残念王国との国境線に鋼鉄の壁を作る

 屋敷に戻ると怪我人の治療のことを思い出して、私はお父様の部屋へ真っ直ぐに向かった。


「メリア、おかえりなさい。大変でしたわね」


「お母様、ただいま戻りました。私、試したいことがございます」


 お母様は優しい笑顔で「どうぞ」と頷いた。


 私はお父様の体の中心に手をかざし詠唱する。


『ヒール』


 お父様が光に包まれて数秒経つと光は消えてしまった。


 お父様は目を覚ますことはなかった。

 

 悔しい、「ヒール」ではダメなのね……。


 私は自室に戻ると、優しい笑顔でセリアが迎えてくれた。


「セリア、ただいま」


「おかえりなさいませ、メリアお嬢様」


 まだ眠るには早い時間だった。


 けれど、ほとんど寝ていなかった私はすぐにベッドに横になる。


 そして、セリアが優しく布団をかけてくれた。


 私は目を閉じるとそのまま眠りについた。



 翌朝、私はいつもの時間に起きた。


 いつもより長い時間の眠りで気力と体力は十分だ。


 王宮に出勤すると、私はノエルと一緒に会議室へ向かった。


 ちなみに、エルミーナ秘書官はグワジール元宰相の仕事を肩代わりしていて常に不在である。


 

 会議室には、私とノエル、フィーリア騎士団長、ダリア副騎士団長、カーナが集まった。


 これから対ザンネーム王国についての作戦会議が行われ、司会は私がする。


「それでは、対ザンネーム王国対策についての会議をはじめます。懸念はザンネーム王国の侵略行為です。ダリア副騎士団長、敵軍の侵攻ルートは把握しておりますでしょうか」


「はい、ザンネーム王国からサイネリア王国へ侵攻する経路は川を下るか、山道を上り下りするか、平坦な道を通るかの3つでございます」


 ダリアの説明は続き、ザンネーム王国軍の侵攻ルートの3つのうち一つは国交断絶時に山道は全て破壊したそうだ。


 わざわざ山道を整備して侵攻してくることはまずないだろう。


 トンネルを掘って繋げる計画もすでに潰している。


「残るは川を下るか平坦の道を通るルートです。ですが、大勢の兵を移動させることを考えると平坦の道を通るルートを使う可能性がかなり高いと思われます」


「ダリア副騎士団長、ありがとうございます。では、カーナ。私の部下から調査依頼が来たと思います。その後、どうなっておりますか?」


 ダリア副騎士団長が席に座り、カーナが席を立って話し始める。


「はい、鉄鉱石と石炭の採掘量の調査の結果、採掘量は予想以上に多いようです。値崩れを心配するくらいの量と聞いております」


 新しい鉱山は資源の宝庫といったところですわね。


 存分に鉄鉱石と石炭を使ってもらった方が資源の値崩れを防ぐことができるというのは嬉しいという報告だった。


「カーナ、ありがとう。では、山岳部を除いたサイネリア王国とザンネーム王国との国境線に鋼の壁で埋め尽くしましょう」


 私の提案に、みんなが驚いた顔をした。


 国境線に壁を作るだけでも大変な作業なのに、さらに鋼鉄を使って壁を作る方法が誰も頭に浮かばなかったようだ。


「メリア執務官代理、どのように鋼の壁を建設するかをご教示願いますでしょうか?」


「はい、まず国境付近に仮設の鍛冶工房を建設します……」


 私は自分がメモした紙を見せながらみんなに説明をした。


 仮設の鍛冶工房が完成したら一定の長さの鋼の壁を作っていく。


 鋼の壁は溶接の必要がないようにブロックのおもちゃのように組み合わせることができる設計をする。


 鋼の壁ブロックを量産して次々と繋げていくということ。


「なるほど。メリア様、面白い発想でございますね。後は鋼の壁を運ぶための荷車が必要でございますね」


 そう、分割したとはいえ鋼の壁は相当な重量ですわ。


 強度と馬を何頭か使って動かせるように補助をする仕組みが必要になる。


「カーナ、魔動トロッコを応用させて何か作れないかしら?」


「はい、お任せくださいませ。頭の中に何かピピピーっと浮かんできました」


 カーナは素晴らしいですわ。


 一つのヒントで設計図が頭に浮かんでくるのですもの。


「では、平坦の道を通るルートは鋼の壁を作る方針で進めてまいりますわ。フィーリア騎士団長、川沿いや海岸は特殊部隊が侵入してくる可能性がございます。警備体制の強化をお願いいたしますわ」


「はい、かしこまりました」


 会議は終了し、それぞれの役割を果たすために動きはじめた。


 数週間たつと、サイネリア王国とザンネーム王国との国境付近に仮設の鍛冶工房が完成して鋼の壁の量産体制に入った。


 鋼の壁のブロックは、身体強化をした兵士が数人でやっと運べる重さだった。

 

 強度も「ファイヤーボール」程度では傷がなかなかつかないほどだった。


 私の「ファイヤーボール」で試すのはやめておいた。


 さらに数日後、カーナたちが黒光した金属の荷車を数台運んできた。


 新しい荷車に鋼の壁ブロックを一つ乗せ、馬を4頭繋ぐ。


 荷車に付いている魔石に魔力をこめると4頭の馬で荷車を引けるようになった。


「メリア様、大変お待たせいたしました。ついに完成いたしました。その名も『魔動補助荷車』でございます」


 ネーミングはそのままですわね。


 仕組みは、前世の世界でいうと電動補助付きの自転車のようなものだ。


 そのうちに「魔動自動車」ができそうですわね。


「カーナ、ありがとう。とても素晴らしいですわ。次は例の企画を前倒しいたしますが大丈夫でしょうか?」


「ほ、本当でございますか!? 一番楽しみにしておりました。ついに実行に移されるのでございますね」


 カーナの目の輝きが眩しいですわ。


「では、カーナ。期待していますわよ」


「はい、おまけせくださいませ」


 川岸や海岸の警備体制はある程度整っているが、心もとない。


 そのため、港に造船所建設計画を前倒しすることにした。


 造船所が完成したら魔法工学を駆使した一隻の船をカーナに建造してもらう約束を以前からしていたのですわ。



 その後、力持ち自慢の人たちをたくさん雇い鋼の壁を作る体制を強化した。


 魔動補助荷車の効果がもの凄くあり、約3ヶ月ほどでサイネリア王国とザンネーム王国の国境を鋼の壁でふさぐことができた。


 次は造船所の建設とサイネリア王国の船の建造計画ですわ!

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