第15話 俺はお前の事が好きだ

 ——翌日

 頭痛が酷い……それに身体も熱っぽいな……どうやら風邪を引いてしまったらしい。

 昨日、沙耶乃との事を考えていたらつい長風呂してしまったのが悪かったのだろう。

 体温を測ってみると三八度一分とやはり熱が出てしまったようだ。 今日は学園を休むしかないな……沙耶乃にも連絡しておかないと。

 いつものように沙耶乃がうちに来てしまったら移してしまいかねない。 まだ朝早い時間だがメッセージならあまり迷惑にはならないだろうか。

 『朝早くにごめんな。 風邪を引いたみたいなんで今日は休むから迎えに来てくれなくていいぞ』

 朦朧としながら手早く沙耶乃宛に送信すると、すぐにベッドに突っ伏して毛布を被った。

 これで今日は沙耶乃に会えないのが確定したんだよな……それは大した事ではない筈なのに何故だかとても寂しく思えてしまう。

 駄目だな、昨日からずっと沙耶乃の事ばかりを考えている。 果たして本当に昨日だけなのか? そう問われたのなら即答はできない気が……

 もう、適当に理由を付けて目を逸らさずに認めた方が幸せになれるのではないか?

 あれほど振り回されても不快に感じず、寧ろ一緒にいるだけで楽しい沙耶乃の事が俺も好きになってしまったのだろう……

 素直に認めてしまえば胸のつかえはスッと無くなるもので体調は悪いままだが気持ちは軽くなった気がする。

 体調を戻して明日、沙耶乃に伝えないとな……俺も頑張って行動しないと格好悪いよな。

 明日のためにも今は風邪を治さなければ。 俺は大人しく薬を飲んで二度寝するのだった。


 『ねえ、先輩。 わたくしは先輩と出会ったあの日……先輩の事が好きになってしまいましたのよ……?』

 『先輩がわたくしを友達や仲の良い後輩だと思って下さっている事はわたくしにも分りますわ。 でも、わたくしはそれ以上の気持ちを先輩から貰いたいのよ……? わたくしの事お好きですか……先輩?』

 「俺も、沙耶乃の事が好きになってしまったらしいな……認めるのは悔しいけど」

 寝る直前まで考えていた気持ちを伝えるためのチュエーションを夢に見てしまったらしい。

 ちょっとこれは上から目線すぎるかな……? でも、ストレートに好きなんて俺に言えるとは思えないぞ……

 取り敢えず何か食べて考えるためのエネルギーを補給しないと駄目みたいだな。 そう思い上体を起こすと見慣れた少女と目があった。

 「おい、なんで居るんだよ! 学園はサボりか!?」

 沙耶乃は俺の質問など聞こえていないように頬を染めて驚いたような表情で固まっている。

 「なんだよ固まって……馬鹿の癖に風邪を引いて驚いたとか言われたら泣くぞ……?」

 俺がじっと様子を窺っていると沙耶乃は大きく息を吐きどこか緊張した表情で話し始める。

 「先輩、今の寝言って……先輩が……先輩が、わたくしの事を好きって本当に本当なの……?」

 寝言……? まさか見ていた夢の台詞を寝言で言って聞かれていたのか……?

 なんだよ……良い雰囲気作ってとか、何処かに誘ってとか色々考えていたのに……

 心の準備とか全くできてないのに今言うしかないんだよな……?

