たかがチョコされどチョコ

「よぉ、大丈夫だったか?」

クニが、ふらりと教室に入って来た。

「あぁ全然大丈夫。あんたも元気そうだね」

「まぁな‥チョコくれよ」

「何?チョコ?」

「そうだよ」

「自分で買えばいいでしょ」

「そういうんじゃねぇよ」

「じゃあ、どういうのよ」

「いいから‥あげるって言えばいいんだよ」

又、なんか始まった‥意味不明。

「嫌だね」

「何でだよ」

「何で、あげなきゃいけないの?」

「あげるって言えばいいだけだろ」

「何でよ。嫌だね」

キリがないから、トイレに行こうと席を立った。するとクニが、あたしのイスを持って教室から出て行った‥突然の事に目を疑った‥

「ちょっと、何すんのよ」

慌てて追いかけ、イスを引っ張った。

「くれるって言うまで返さない」

あたしを振りきり、イスを持ったまま男子トイレに入って行った。

「ちょっと、待ちなさいよ」

躊躇なく男子トイレに追って入った。

「なんだよお前、入ってくんなよ」

クニはトイレの中で、あたしのイスを人質代わりに座り足を組んだ。

「あげるって言えよ」

「そんな事までして貰って嬉しいの?」

「嬉しいよ」

考える間もなく答えた。

嬉しいのかよ‥

「バカじゃないの?絶対にあげない。イス返さなかったら、本当にもう知らないからね」

クニに背を向けると、人質を残し男子トイレを出た。

「おい。待てよ」

慌てた様に、追いかけて来た。

「くれたっていいだろ」

「やだね」

女子トイレに入った。さすがにクニも追って入っては来なかった。

教室に戻ると、人質がちゃんと戻されていた。

何がしたかったんだ‥

いい奴かと思えば、急に暴君になる‥がもう慣れた。人には多分、パワーバランスがあり、同じパワーの者同士でなければ、自分をさらけ出し、ぶつける事は出来ない。でなければ、どちらかが潰れてしまうからだ。他の人ならば、優しく『どうしたの?』と自分を圧し殺してでも問うだろう。考える間もなく自分を出せる人はそうはいない。その意味では唯一だろう。信頼はあるが、男女のそれではない。

夜は久しぶりに、ちゅう君と海っぺりに来た。地元の集まりの後で迎えに来てくれた。

防波堤に、あたしを座らせると、そのまま胸に顔をうずめた。

「どうしたの?なんか元気ないね」

「ちょっと‥休憩」

そのまま黙って、ちゅう君を抱きしめた。

「アポロ食べる?」

ちゅう君は黙って口を開けた。アポロの箱を振ると、ボロボロとあちこちにアポロが散らかった。

「フフッ雑すぎ」

「ごめん」

二人で笑い合った。

「旨いな」

あたしの頭を優しく撫でた。

「何かあったとしても、奪えないものはあるからね」

「フフッそうか」

優しく微笑み、ジッとあたしを見つめた。

「たとえば‥あたしのアポロとか」

「アポロかよ。フフッ」

「誰にでもあげる訳じゃないよ」

「ほんとかよ。今、道にバラまいてただろ」

「あっ、あれは事故だよ~」

ちゅう君はあたしを抱き寄せた。

「フフッ誰にもやるなよ」

「あげないよ」

「少し、顔だして帰るか‥連れてきたくないけど」

「嫌なの?」

「イジられたくないの‥すぐ誰とでも話すから」

「ちゅう君の友達だからだよ」

「勘違いしたら嫌なんだよ」

「竹槍だから大丈夫だよ~」

「こいつ~」

脇腹をくすぐられ笑い合った。

倉庫に入ると、堂島くん達が自然に迎え入れてくれた。

「ちゅう、ちょっといい?」

中の一人に手招きされ、ちゅう君は倉庫から出て行った。ソファーに座り、堂島くん達の話を何となく聞いていた。

『しゅうの女に似てるらしいぜ』『あの年上の?』『しゅうの女だって皆、言ってるぜ』

『確かめようぜ』『見てみようぜ』

バンと音がして、驚いて見ると‥堂島くんが立ち上がった。

「やめろよ。ヘドが出るぜ」

怒って、倉庫を出て行ってしまった。

どうやら、何らかのビデオに出ている人が、しゅう君の彼女に似ているらしく、それを確かめようとしたら、堂島くんが怒って帰ってしまった様だ。

「行くぞ」

ちゅう君が戻り、その後すぐに倉庫を後にした。

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