四季のある国で


麗らかという語句のよく当て嵌まるこの季節のさなか、畏友 椋槻様におかれましてはお健やかにお過ごしのことと存じます。

川は東風に吹かれ、葦船も紅を塗って花筏と化し、せっせと働く私たちをさながら漂泊の過客つまりクヌルプとして眺めているご様子。

家の庭の稚気盛んな桜の花唇にも、東風がさらに紅を潮すものですから、池の錦鯉も甚だ慎莫に負えぬと今にも言うかのようなお顔で私に目を遣っている状況です。

また、このひねくろしい妾腹にも春風が吹いたようで、目下のところ、ここに宿る小さき命はすくすくと尺蘖せきげつの準備に勤しんでおります。流れたあの子が息を吹き返したようで懐かしさと嬉しさでいっぱいです。


それはさておき、椋槻様のご活躍は日頃からよく聞いております。

剣鬼の称を賜られたと聞き、許嫁きょかとして鼻が高い限りです。

そして、椋槻様のお誕生日祝賀会の連絡も頂きました。

ぜひにとのお誘いなのですが、壁に塗られた田螺のように身動きの取り難い状態にあります故、誠に申し訳ございませんが、出席がかないません。

またの折にはお誘い下さい。剣鬼様の武勇伝をお聞かせ願いたいものです。

末筆ではありますが、ご自愛とご盛会をお祈り申し上げます。


あらあらかしこ


平成36年4月12日

             任都栗につくり かや

椋槻むくつき 澄玲すみれ

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