第6話

「あ、朝か……くそ眠い」


 カーテンの隙間から注ぐ朝日を受けて達也は目を覚ました。

 結局、三木原結衣のお願いを聞いてしまい、深夜二時までねれずじまいに。


「チョコ……食べないと」


 感想をよろしくと言われたので、食べたくないが口に入れることにした。やや大きめのハート形のチョコレートだ。一見すると普通の手作りチョコだが、食べて達也はびっくりした。オレンジが練り込んであるようでさわやかなかんきつの甘みを感じる。

 誰かに自分の好みを聞かれたのかなと思いながら視界に入るゲーム機。


「男子だと思ってたから好き嫌いとか全部ゲロっちゃったんだよな」


 最悪な気分でも起床だった。


 トントンと控えめな音がする。叩き方からして母だろう。父はゴンゴン。紗月はコンコンと言った感じだ。


「達也さん、朝食が冷めますよ」

「母さん、着替えたらすぐ行くよ」


 達也の母は弁護士だった。県で一番大手の事務所に所属している。忙しい中でも朝食だけは律儀に毎日作っていってくれる。

 紗月の部屋の前を通った。もし開いてくれたらちゃんと謝罪できるのにと達也は願いながら階段を下りる。父が革靴を履いているところだった。


「達也……深夜まで起きていたのか?」

「ああ、友達とゲームしてたよ」

「勉強はできるから文句は言わないが、朝は家族そろって食事をした方がいいと思うぞ」

「今度から気を付けるよ」


 父が玄関を出るのを見送った。竜胆医院というかなり大きな眼下の院長をやっている。最先端の技術を取り入れて熱心に患者のことを考えているらしい。


 紗月がいるであろう部屋に入ると焼き鮭を小さくほぐして食べているところだった。


「紗月姉さん、おはよう」

「達也、おはよう。私先に学校行くから皿洗い頼むわね」

「紗月姉さん……俺……昨日……」

「いいわよ。私も悪かったんだし……昔は昔、今は今でしょ?」


 ガチャンと紗月が家を出た音がした。達也は焼き鮭とだし巻き卵を頬張りながら、紗月のことを考えた。あの時のことを昔と割り切ることができない。そんなことを考えていると登校時間がギリギリになってしまった。


 玄関を出るとそこには、三木原結衣の姿。昨日までの地味な姿ではなかった。誰がどう見ても美少女。学校では一厘の薔薇のように目立つに違いない。


「三木原さん、なんでここにいるのかな?」

「少し前に来ました。一緒に登校したくて。そうそう生徒会長のお姉さんにも挨拶をしておきましたよ。学園のマドンナって感じですよね。……でも……今は達也君の彼女は私だから」


 三木原結衣は、近くに黒塗りのベントレーを待機させている。

 達也は、三木原結衣という女の手の平で転がされているような気分だった。

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