 「聞かなかった事にはしてくれ……ないよね……? うん、わかってるから。 沙耶乃、俺はお前の事が好きだ。 寝言で聞かれたのは不本意だけど本当だから……」

 沙耶乃もきっと俺の事が好きなのは分かっている。 でも答え合わせするのは怖い。 拒絶されるのが怖い。 逸らしたい視線を頑張って押さえ付けて俺は沙耶乃を見続ける。

 頬を染めてはにかんだ笑顔を見せる沙耶乃は一歩俺へと距離を詰めて恥ずかしそうに真正面から俺の胸に抱きついてくる。

 「それは昨日聞きたかった言葉ですわよ……? わたくし……頑張りましたのに」

 「そりゃ、悪かったな……延滞料代わりに今週末は俺から遊びに誘ってやろうか?」

 「昨日わたくしがしたかった事も先輩からしてくれるなら許してあげますわ……」

 それはハードル高くね!? でも沙耶乃が言うなら頑張らざるを得ないな。

 「そう言うのに経験も知見もないから下手だとかシチュエーションがとか言わないでくれるなら頑張ってあげてもいいぞ……?」

俺がそう言うと沙耶乃はまるで顔を隠すかのように俺の胸に頭を押し付けて小さな声で返事をくれる。

 「先輩がわたくしの為に頑張ってくれるなら……もう、それだけでわたくしの理想のシチュエーションですわ……」

 俺に出来た初めての彼女様は自分で言いながら照れてしまう可愛い性格をしているらしい。

 そういう俺も人のことを言えないのだろう。 熱があるのを考慮してもさっきからずっと顔が熱い……

 「って、おい! 風邪引いてるから抱きつくなよ! 移るぞ!?」

 学園をサボってイチャついてたら風邪が移ってしまいましたとかマジで笑えない……俺は沙耶乃の肩を掴んで距離を置いた。

 「わたくしが来た時にはもう熱も下がっている様子でしたわよ? 昨晩はわたくしの事を考え過ぎて知恵熱を出されたのでは?」

 そんな馬鹿な……きっとまだ熱もあるぞ……身体も顔も熱っぽい感じは続いてるし。 熱がある証拠を見せようと俺は体温計を脇に挟む。

 「よく見ろほら熱あるだろ……って、マジで下がってるじゃん。 今身体が熱っぽいのはお前のせいかよ!」

 「あら、わたくしのせいでしたか……でしたら責任を取ってきちんと看病してあげなくてはいけませんわね。 お粥を作ってありますのでよそってきますわ」

 スキップでもしそうなほど軽い足取りで沙耶乃が部屋から出ていくと一人になった俺は数分前の出来事を思い返していた。

 想像もしていなかったタイミングで伝える事になってしまったけど、ちゃんと言えたんだよな……沙耶乃の事が好きだと。 やばい、思い出していると余計に顔が熱い。

 でも、今はそれも含めて嬉しく幸せな気がするのが凄いよな……

 「お粥をお持ちしましたわ。 入りますわよ……」

 だらしなくニヤついてるの見られるのは恥ずかしいのでドアが開く瞬間まで俺は急いで深呼吸をした。

 「おお凄い、ちゃんとお粥じゃん。 俺のために急遽習ってきてくれたのか?」

 「偶然今朝お粥の作り方を習っただけですわ! タイミング良く先輩が寝込んだので、ただの治験ですわ!」

 「そっか、治験なのか……俺の為かと思って喜んでしまって損したじゃねえか……」

 沙耶乃が素直では無い事は俺も良く知っているので本心では俺も素直に喜んでいるが、少しからかってみたくなっただけだ。

 反応を窺っていると頬を染めた沙耶乃は視線を俺から逸らしながらスプーンで掬ったお粥を突き出してくる。

 「有効成分は……わたくしの、愛情ですわ……どうぞ! 食べでくださる!?」

 そんな良い物が入ってるなら風邪くらい瞬殺だよね。 それに、早く食べろと睨んでくる沙耶乃が可愛すぎる……

 「いただきます……」

 沙耶乃が作ってくれたお粥はとても優しい味がした。 きっとこれが有効成分愛情の味なのだろう。

 「ありがとな、沙耶乃。 すごく美味しい」

 「当たり前ですわ。 お粥程度のお料理を不味くする方がむしろ才能ですわよ?」

 いつもの事だが表情と言葉が一致してないぞ……本当に可愛い奴め……

 お礼の気持ちを込めて頭を軽くポンポンと撫でてやると沙耶乃は嬉しそうに笑ってくれた。

 これから頑張ってお前の事を幸せにしてやるからな。 期待してくれよ……?

 言葉にするのは恥ずかしいのでもう一度俺は沙耶乃を撫でるのだった。



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ぼっち飯してたらドSなお嬢様系後輩(通称:漆黒堕天使ちゃん)の下僕にされた件 アオゾラカナタ @AozoraKanata

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