ている第二王子の様子から、良い話では無かったのだろう。


「そんな本当の事……お姉様だって努力はしているとは思いますよ?結果が伴っていないだけで」

 ルロローズも庇うフリをして、しっかりとフローレスを落としてきた。

 まさか聞いてなかったとは言えないフローレスは、困ったように笑うだけにとどめる。

 それで二人は勝手に、自分に都合が良いように誤解してくれるだろう。



「今日は、今までで1番有意義な茶会だった」

 上機嫌で帰って行った第二王子は、最後に態々わざわざ馬車の窓を開けて、大きな声で告げた。

「まぁ!ありがとうございます!」

 そうお礼を述べたのは、婚約者のフローレスではなく、妹のルロローズだ。


 くだらない。

 フローレスは内心で溜め息を吐き出した。

 ルロローズは気付いていなかったが、最後の言葉はルロローズに向けたように見えて、視線はフローレスだった。

 要はフローレスへのこすりなのだ。 


 馬車を見送った後、優越感に浸ってフローレスへ嘲るような笑顔を向けてきたルロローズ。

 第二王子の褒め言葉を、純粋に自分への称賛だと思っているようだ。

 褒め言葉に裏が有るなど、微塵も思わないのだろう。


 面倒臭い、鬱陶しい、そんな負の感情を内心に抱えて、フローレスは自室へ戻った。



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