第3話:定例のお茶会




 母親に強制的に屋敷に閉じ込められていたフローレスには、もう一つ嫌な事があった。

 婚約者である第二王子との交流である。

 予定より3年も早くフローレスの王子妃教育が終わってしまったので、本来は王子妃教育受講後に行われる第二王子とのお茶会が単独で行われるのだ。

 さすがに頻度は下がっていたが、週に一度のそのお茶会が、フローレスは憂鬱で憂鬱でしょうがなかった。


 朝から時間を掛けて着飾り、馬車に乗って王宮へと向かう。

 王宮に着いて王子とのお茶会の場所に案内されるが、王子が時間通りに来た事は無い。

 必ず30分は待たされる。

 待っている間は、お茶を飲む事も出来ないのだ。

 だからといってこちらが遅刻しようものなら、不敬罪だと責められるに決まっていた。


 第二王子とは、そういう男だった。


 家から強制された婚約でなければ、絶対に承諾などしなかっただろう。

 確かに見た目は良かった。

 キラキラと輝く金髪は、風にサラサラと揺れるほど細くて美しい。

 高い鼻梁に、薄い唇。

 青みがかった緑色の瞳は、人に依っては意志が強いと表するかもしれない。

 フローレスには、単に目つきが悪いとしか見えていなかったが。




 今日も中庭の四阿あずまやで婚約者が来るのをフローレスは待っていた。

 いくら美しい庭園でも、動けずに同じ所を30分も眺めていれば飽きるというものだ。

「帰りたいなぁ。新刊の続きが読みたい」

 フローレスは青い空を眺めて呟いた。



「こんな所で何をしているのです?」

 声を掛けられたフローレスは振り返り、声の主を確認して席を立った。

 最上級のカーテシーで挨拶をする。

「ご無沙汰しております、王妃陛下」

 頭を下げたフローレスを見て、王妃は手の中の扇をパチリと閉じる。

「挨拶などいいわ。質問に答えなさい」

 姿勢を直す許可も出さず、王妃はフローレスに再度問い掛ける。


 性格の悪さはさすが母子おやこね!と心の中で悪態を吐きつつ、フローレスは答える。

「本日は第二王子殿下とのお茶会ですので、案内されたこちらで第二王子殿下をお待ちしております」

 フローレスの説明に、王妃は四阿にあるテーブルの上を確認する。

 蓋をしたままのデザート皿と、伏せたままの茶器が用意されていた。



「ペドロなら15分も前に出掛けたわよ」

 王妃の言葉に、フローレスの肩がピクリと揺れた。

 とうとうすっぽかしやがったか!クソ王子!……とは、思っていても口にしない。

「予定時間は何時なの?」

「15時でごさいます」

 王妃の質問に答えたのはフローレスではなく、ここまで案内した王宮侍女である。

 余談だが、フローレスが頭を下げたままなので、侍女も深く頭を下げたままである。

 護衛だけは周りを警戒する必要が有るので軽い会釈だったが、それでもここに居る全員が王妃に頭を下げたままの姿勢で話をしていた。


 王妃は溜め息を吐き出した。

「フローレス侯爵令嬢、今日はもう帰りなさい。私が許可をします」

「はい。かしこまりました、王妃陛下」

 フローレスの返事を聞いてから、王妃はもと来た方向へと去って行った。

 結局、最後まで姿勢を直す許可を出しはしなかった。



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