悲しみの果て

追悼式当日、警察に捕まりませんように、事故りませんようにと祈りながら、連絡を待った。無事ちゅう君から電話がきて、やはり、かなりの数の単車が集まりパトカーに追われ、散り散りになったらしい。迎えに行くと言ったけど、危ないから、自転車でちゅう君ちの近くまで行くと伝えた。

スーパーに着くと、すぐにちゅう君の姿が見えた。

「心配してた。皆、大丈夫かな」

「おう。多分‥迎えに行ったのに‥」

「橋、危ないから。単車は?」

「家の裏に停めてある」

「自転車で行こうよ。あたし運転するから」

「フフッ」

黙って笑うと、あたしの頭を撫でた。

「はい。乗って」

「フフッゆうは後ろ」

自転車のハンドルを掴んだ。

「平気なのに‥」

渋々、後ろに乗った。ちゅう君には敵わない。

しゅう君の学校に着くと、チラホラと人影が見えた。門を乗り越えるのは、あたしには無理そうだったから、中に入れそうな所を探して歩いた。プール側の金網が壊れているのを見つけ、そこから中に入った。夜の学校は暗くて怖くて、ちゅう君の手をギュッと握った。

特にどこに集合とかはなく、しゅう君が学校が好きだったと聞いて来る事になったらしい。

校庭を歩いていたら、チラッと何かが動いたのが見えた‥誰か来たのかと目を向けると、白いズボンが走って行くのが浮いて見えた‥

しゅう君?‥

ちゅう君の顔を見上げると、ちゅう君も黙ってあたしの顔を見た。

一緒に来てくれたんだ‥

不思議と怖くなかった。ちゅう君の手を強く握ると、答える様にギュッと握り返してくれた。黙ったまま校庭を一周して学校を出た。

「来てくれたね」

あたしの口が勝手に囁いていた。何も言わない、ちゅう君を見上げると‥ちゅう君の大きな瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた‥咄嗟に両手で涙を受けとめ拭い、抱きしめた。声を圧し殺し二人で泣いた。

「カッコ悪ィ」

ちゅう君が涙声でボソッと言った。

「カッコいいよ」

ちゅう君が愛しくて、両手で涙を拭いながら頬を撫でた。

「フフッバカ」

涙目で笑い、あたしの頭を撫でた。

手をつなぎ門の所まで歩いて行くと、何人も人が集まっていた。皆、神妙な面持ちで黙っていた。そのまま通り過ぎ土手まで行き、土手の道をあてなく歩いた。

「今日は‥星が見えないね」

「そうだな」

「皆、集まったのが嬉しくて‥一緒に泣いてくれてるのかもしれないね」

立ち止まり、曇天の空を仰いだ。

「俺‥単車降りる」

「うん」

土手につながる階段に寄り添い座った。

「卒業したら‥九州に行くと思う‥」

衝撃すぎて、頭が混乱して何も言えずに黙っていた‥

「来る?」

「…」

九州は‥遥か遠くに思えた。

「こっち‥残って欲しい?」

夏子と行ったホコリだらけのアパートが一瞬、脳裏をかすめた‥

「ちゅう君は、大きな世界で羽ばたいて欲しい‥それが似合う人だから」

「嘘でも‥残ってって言えよ」

脇腹を突っつかれ思わず立ち上がった。

「ちゅう君には、土手もホコリも似合わない」

急に悲しくなり、土手の道を走った。

どうする事も出来ない現実。ちゅう君が遠くに行ってしまう‥

直ぐに追いかけて来たちゅう君に捕まった。

「泣くなよ」

知らぬ間に、涙がとめどなく溢れ出ていた。

子供みたいにワーワー泣いた。流れ落ちる涙を拭うのも忘れ、途方にくれ‥

ちゅう君は黙ってあたしを抱きしめると、優しく頭を撫で続けた。

ちゅう君の重荷にはなりたくない。

これ以上、一緒にいたら余計な事を言ってしまいそうで怖い‥元々ちゅう君は‥夢か幻だったんだ‥

「帰る」

「ちょっと‥一回、顔見せて」

顔を伏せたまま、首を横に振った。ちゅう君は両手であたしの顔を包むと、涙を拭い顔を覗きこんだ。

「このままじゃ行けない。分かってるだろ。先に行くだけだよ」

あたしはただ、首を横に振った

「もう、行かない。行かないから‥泣くなよ」

「それは‥駄目」

咄嗟に顔を上げると、あたしのおでこに、おでこを合わせた。

「分かってるよな。俺の気持ち」

何を言われても、もう何も考えられなかった。

ちゅう君が、急に遠くに行ってしまった‥



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