春-蓬り

拝復


 君の言う通り、確かに麗らかという語のよく似合う季節になったね。


 それで、君の不参加の手紙を今日拝受したよ。別に君が悪いと言うわけではないが、とても悲しかった。ロッシーニの「コリントの包囲」を観劇した時よりも、悲しくなった。

君は、僕と君の親同士の取決めで仕方なく、手紙を出してくれているのかもしれないが僕は違うんだよ?僕は君を心の底から愛してる。君の手紙にも書かれていたヘッセの「クヌルプ」から引用するなら、僕がクヌルプで君がフランチスカだ。君のためなら僕はラテン語学校もやめれるぜ?


 ところで、前に紹介した精神科のお医者さまのところにはまだ通っているのかい?彼は僕の従兄弟だから、僕と同じく君のことが大好きなんだ。気が向いたらで良いから顔を覗かせてあげておくれよ。

それと嬉しいことに、近々またそちらの家に伺う機会ができたんだ。その際は時間が許す限り話し尽くそう?


敬具

平成36年4月13日

              椋槻 澄玲

任都栗 茅 様御侍史

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る