顔あわせ

学校でもホームで知り合った男子達の話で盛り上がった。

「電話かかってきたよ」

そう言うと皆、何を話したのか知りたがった。

「演劇で見て覚えてたの?それでまたホームで会うなんて凄いじゃん」

あたしより皆の方が興奮して騒いだ。

「だけどさ~演劇ん時あんだけ人いたのに‥あたしじゃないかもしれないじゃん‥勘違いかも」

「いや。ゆうでしょ目立つもん」

皆、疑いもせず納得している。

目立つのか?自覚していなかった。

そういえば、兄にも言われたな…

背も低いし、どちらかといえば埋もれてる。

髪の色か‥まだ半信半疑でいた。

「会おうって言われたんだけど、みんなで会わない?」

会いたい会いたいとプールに行った友達以外も盛り上がって騒いだ。さくらが今日も電話する約束をしてるから会う日を決めると言った。

まだ他人事の様な気持ちでいた。

夜になり電話が鳴った。

「もしもし…あの…」

舌足らずの優しい声‥すぐに誰だか分かった。

「あっ、あたし」

「あっ、良かった‥聞いた?会う日」

「えっ?もう決まったの?」

「うん。日曜日だって‥来れる?」

「うん。行くよ」

「良かった…来れるか気になって」

そんなに気になるのか‥嬉しいけど…

顔も知らない。

「人数は合わせるから」

「うん。さくらが決めるって言ってたから友達にもよろしくね」

本当に会うんだな‥向こうは知ってるみたいだけど、会っても誰が電話相手なのか解らないって不思議‥いざ会ったらどうなるんだろう…

十人、十人で向こうの地元で会う事になった。

バスに乗り指定された場所へと向かった。

わからなかったらどうしよう。なんて心配は無用だった十人は目立つ。バスを降りると総勢二十人。さくらがすぐに電話相手の元へ向かって行った本当に頼りになる。少し離れて見ていた。人数が多いから半々に分かれて移動する事になったらしい。一人の男子が中心になり振り分けていた。やがて、その男子があたしの隣に来た。

「一緒だよ…行こう」

目が合うと、はにかんだように目を伏せた。

この人が‥田所くん?

想像より遥かに素敵で緊張が増してしまった。

マズい…何も話せない。

あたしの歩幅に合わせて歩いてくれている。

どこをどう歩いたかも分からぬまま喫茶店に着いて、促されるまま椅子に座った。

「何にする?」

優しい声に、ハッとして顔を上げると‥田所くんが目の前に座っていた。

うわっ…猛烈に帰りたい‥

身体が宙に浮いたようだった。

「同じので」

何も考えられず、そう言うのが精一杯だった。

意識してしまうと、素っ気なくなってしまう‥それがあたしの弱点‥しかも緊張している様に見えないらしいから厄介だ。

視線を感じチラッと見ると‥見てる。

ニコッ…ニコッ‥微笑み返し‥顔が引きつっているに違いない。

やがて飲み物が運ばれて来た。オレンジジュースだった。

「このストローの紙を、くしゃくしゃにして水をかけると‥ほら、虫みたいに動くでしょ。面白いよね~」

隣に座ったクミが盛り上げてくれた。いつもはあたしもやってる事だ。今は緊張でストローをグラスに入れる事すら難しい。

ジュースを飲もうとグラスを持ち上げたら、水滴でコースターが張り付き途端にカランカランと音を立てて床に落ちた‥

恥ずかしすぎる‥顔から火が出たように熱くなった。身を屈めコースターを拾おうとしたら、田所くんがサッと拾い上げてくれた。

「大丈夫?」

「ありがとう」

穴があったら入りたい。その他の事は、ほとんど記憶にない。

プルルル…電話の音に反応して反射的に受話器をとった。

「田所ですけど、ゆうさんいますか?」

ドキッ…一瞬で緊張が走った。

「あっ‥うん」

精一杯‥平静を装う。

「あの‥ちゃんと帰れたか気になって」

まだ気にしてくれるのか‥

「うん。大丈夫‥あっ今日はご馳走さま」

「全然‥気にしないで」

もう最後かもしれない‥気になっていた事を聞いておきたい。

「あのさ…演劇で見たのって‥やっぱりあたしだった?」

「うん。そうだよ絶対」

迷いなく答えた。やっぱりあたしだったのか…偶然が重なる事ってあるんだな。

「あの‥また会える?」

予想外の言葉に困惑した。何も話さなかったのに、つまらなかったんじゃないの?

「無理かな?」

「えっ‥無理とかないよ」

田所くんの方が、無理だと思ってると思っていた。

「良かった~俺、会って嫌われたかと思った」

それは、あたしのセリフだよ‥

言葉にはならなかった。

「聞きたい事があったんだ…あの‥今、彼氏いる?」

「いないよ」

好きな人とは、まともに話す事すら出来ない。

「あの‥良かったら、俺と付き合ってくれる?」

えっ…驚き過ぎて言葉が出てこなかった。

「あっ‥今すぐじゃなくていい‥考えてくれる?」

「うん」

「また電話しても‥いいかな?」

「うん」

頭が混乱していた。あたしと会いたい、付き合いたいと思える要素が何一つ思い当たらなかったからだ。今日だってコースターは落とすし話も出来なかった。

何が良かったのかな?弱点克服できるかな?

予期せぬ事の連続に、他人事の様にぼんやりと考えていた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る