見知らぬ集団

夏も終わりに近づいた頃、女友達六人でプールに出かけた。久しぶりの水遊びは楽しかった。

帰りホームで電車を待っていたその時、ゾロゾロと階段を上がって来る男の集団が見えた。

ザッと十人はいるだろうか‥同じ年位にみえた。皆、坊主で部活仲間なのか?知り合いでもなさそうだし気にせずにいた。

「うわ~なんか呼んでるよ」

集団側にいた、さくらともっちゃんが騒ぎだした。チラッと目を向けると先程の集団が手招きしてるのが見えた。

「どうする?どうする?」

二人は嬉しそうにはしゃいでいる。

「気になるなら行って来たら?」

声をかけると二人は手を取り合い、イソイソと集団に向かって行った。

凄いな。あの二人‥今、知り合った人達と楽しそうに話している。ただ感心して微笑ましく眺めた。電車がホームに着くと二人が戻って来た。

「同い年だった。番号交換したよ」

声が弾んでいた。地元から橋を一つ越えた地域の男子達だった。

家で夕飯を済ませ、のんびりしていると電話が鳴った。

「さっき会った男子から電話かかって来て~今まで話してた」

さくらからだった。楽しかったのが声から伝わってきた。

「それでね~ゆうの番号、教えてもいい?」

「えっ?何で?」

知らない男子と話すスキルなど、あたしにはない。

「なんかね~ゆうの事、知ってるみたい」

「えっ?あたしの事?」

誰だろう‥考えても思い当たらなかった。

忘れてるだけだろうか‥気になる。

「それなら教えてもいいよ」

さくらとの通話を終え間もなくして電話が鳴った。

「あっ、あの田所と言います。ゆうさんいますか?」

この人が知り合いなのか?名前を聞いてもピンとこなかった。

「電話かけても大丈夫だった?」

静かな優しい声‥緊張が伝わってくる。

「さっき友達に番号、聞いてもらったんだ」

「うん聞いた。あたしの事知ってるの?」

「この間、演劇鑑賞会行ったでしょ?」

「あ~学校で行ったやつだ。行ったよ」

確かに学校で四校合同演劇鑑賞会があった。

あの日、学校指定のYシャツを着ないで友達数人と開襟シャツを着て行って怒られたっけ‥

「その時‥見たんだよね」

「えっそうなの?本当にあたしだったの?」

あれだけ人がいて覚えているものなのだろうか?

「うん。ホームで見た時すぐに分かった。だから‥友達に聞いてもらったんだ」

まだ、にわかに信じられずにいた。

「今度、よかったら会えないかな?」

会うって…顔も知らない。

「みんなで会おうか?」

「坊主で恥ずかしいんだけど、校則で決まってて」

「そんな校則あるんだ。部活仲間かと思った」

「だから、学校あんまり行ってないんだよね‥演劇は行って良かったけど‥」

坊主‥むしろ清潔感あっていいんだけど‥何が嫌なんだろう。言葉にはならなかった。

「気にする事ないよ」

「あの…また電話してもいい?」

少し舌足らずで穏やかな声‥

「いいよ」

自然にそう答えていた。

「良かった。じゃあまた」

電話を終えた後も現実味がなかった。


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