第2話:理不尽と優しさ
フローレス・オッペンハイマー。
第二王子の婚約者で、侯爵家長女。
二つ上の兄と一つ下の妹が居る。
利己主義で自分が良ければ何でも良い兄の、ホープ。
見た目は可愛いが我儘で自分至上主義の妹、ルロローズ。
とてもよく似た兄妹である。
そして兄は父親に、妹は母親によく似ていた。
見た目ではなく、性格の話である。
王子妃教育が予定より3年も早く終わったフローレスは、魔術学園入学までの3年間をどう過ごそうかとワクワクしていた。
男子と違い女子は、初等科学校への入学は必須では無い。
殆どの女子は、16歳から通う魔術学園が初めてであり、最後の学生生活になる。
卒業したら結婚するからだ。
それまでの交友はどうするかというと、各家で催されるお茶会である。
どの家のお茶会に招かれるかによって、社交が決まるのである。
当たり前だが本人の意志など関係無く、そこは親の交友関係に一任されていた。
幼い頃のフローレスは、母親とルロローズと三人でお茶会に参加するのが当たり前とされていた。
「王子妃など、うちのフローレスには荷が重いわ」
そう言いながらも、顔は得意気な母親。
扇の陰の口元は、嫌らしくつり上がっている。
「可愛さだけならルロローズが選ばれるのに、ね」
自分の左側にルロローズを座らせ、世話をしながら話す母親の背中を見て、フローレスは紅茶を一口飲み込んだ。
右利きの母親が左側に座るルロローズの世話をすれば、体ごと左を向くので、フローレスにはほぼ背中を向ける事になるのに、母親は全然気にしていない。
フローレスはそっと溜め息を吐き出した。
来たくもないお茶会に無理矢理連れ出されるのは、侯爵家の令嬢としては我慢できる。
しかし母親が放置するので、他の家の人がフローレスに話し掛けられないのだ。
気を遣った夫人が取っ掛かりを作ろうと王子の婚約者である話を振ってくれても、先の様に話をルロローズの方へ強引に変えてしまう。
フローレスの皿が空かないように、主催の夫人が使用人を側に付けてくれる気遣いが無かったら、フローレスは独りでただ座っているだけだっただろう。
「私が認めた社交以外の時間は、全て勉強に
12歳で王子妃教育が一段落したフローレスに、母親は冷たく言い放った。
母親からの理不尽な命令は、フローレスのワクワクした気持ちを叩き潰した。
自由に遊び回るルロローズを横目に王子妃教育を頑張ったのは、「早く終われば好きな事が出来ますよ。王子妃教育の成人用は16歳からしか出来ませんから」と言う教師の言葉を聞いたからだ。
それなのに、学園入学まで自由時間は無いという。
12歳からは、親が居なくてもお茶会に参加する事が出来るようになる。
子供だけのお茶会なども、この年齢から始まるのだ。
しかし母親の口調から、親同伴以外のお茶会に参加させる気は無いのだろう。
フローレスは、余りにも理不尽過ぎて、家出をしようかと本気で計画したくらいだ。
その計画書を侍女に見付かってしまい、泣きながら反対されたので断念した。
意気消沈したフローレスに、使用人達は優しかった。
勉強時間には、コッソリ巷で流行りの小説等を差し入れてくれた。
復習する必要など無い優秀なフローレスは、その小説を読みまくった。
休憩時間に出されるオヤツは、ルロローズに出される物に加え、街で評判の店のお菓子が添えられていた。公休の使用人が交代で買って来てくれるのだ。
勿論、使用人の自腹である。
フローレスは落ち込むのをやめ、屋敷内に閉じ込められても、それなりに生活を楽しむ事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます