修道院を改修したら女神様から祝福が降ってきた

 私とノエルは修道院の前にいる。


 建物が古くて今にも崩れそうな感じだった。


 併設している孤児院も同じような感じだ。


「これは酷い状態ですわね。街の人たちは、神様に祈る習慣とかはないのかしら?」


「私たち貴族は魔法を使いますし、精霊や神様の存在はないがしろにはできませんが。どうなんでしょう」


 サイネリア王国ではあまり宗教というものは浸透していないようだ。


 そもそも自分たちの生活で精一杯でそれどころではないのでしょう。


 私も前世では特に信仰などしていなく、神社に初詣に行くくらいだった。


 けれど、神様から転生をさせていただけた事実があるので、毎晩感謝の祈りを捧げて眠っている。


 修道院の中に入ると優しい感じの姿の女神の像が目に入った。


 2メートルくらいある女神像の前で跪き、両手を組んで祈りを捧げた。


 ノエルも私と同じように祈りを捧げた。


 祈り終わったところに修道士の女性が声をかけてきた。


「お越し下さいましてありがとうございます。王宮の方でしょうか?」


「はい、はじめまして。私は、メリア・アルストールと申します。執務官代理をしております。こちらは助手のノエル・グロッサムです」


「申し遅れました。私、修道士のアリアと申します。急な申し出で申し訳ございません」


 修道士のアリアは深く頭を下げる。


 とても切羽詰まっている感じのようだ。


 アリアの表情からひしひしと伝わってくる。


 王国が破綻しかけていて礼拝に来る人はほとんどいなく、寄付金もほとんどないと伝えられた。


「寄付金もほとんどなく、どうやって切り盛りされているのでしょうか?」


「はい、売れるものは全て売りなんとか食料を確保して生活しておりました。ですが、もう売るものがなく孤児たちを養う余力がなくなってしまいました」


 修道服で見た目はわかりにくいが、よく見るとアリア自身もとてもやせ細っていた。


 もう何日も食事をろくにとっていないようだ。


「メリア様、私が孤児院を見てまいります。礼拝室でお待ちください」


 ノエルは、私に孤児院を見せるべきでないと判断したのだろう。


 私は礼拝室で待機して、ノエルとアリアの2人で孤児院の様子を見に行った。

 

 戻ってきたノエルは私に報告をする。


「メリア様、お待たせしました。現状はとても良くありません。栄養がいきとどいていなくて今にも死んでしまいそうな子もいました」


「ノエル、一旦王宮へ戻って食料を持ってきましょう。アリアさん、もう少しお待ちください」


「本当に、食料をいただけるのでしょうか?」


「当たり前ですわ。目の前に死にそうな子供がいるのに放っては置けませんわ」


 私たちはすぐに王宮へ戻り、食材と調理器具を確保する。


 数人の女性の部下を連れて修道院に行き、大きな鍋で粥状の食べ物を作りアリアと孤児たちに分け与えた。


「皆さん、食事はたくさございます。焦らずにゆっくりお食べください」


 あまり急いで食べると胃がビックリしてお腹を壊したりしてしまうのでゆっくり食べさせた。


 孤児たちは、お腹が満たされ始めると笑顔が見えはじめた。


「メリア様、お恵みをいただき、本当にありがとうございます」


「アリアさん、調理器具はお貸しいたしますわ。食材も定期的にお届けいたします」


 アリアは私に涙ながら祈るように感謝した。


 もう少し遅かったら幼い子供の命が危なかった。


 なんとか間に合って私はホッとした。


 孤児たちが満腹で嬉しそうな姿を見ながら、私たちは王宮へと戻った。


「メリア様は、孤児にまで手を差し伸べてくださるのですね。そのような貴族はなかなかおりません。それに、女神像に祈るメリア様のお姿はまるで聖女様のようでしたわ」


 ノエルの私を見つめる瞳が眩しいですわ。


 しかも、私が聖女様ですって?


 私はそんなに素晴らしい人格者ではございませんわ。


 それよりもお仕事ですわ。


「ノエル、こちらの指示書を担当者に渡していただけますか」


「はい、かしこまりました。メリア様」


 ノエルは私の渡した指示書を持って執務室を出ていった。


 内容は、建築士たちを集めて修道院と孤児院の改修をすることだ。


 家具なども人数分揃えるように指示書に記載をしておいた。


 修道院は改修というよりほぼ立て直しのようだった。


 

 1ヶ月後、修道院と孤児院の改修が終わったと報告がきた。


 私とノエルは改修後の状態を確かめるため、再び修道院におもむいた。


 修道院に到着すると、見違えるほど修道院は立派な建物になっていた。


 ここまで立派に仕事をしていただけて感激ですわ。


 臨時報酬を上乗せしましょう。


 私たちは修道院に入り、私は目を閉じて女神像に向けて祈りを捧げる。


 私が目を開けると、ノエルがとても驚いた顔をして私を見ていた。


「ノエル、何かございましたか?」


「ええ。メリア様に光の粒がたくさん舞い降りておりましたわ。女神様の祝福を受けたかのようでした」


 光の粒が舞い降りる様子をアリアも見ていたようだ。


 私はアリアに跪いて祈られてしまった。


「メリア様、何度も感謝をしても足りないくらいのお恵みをいただきました。本当にありがとうございます」


 孤児院も見学をして、机やテーブル、子供たちのベッドなどがしっかりと揃っていた。


 子供たちに囲まれてたくさん感謝された。


 しかし、修道院と孤児院だけとなると不公平に思う者も出てくる。


 王宮の予算で全面的に建物や街の整備をしていく計画を立てることにした。


 魔鉱石や鉄鉱石などの採掘量も良好で予算に余裕が出てきたのも幸いした。


 王国の再建は順調に進んでいる、あともう少しだ。



 休日のある日、私は自分の部屋でくつろいでいるとセリアが私宛の手紙を持ってきてくれた。


差出人の名前はない……。


『メリアちゃん、修道院の改修をしてくれてありがとう。とても感謝しているわ。嬉しすぎてつい祝福を送っちゃった♪いろいろあって大変でしょうけど頑張ってね。メリアちゃんのお父様もなんとかなるから、諦めないでね。 by 女神様より』


 手紙を読み終えると、以前と同じように手紙がヒラヒラと天にのぼりすぅっと消えていった。


 女神様も意外と律儀なところがあるのね。


 私はお父様を目覚めさせるため、賢者様の書物を読んで日々研究をしている。


 古い文字はすでになんとか読めるようになっている。


 賢者様は、聖属性の魔法についてよく研究されていたみたいだ。


 一番最後のページには懐かしい文字が刻まれていた『頑張れ!』という日本語の文字だった。


 賢者様も転生者だったのかしら……。


 いつか他の転生者が読むと思って書かれたのかしら、不思議ですわね。


 賢者様の書物を読んでいると、ノックをしてセリアが私の部屋に入ってきた。


「メリア様、王宮の使いのものから伝令書をお預かりしてまいりました」


「セリア、ありがとう」


 私は、伝令書をセリアから受け取り目を通す。


『メリア執務官代理、異常事態が発生しました。直ちに王宮へお越し下さい』


 私は、急いで王宮の制服に着替え王宮へ向かって馬車を走らせた。


 何が起きたというのかしら。


 不安な気持ちを抱えながら私は王宮へ向かうのだった。

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