第7話:予想通りの展開(喜)




 第二王子とのお茶会があった日の晩餐。

 フローレスの予想通りの会話が繰り広げられていた。

「ベリル様がね、私の方が良いって!」

 ベリルとは、第二王子の名前である。

 さすがに親しい者が呼ぶ「ペドロ」の許可は貰えなかったようだが、「ベリル」の許可は取ったようだ。

 ちなみにフローレスは未だに「第二王子」呼びである。


「まぁ!さすがルロローズね!」

 母親がルロローズを手放しで褒める。

 姉の婚約者との交流を邪魔した事には、何も触れないらしい。

「一緒にいるなら、ルロローズの方が癒やされるからな」

 父親も母親へと同意する。


「ルロローズが婚約者の方が良かったのに、残念だわ」

 本当に残念そうに母親が言う。

「1年早く生まれただけなのに、不公平だわ!」

 ルロローズも文句を言う。

 冗談でも何でも無く、本気で思っているのだ。

「王子妃教育で手抜きをするような長女より、可愛くて素直な次女をと、王妃陛下に進言してみようかしら」

 母親の台詞に、ルロローズの表情がぱぁっと明るくなる。

「お母様!ぜひお願いします!」


 そんな家族の様子を冷めた目で見ていたフローレスだが、婚約者交代の話の時には、ルロローズと同じ気持ちだった。

 勿論、それを表に出すような愚行は犯さなかった。




「婚約者交代!ぜひ!ぜひに!心からお願いします!」

 ベッドの上で両手を組み、どこにいるのか判らない神様にフローレスは祈った。


 異母妹では無く実の妹だけれども、ルロローズの行動は、今フローレスが読んでいる小説ととても似ていた。

 主人公が異母姉の婚約者に近付き、馬鹿な王子を誘惑するのだ。

 お茶会への乱入や、それを咎めない家族。そんなところも似ていた。


 小説の「悪役令嬢」は、王子と婚約解消したくなくて、色々と抵抗していた。

 王子と会わないように、異母妹を部屋に閉じ込めたり、逆に態と用事を言いつけて家から追い出したり、服を破いて出掛けられなくしたり。

 結局最後には、その嫌がらせがバレて断罪されるのである。


 現実では呆れられ注意されたとしても、婚約破棄にはならないし、断罪も無いだろう。

 家同士の婚約は、そんなに簡単に破棄は出来ないのだ。まして相手は王家である。

 それに、主人公は愛人の子で正当な貴族では無かった。

 そもそも血統を重んじる王家に嫁ぐ事は出来ない。

 平民が娯楽として読む小説である。

 リアリティよりも、胸がスカッとする夢物語が込められていた。



「でも、ルロローズは実の妹で、王族との婚姻に問題は無いのよ!」

 やった~!とフローレスは両手をあげる。

「年も一つしか違わないし、問題無いわよね!」

 今度は枕を抱きしめて、ベッドの上を右に左に転がる。

 そこまでしてからある事実に気が付き、フローレスはガバリと起き上がった。


「王子妃教育!」

 6歳から始まり、本来は15歳まで掛かるのを、フローレスは12歳で終了したアレだ。

「子供の頃のは主に高位貴族のマナーを、後の王子妃教育の為に早めに詰め込むものだから、本格的な教育は10歳からの物よね」

 ベッドから飛び降りたフローレスは、机の上に体裁として置いてある教科書を確認する。


「大丈夫、大丈夫よ。ルロローズはまだ11歳。12歳から始めたとしても、16歳の成人教育開始までに修了すれば良いのだもの」

 それでも、なるべく早く始めるに越したことはない。

「何とかして、ルロローズに王子妃教育を!」

 フローレスは拳を握りしめ、高く掲げた。



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