残念王子と元宰相の大脱走
私は馬車を飛ばしてもらい、王宮へ急ぐ。
王宮へ到着すると、入口にフィーリア騎士団長とノエルが待っていてくれた。
「メリア様!」
「大変お待たせいたしました」
「いえ、メリア執務官代理。急なお呼び出しで申し訳ございません。牢獄までご一緒願います」
私とノエルは、フィーリア騎士団長と一緒に牢獄へ向かった。
牢獄に着くと、驚く光景が広がっていた。
牢獄の壁に穴がいていて、一部の鉄格子が吹き飛んでいたり、一部が熱で溶けていたりしていた。
このような状態で怪我人がいないはずがない。
「メリア執務官代理、ザンネーム王国の王子とグワジール元宰相が特殊工作員の手により脱獄されました。護衛の兵士や投獄されていた者の一部に怪我人が出ております」
亡くなった者がいないことに私は少しホッとした。
牢獄に開けられた穴は近くの林付近まで続いていると報告を受けた。
深夜の捜索は困難を極めていて行方が掴めないようだ。
「深夜での捜索で逃亡者を捕らえるのは難しいでしょうね」
「申し訳ございません。みすみす大罪人を逃してしまいました」
「フィーリア騎士団長の責任ではございません。そんなにご自分を責めないでくださいませ」
申し訳なさと悔しさでフィーリア騎士団長は頭をなかなか上げられなかった。
わからなくもない。
極刑が決まっていた者と外交のカードとしての捕虜に逃げられたのだからショックは大きい。
それよりも私は怪我人のことが気になった。
「フィーリア騎士団長、怪我人のいる所へ案内していただけますでしょうか?」
「メリア執務官代理、何をされるのでしょうか?」
私は一部の人以外には秘密にしていたことがある。
私は聖属性の魔法が使えるのだ。
今は『ヒール』だけで、他の聖属性の魔法は賢者様の書物で勉強中である。
「行けばわかります。お願いしますわ」
「かしこまりました。ご案内いたします」
フィーリア騎士団長に案内され、怪我を負った兵士がいる医務室に着いた。
軽症者もいれば、重傷者もいた。
「フィーリア騎士団長、人払いをお願いいたします。ノエルは残してかまいません」
「かしこまりました」
医務室から人払いをしてもらい、医務室には私とノエルとフィーリア騎士団長と怪我人しかいなくなった。
私はまず重傷者の兵士に近づいて手をかざす。
『ヒール』
兵士は金色の光に包まれ怪我がみるみる消えていく。
光が消えると兵士はすぅすぅと安定した息遣いになった。
意識はまだ戻っていないが、一晩休ませてあげれば動けるようになるだろう。
「聖女様だ……」
一部の兵士が呟いた。
他の人たちも驚いた顔をしていた。
そうなりますわよね。
私は黙々と一人、また一人と怪我人を回復させていった。
損失した箇所も復元できるほどの回復魔法だったことに自分のことながら驚いた。
今まではちょっとした火傷や疲労を回復させてあげるために使っていたため、ここまでの効力があるとは思ってもいなかった。
「今日の出来事は口外禁止でお願いいたします」
「かしこまりました。ですが、国王陛下にはご報告が必要かと思います」
「ええ、そちらは結構でございます。あと、投獄されていた者たちの所へも案内してください」
「犯罪者にも手を差し伸べられるのですか?」
「ええ、怪我人は区別なく助けます。回復されたら再び牢獄へ戻せばよろしいでしょう?」
牢獄にいた怪我人のいる医務室へいき、同じように一人ずつ回復魔法で回復させていった。
その中に一人だけ密入国で捕まえた捕虜がいた。
「私のような犯罪者にまでも……本当にありがとうございます」
捕虜から涙ながらに感謝され、ザンネーム王国の情報をわかる範囲で提供してもらった。
ザンネーム王国の特殊部隊が助けたのは王子とグワジール元宰相だけだ。
他の兵士は見捨てられ、無事だった捕虜たちは絶望して牢獄の中で縮こまっていた。
私とノエルは騎士団の仮眠室を借りて、鳥たちが活動できる明け方まで仮眠をとることにした。
明け方になると私とノエルは外に出る。
すると、一羽の鳥がノエルの元にやってきた。
名前はクックルちゃんだ。
クックルと鳴くのでクックルちゃんと名づけた。
安直でごめんあそばせ。
「クックルちゃん、残念王子とグワジール元宰相の行方を探してもらえるかな?」
ノエルがクックルちゃんに話しかける。
「クックルー!」
クックルちゃんが返事をして飛び立つと、複数の鳥が群れをなして飛び立っていった。
朝焼けに飛び立つ鳥たちの姿が幻想的ですわ。
しばらくすると、クックルちゃんが戻ってきてノエルに報告をする。
お礼のエサをあげると「クックルー!」と鳴いて戻っていった。
クックルちゃんの情報によると、残念王子たちは以前に潜んでいた山小屋に向かっているそうだ。
私たちは急いでフィーリア騎士団長のところへ報告へ向かった。
「フィーリア騎士団長、脱獄した者たちの行方がわかりました」
「メリア執務官代理、ありがとうございます」
「礼なら、ノエルに言ってあげてくださいませ。それよりも報告が先ですわ」
私はフィーリア騎士団長に残念王子たちの行き先を教えた。
フィーリア騎士団長は騎士たちに山小屋へ調査へ行くように指示を出した。
2、3時間後、騎士団が戻ってきて報告をしてくれた。
山小屋に着いたがすでにもぬけの殻だったそうだ。
アリスが剣技で山小屋を吹き飛ばした。
騎士たちは地面に穴があり、地下に続いていたのを発見した。
穴はザンネーム王国に通ずるトンネルと繋がっていた。
トンネルを掘った時に使われた道具があちらこちらに放置されていた。
しかも、平民を酷使していたようで、亡くなった平民らしき遺体が放置されていた。
調査後、土属性の魔法を使える騎士が魔法でトンネルや穴を全て埋めてくれたようだ。
亡くなった方々の簡易の墓標を作って、しっかりと供養もしてくれたようだ。
「メリア執務官代理、申し訳ございません。逃亡者はザンネーム王国に逃げられてしまいました」
「いいえ、あのような隠し通路が作られていたとは予想外でした。結果的にアリスのお陰でザンネーム王国の密入国手段を一つ消せたことで良しとしましょう」
残念王子とグワジール元宰相がザンネーム王国に合流したところで、さほど役には立たないでしょう。
一番懸念することは、グワジール元宰相が私たちへの恨みを上乗せしてザンネーム王国がサイネリア王国へ兵を差し向けてくることでしょうね。
「フィーリア騎士団長、私たちはこれで失礼させていただきます。明日また今後の懸念について話し合いましょう」
「かしこまりました。昨晩からご助力をいただき、誠にありがとうございました」
私とノエルはほとんど寝ていないので早めに帰宅することにした。
残念王子とグワジール元宰相に逃げられていなくても同じことが起きるでしょう。
今回の事件でザンネーム王国への警戒心を再度認識できたことは良かったと思っている。
防衛体制などいろいろと計画を立てなければいけませんわね……。
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