プロローグ2 まともな魔法が使えない少年

 屋敷の3階にある執務室に立つある男がいた。華美な装飾品を身に着けた紳士の笑みを浮かべた男。

 せっかく顔の造形は良いのに、厳めしい顔で人を寄り付かせない暴君のようになっている。


 外では子供が倒れているのがわかる。


「ああ、また倒れたのか。そうか」

 男にとってはいつもの話でしかない。どうせ、魔法も使えない、何か光だけが見えるとふざけたことを言いながら、生活魔法の水を大量に出すことしかできない庶民のクズが倒れただけだ。

 

「うむ、戯れに世話係にした無能エルフも相変わらずだが、惨めなのが良くわかっていいものだ。来たれ、風よ」


 と、思いの言葉呪文短縮された魔法を放つと、そこには風とひらりと落ちる葉っぱだった。黒い、本当にすべてを飲み込むような漆黒色の葉っぱ。


「不要なものはいらぬ。ただ、ゆっくりと12年生きてきたことを感じ、感謝すればよいのだ」


 葉っぱを一瞥し、執務机に置いていたチリンチリンとベルを鳴らす。


 やがて、鳴らされた音から一息で、男の執務室がノックされる。


「ジャコモ様、失礼いたします」

 現れたのは執事長。ジャコモ=オトマイヤー家の信頼できる男。歳は大分経っており、白ひげを蓄えた紳士。オトマイヤーの暗部にも触れた熟練の策士でもある。


「準備はできているだろうな。まあ、木の葉の色からすれば問題は無いと思っているのだが、どうだ?」

 ジャコモと老執事から言われた男はきれいにそろえた口ひげを触りながら、醜悪な笑みを浮かべた。


 長い眉毛の下から見える眼光は鋭く、ただうなづいた老執事は「すべて万全です」と礼をする。


「流石、だな。やるべきことを行うこと。オトマイヤーの執事として、40年やってきたとして、優秀だということを、証明して見せよ」


「承知いたしました。これが私に残されております役目故行って見せましょう」

 まるでゴミを処理するかのように冷たく老執事は言い放つ。


「それは頼もしい。俺も参加しよう。そのために。何と楽しいものだろうか。ハッハッハッ!」

 ジャコモは執務室の窓で笑う。とてもうれしく。狂おしいほどに。涙が出そうなほどにうれしいのだ。忌むべきものを退治することが出来る。

 本当にジャコモは心の底から思っていたのだ。


「魔法の使えない不気味な息子は12歳の誕生日で縁を切る。そして、後腐れもなく、この毒で死ぬのだからな!」


 それがジャコモという男を父に持つ、ヨゼフという少年の11歳の最後の日の出来事だった。 

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