第5話

「ただいま……あ……」


 風呂上りなのか髪を拭きながら廊下を歩く紗月と視線が絡み合った。紗月はそっぽを向いて階段を上がっていく。達也はただ謝りたかった。その感情を声に出そうとした瞬間、三木原結衣の顔が浮かんだ。

 どうしようもない理不尽な彼氏と彼女の関係だが契約を取り交わしたのは事実。達也は大きな罪悪感を覚えながら、二階への階段をゆっくりと上がる。手前の部屋には紗月と書かれた可愛いクマのプレートが飾られている。紗月はテディベアを集めるのが趣味だ。あの日のできごとの前は、クマのぬいぐるみを自慢げに名前を付けて教えてくれた。

 その奥の自室に達也は入る。我ながら殺風景な部屋だ。ベッドに机、箪笥にテレビゲーム。

 宿題もあったが、それは早朝に起きれば難なくこなせる。


「久しぶりにモンハンでもやるか」

「クラスの連中で今ログインしているのは高田とM・Yか」


 達也は、ログインしてメッセージを書く。二十二時から二十四時まで遊べる人募集。

 するとすぐに返信が来た。M・Yというハンドルネームからだ。誰かは詮索していないが、多分クラスの男子だろうと思っていた。

 が、携帯が鳴る。更にメッセージが表示されて携帯を落としそうになった。


『いつも一緒に遊んでくれてありがとう。今日はゲームでデートだね』

「なッ‼ まさかまさか三木原結衣かッ⁈」

『電話、早く出てくれない?』


 達也は、血管に氷をぶち込まれたかのようなショックで、声が出ない。なおも携帯はブーッブーッブーッと鳴り続いている。深呼吸して携帯電話をとる。


「もしもし、竜胆達也です……三木原さん……どういうつもりで――」


 その先の言葉を三木原結衣は、へし折った。


『――早くモンハンやろうよ。昨日も一緒に遊んだじゃない?』

「い、いつからゲーム友だちだっけ?」

『一年生の一学期からだよ。モンハンの前作も一緒にプレイしたじゃない?』


 達也の手から汗がもうでない。怖いを通り越してしまった。チャットで普段言えないような会話もしたことがある。男子特有のお下品なネタも。それすらも完全掌握されているとは。


 その後達也は、数時間モンハンデートをする羽目になった。

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