悲しい知らせ

ここ何日か、ちゅう君から電話がなかった。約束などない。

そんな時、夏子から電話がきて、悲しい知らせを聞き愕然とした。

「ちゅう君と追悼式来るの?」

「何かあったの?ちゅう君から電話ないんだ」

「えっ?じゃあ聞いてないの?しゅう君の事」

「しゅう君に何かあったの?」

「彼女の噂、知ってる?」

「うん。たまたま聞いた」

「それが、しゅう君の耳に入って、彼女に確かめに単車飛ばして、停まってるタクシーよけて、正面衝突して‥ダメだったって」

「うそでしょ‥」

もう言葉にならなかった。あの運転が上手い、しゅう君が事故るなんて‥どれだけ慌てていたんだろう‥信じられない‥

その後、夏子と何を話したか覚えていない。電話をきった後も、暫く動けなかった。

ちゅう君の声が聞きたい。

初めて自分から、電話をかけた。

プルルル…

親が出たら、どうしようかと思った‥と言った、ちゅう君を思い出していた。

ガチャ‥

「あっあの‥ちゅう君いますか?」

「‥おう」

か細い声に、涙が溢れそうになった。

泣いたらダメだ‥もっと悲しいのは‥ちゅう君だ。

「会いたい。ちゅう君ちどこ?顔見たらすぐ帰るから~顔見たい」

「ああ」

「十字屋の近く?」

ちゅう君の学校の近くに、大きなスーパーがある。

「うん」

「今から行く。来ても来なくてもいいよ。来る気になれたら来て」

声を聞いたら、居てもたってもいられず、直ぐに家を飛び出し、自転車を飛ばしていた。

会えなくてもいい‥傍にいたい‥

閉店したスーパーの前の駐車場に、人影が見えた。自転車を乗り捨て駆け寄った。

「ちゅう君」

思いきり抱きついた。

「フフッ乱暴だな」

か細いちゅう君の声‥折れてしまいそうな体‥暫く抱きついて離れなかった。

「チャリ、凄い事になってんぞ‥バカだなフフッ」

ちゅう君が笑って、胸の鼓動が聞こえた。あたしの手を掴んで自転車に近づき、倒れた自転車をおこした。

「乗れよ」

少しやつれた横顔‥

「あたしがするよ。いつも乗せてもらってるから」

「フフッいいから、乗りなさいよ」

ちゅう君は優しく言って、あたしの頭を撫でた。そのまま土手まで行った。近くに転がっていたダンボールを敷いてゴロンと横になり、ちゅう君の手を握りしめて空を眺めた。

「人は、天に召されたら星になるって、おじいちゃんが召された時に言われたんだ‥だから、こうやって星を見上げて、いつまでも忘れないよって話しかけるの。そしたらキラッと輝いて応えてくれるんだよ」

「そうか‥」

「ほら。見た?今、光ったでしょあの星」

「フフッ」

必死に訴えるあたしを、ちゅう君は笑って頭を撫でた。

「本当に光ったんだって。見た?ほんとだよ。思えば伝わるんだよ」

暫く黙って星を眺めた。

「ほら、見た?今、光ったでしょ。あの星」

「フフッ見た‥光ったな」

顔を見合わせ‥泣き笑いした。ちゅう君まで消えていなくなりそうで‥怖くて何度も手に力を込めると、握り返して応えてくれた。

それから、秘密基地に行き、手をつなぎ寄り添い少し眠った。

「追悼式は単車で流す。その後、しゅうの学校に忍び込む‥学校に行く時、迎えに行くな」

手を離さないあたしに、ちゅう君はそう約束した。辺りが白々と明るくなっていた。

家に帰り、親にこっぴどく怒られた。だけど、そんな事気にもならなかった。

ちゅう君が持たせてくれたミルクティーを飲んで、少し眠った。

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