第7話 土竜の子供と未完成品

「おい、仲が良いのは結構だが、人に向けるものじゃねえだろ……痛いだろうが」


 子供が作ったものだからまだマシだが、大人が本気で作った武器プレゼンツであれば、ジオは死んでいただろう……、少なくとも骨は折れているはずだ。


 ジオの低い声に怯えた二人だったが、砲口を向けている少年の方が前に出た。

 後ろにいる少女を庇うところは、評価に値する……だが、それで許すわけではない。


「……怪我してないなら、いいだろ。小さい大人だな」


「でけえ小さい関係ねえよ。人に向けていいもんじゃねえってことだ。

 お前が本気で作れば人を殺せる武器になることは自覚してんじゃねえのか? 職人の土竜族だろ? まだ半人前みてえだけどな。

 お前はその武器、遊びで作ったのか? 人も殺せないほどの威力に抑えて、意図的に未完成品を作ったのか?」


「誰がッ! 完成品を作ったに決まってるだろ!!」


「なら、その武器は人を殺せる力を持っているってことだ。

 お前の実力不足でたまたま俺は無傷だったが、お前に一人前の力があれば、俺は死に、大問題になっていたはずだぜ……?

 良かったなあ、半人前で。その年齢で人殺しにならなくて済んだじゃねえか」


 うぐ、と言葉を詰まらせる少年……。

 半人前と言われることを嫌うが、もしも本当に人を殺せるほどの武器が出来上がっていたらと思うと……、衝動的に背を向けるジオを撃ったことに、遅れてゾッとしているようだ。


 土竜族の作品は、今や世界に『兵器』として流通している。

 自衛、敵対、制圧、まあ色々と目的は分散するが、ようするに人殺しの道具なのだ。


 武器を作るだけの土竜族は、自身の手を血で汚すことはなく、ゆえに殺人に耐性がない。


 それは個人ではなく、土竜族の本能に刻まれていることだ。


「立派なプレゼンツなんだ、安易に人に向けるな。それが分かっていれば文句はねえよ。

 今回、俺を狙ったことはチャラだ……間違っても、アイニールに向けるなよ?」


 傷つければ殺す、とジオが本気で威嚇すると、少年が反射的に砲を抱えて、砲口をジオに向けた。……気づいた少年が咄嗟に砲口を地面に向けたことで、ジオの忠告はきちんと彼に届いている証明にはなった……。

 なので、今のミスは見なかったことしよう。


 ジオは怯える少年と少女に近づき、目線を合わせるように屈んだ。


「これ、見てもいいか?」


「え、…………うん」


「万能型じゃあ、ねえのか。特化型のプレゼンツ……だよな。地中の土を集めて固め、鉄球を作り、撃ち出す武器か。

 土を再利用するなら残弾数の心配もない……ただ、特化型のプレゼンツは一撃必殺が当たり前なんだけどな――威力をもっと上げれば、特化型として需要があるだろ。

 万能型でもなく特化型でもない武器は、やっぱり万能型にしろ特化型にしろ、同じプレゼンツには勝てねえよ。プレゼンツを相手にしなければ……――たとえば『トナカイ』でも『サンタクロース』でもない悪党共には需要があるのかもな」


 悪党に流したとばれれば、土竜族の評価に繋がる。

『型落ち』などが奪われることはあるが、完成品をそのまま流すことは禁止されているのだ。……半人前が、需要があるからと言って武器を作り、市場へ流すことはできない……、隠れて流すこともだ。


 どうせばれる。ばれれば一族からの追放もあり得る話である。


 極端な差別の一例を見ているため、追放という罰は強く影響している。


「一人前になって完成させてから、ちゃんと手続きを経て――発表しろよ? この状態で買い手がいるからと言って、素直に渡すな……、それで色々と不都合が生じるんだからな」


「……おっさんは、なんなんだよ……?」


「俺か? 俺はトナカイだ……万能型のプレゼンツにはいつも世話になってるぜ」


 すると、少年が立ち上がってぐっと詰め寄ってきた。


「マジで!? おっさんはトナカイをやってるのか!?

 じゃ、じゃあ、誰のどんなプレゼンツを持って――」


「落ち着け。見せてやるから……――後ろの子も、一緒に見るか?」


 大きく頷いた少女も、少年に倣って近づいてくる。


 興味津々に目をキラキラとさせていると、ジオも見せにくいが……まあ、土竜族にしか分からない技術もあるのだろう。

 彼が作った大砲と比べてしまえば、やや格が落ちた感じがするが、万能型であれば仕方ないのかもしれない……。


 ジオが、持っていたプレゼンツを二人に見せた。

 頑丈なロープと、その先に取り付けられた爪である。


「誰のか、までは知らないが……万能型のプレゼンツだ。すごいのか?」


「すごいよ。おれの砲台は叩けば壊れるけど、これはきっと、なにをしても壊れないと思う……。ロープが引き千切られることもないし……、爪の切れ味が落ちることもないだろうし――うん、すごい武器だ、これ……」


 ジオには分からない職人の世界である。


 その武器に何度も助けられているのだ、製作者には感謝しなければならない。


「参考になったか?」

「わかんないよ……レベルが違い過ぎるし」

「うちには作れない……」


 二人が分かりやすく落ち込んだ……、若い内から挫折を知り過ぎである。


 まだまだ経験が足りないだけだ。

 成長と共に同じような武器も作れるようになる。


 ……と、正面から言ったところできっと伝わらないのだろう。


 かと言って、じゃあこの二人が今日で武器作りをやめるとは思えない。周りが切磋琢磨して武器を作り上げていれば、二人もまた始めたり辞めたりを繰り返すだろう……。

 そうしている内に一人前の武器が作れるようになる――つまりジオにできることはなにもなく、なにもしなくともいい。


 自然と、子供は成長するものだ。


「ま、がんばれよ」




「ちょっと、なにこそこそと密談してるのよ。イタズラの作戦会議?」

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