魔法が使えなくて追放されかけたけど、実は最強精霊術師だった僕―契約しただだあまお姉ちゃん精霊とのあまやかしほめられ生活―

阿房饅頭

プロローグ1 ヨゼフの朝は早い

 粗末な長屋の粗末なベットの上。

 11歳のヨゼフ少年はお世話をしてくれるメイドよりも早く起きなければならないほど朝は早い。

 なぜなら、侯爵家の三男でありながら、生活魔法の一種である水しか出すことがことしか使えず。

 それでも役に立とうとして、大量の水を放出して、家じゅうの足りないところにある水を一杯にしなければならないと父から命じられているからだ。


 侯爵家の三男で愛らしくなる器量のあるの顔。ブラウンの瞳、茶色い髪。まともに育てばふっくらとした利発な11歳の少年となるはずなのに。

 目には何の生気が無く、ただ機械的に水を手から召喚していることしかできない。天は二物を与えなかったのだろうか。


「早くしてくださいよ。オトマイヤーの落ちこぼれ様。水しか出せない道具、早くしろよ!!」


 フフフと笑うベテランのメイドがいる。蔑む酷い言葉。人を人と思わない言葉。だが、それはヨゼフが望んだことでもあるのだ。


「僕は無力だから。そうですよね。でも,【水よ出ろ】力ある魔法の言葉はできる」


 名門オトマイヤーは下々のものに施しをせよ、と。

 魔法を3種類は使える名門の家系なのに、ヨゼフだけは魔力だけ潤沢なのに、何もできない。しかも、体が弱い。役に立たない。だからこそ、役目を果たせていないと父ジャコモから言われていた。


 できることは水を出すことだけ。

 生活魔法の水を出し続けて、たらいに水をためる。遠くの井戸に行くよりも彼に頼んだ方が便利だと使用人たちから思われている。主人からもそう言い含められている。それだけの話だが、ヨゼフの体は水を出し続けて、毎日が限界だった。


(もう、駄目だ。いや、僕はそんなんじゃいけないんだ。でも、あああれ?)

 体が言うことを利かない。倒れる。意識が薄れていく。

 ふらふらしてきた。


「駄目ですよ。ほら、もっと」

 顔を殴られた。意識が急激に挙げられて、また、水を出すことをさせられた。いっぱい、水を出した。水はいっぱい出る。魔力だけは高いのだ。ヨゼフは病弱で体力がないだけで、魔力に不足は無い。むしろ、人より多いといわれている。

 だから、生活魔法の水を大量に出す。手から無意識に、機械のように出す。意識が朦朧としても誰かに頬を叩かれ、意識を強制的に戻される無間地獄。

 ここから出してくれと叫んでも、ここにいるものは誰も助けない。ヨゼフの父がそのように命令しているからだ。

 

 その時、光が見えた。いつも自分を支えてくれる光。みんなには見えない光。その時だけ、彼の赤い瞳が金色に輝く。


『大丈夫。お姉ちゃんが守ってあげるからね』

 ふわりと金色の髪の女性がヨセフを支えるような幻の感覚が有って――


 メイドたちがいつもの異様さに、ぎょっとした瞬間、一人のメイドがヨゼフの体を支えた。


「やめてください。ヨゼフ様! 倒れてしまいますよ!」

 黒髪の耳のとがったメイドのエルフだ。彼女がヨゼフの成人していない幼い体を支えた。


「くっ、落ちこぼれのエルフ。モニカあああああ! まぁた、あんたかい! 確かにアンタがヨゼフ付なのは知っているけど、過保護過ぎやしないかね?」


 メイドの一人がそんなことを言う。当り前だ。ヨゼフは役立たずなのだ。だから、モニカが自分をかばう必要なんてない。そんなことはない。


「大丈夫だよ。モニカ。僕は元気だから、水出すよ――大丈夫。大丈夫だからうん。ほら、あれれ」

 と言いながら、体が傾いて――。


「ヨゼフ様! 倒れて」

 モニカの声が聞こえて、ヨゼフの意識は途切れてしまった。

 でも、光が言葉を出してくれる。


『大丈夫おおおおおおおおおおおおおお。ずぇつたあああああああああいにねえええええええええ!!! お姉ちゃん助けてあげるから、ぜっっっったいだからっ!!!!!! なのよっ!!!!!! なんで助けてあげられないのか悔しいわっ! 本当に、もうっ、何でなのよ! おかしいって、おかしすぎてたまんない! あれれれ?????』

 ヨゼフにはお姉ちゃんはいない。けれども、その声は確かにお姉ちゃんだと思えるのだった。

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