サイネリア王国の艦の建造とサクラの木

 サーマの港の造船所建設計画の前倒しを指示をして数ヶ月後、造船所が完成したとの報告が上がってきた。


 私とノエルはサーマの街と造船所の視察をすることになった。


 私たちは、馬車に乗り数時間かけて王都からサーマの街に移動した。


 サーマの街に着くと、観光地化計画も順調に進みとても綺麗な街並みになっているのが見えた。


 川や海では貿易船が行き来していて、港には数隻の他国の船が停泊していた。


「メリア様、とても綺麗な街並みでございますね」


「王国の民、みんなが頑張ってくれたお陰ですわ」


 久しぶりに浴びた潮風はとても気持ちよかった。


 観光客も増えて街が賑やかになっている。


 春先は絶望しかなかった王国がここまで回復できてとても嬉しいですわ。


「では、ノエル。私たちはかんこ……いえ、街の様子を視察いたしましょう」


「はい、メリア様」


 私とノエルは、視察という名目でサーマの街の様子を見てまわった。


 以前に視察に来た時はほとんどの店が閉まっていて人通りもなかった。


 今はいろんな種類のお店が開いていて、観光客も増えて住人に笑顔が戻っていた。


「メリア様、とっても活気があって素晴らしいですわ」


「ええ、以前とは大違いですわね」


 港近くの露店では、サーマ名物の石焼き芋を売っていた。


 私は行列に並んで石焼き芋2本を買って、ノエルと一緒に食べることにした。 


 休める場所として、いたるところにベンチが設置されている。


 私とノエルは空いてるベンチに座り石焼き芋を食べる。


「メリアしゃま、ほっぺたが落ちましゅわ」


 ノエル、食べながらしゃべるのはやめてくださいませ、私が萌え苦しみますわ。


「ほくほくの焼き芋が……ほくほく」


 私も口の中が熱くて上手くしゃべれませんわ。


 絶妙なふわとろ感とほどよい甘さ、焼けたイモの皮の苦味が良いアクセントになっている。


 たまりませんわ。



 私たちは石焼き芋を食べ終わると、本題の造船所へ向かうことにした。


 造船所に着くと、あまりの大きな建物にびっくりした。


 造船所の中は大きな船が2隻分は入る広さだった。


 今回は1隻だけ建造することになっている。


「メリア様、お待ちしておりました」


「カーナ、皆様、ごきげんよう」


 カーナと魔法工学研究所の人たちが出迎えてくれた。


 これから造船所関係者と共同でサイネリア王国を象徴とする船を建造する。


 完成は次の春以降の予定だ。


 船の基本設計は専門家に任せて、魔法工学で補う部分はカーナたちが引き受けることになっている。


「カーナ、船の設計はどうなっておりますか?」


「はい、設計図は完成しております。魔法工学研究所が担当する箇所なども船の設計士としっかりと連携できて問題はございません」


 基本的にカーナたちが担当するのは、主砲などの武装部分と動力部分になる。

 

 動力部分は船の設計士に船の仕組みを教えてもらい、魔動トロッコなどの技術を応用して製作する予定になっている。


 主砲などの武装に関しては魔法と組み合わせて使う仕組みになるらしい。


「カーナ、ものすごい船になりそうですわね」


「はい、魔法工学のすいを集めて王国の象徴として相応しい船を建造してみせます!」


 やりすぎ注意という意味だったのだけど……。


「メリア様、船の名前はどういたしましょうか? メリア号はいかがでしょうか?」


「それは著作権的に……」


「メリア様、チョサクケンとはなんでしょう?」


「いいえ、なんでもございませんわ。船の名前に私の名前を使うのはご遠慮願いますわ」


「そうですか。残念でございます」


 そんなに残念な顔をされてもダメですわ。


 一文字違えば完全にアウトですわ。


 ひとのことは言えませんが、カーナのネーミングセンスも厳しいですわね。


「カーナ、名前は船の完成までに私が考えておきますわ」


「かしこまりました。メリア様、よろしくお願いいたします」


 私が考えると言ったけど、どうしましょう。


 悩みの種が増えましたわね。


「それでは、カーナ。これで失礼いたしますわ。しばらくサーマの街に滞在することになりますけど、よろしくお願いいたしますわ」


「はい、かしこまりました。メリア様の考案された石焼き芋が美味しくて毎日食べられて幸せでございます」


「あら、あまり食べすぎるとアレに困りますわよ。おほほほ」


 カーナが「アレとはなんだろう」と呟きながら首をかしげた。


 いずれわかりますわ……。


 そして、私たちはカーナたちに見送られながらサーマの街を出発した。

 



 数時間かけて王宮の執務室に戻ると、部下から私は伝言をもらった。


 ミリーナが私に報告したいことがあるらしい。


「ノエル、王宮植物研究所に行ってまいりますわ」


「はい、メリア様。いってらっしゃいませ」


 私は執務室を出て王宮植物研究所に向かう。


 何があるのかしら?


 私が王宮植物研究所に着くと、ミリーナが早く伝えたくてたまらないという顔をしていた。


 私はミリーナに温室栽培をしている区画まで案内された。


 そこには淡いピンク色の花が咲く木が1本だけ立っていた。


 日本の桜とは形が少し違ったが「サクラ」だ。


「サクラですわ。ミリーナ、いつの間に?」


 私は感激のあまり涙が止まらなかった。


 サクラ並木を作りたいという夢だけではなく、前世の淡い記憶も、この世界の幼い私の記憶もいっぱいよみがえってきたからだ。


 ミリーナは柔らかい微笑みで私を見つめる。


「ミリーナ、本当にありがとう。ものすごく大変だったでしょう?」


「いいえ、メリア様がたくさん私を教え導いてくださったからこそ実現できました」


 私はミリーナに抱きついて何度も「ありがとう」と呟いた。


「サクラの木の苗木も20本ほど用意がございます。メリア様の夢が叶えられますわね」


 こんなに早く夢が叶うとは思ってもいなかった。


「ミリーナ。何度も言うけど、ありがとう」

 


 私は後日、人を集めてサクラの木の苗木を植えることにした。


 次の春にはミリーナの開発した肥料のお陰でサクラが咲くようになるらしい。


 お父様と一緒にサクラ並木を歩けるように聖属性魔法の研究を頑張りますわ。

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