第5話 瑕疵

「おはようございます。先輩」


「お!おはよう。小野寺。毎日早く来てて偉いよなぁ」


「いやいや、先輩の方が早いじゃないですか」


 椅子を引いて、机に荷物を置きながら座る。昼間、会社で働いてるときはいい先輩がいて、仕事も自分で言うのもなんだが、割とできて、上司からも信頼されている。あれさえなければ、年齢の割に結構充実した生活だと思う。


「来週の企画書、課長に提出してきますね」


「おう!健闘を祈る! 」 


いってきます。と答え、少し考えながら歩く。

 自分の長所は、自分自身のことを客観的に見て考え、行動できるところだと思う。短所は、

                    

「おや、小野寺君。いいところに。これ次のだよ」


…また、か。ずんぐりとした仲介役の中年の男が、封筒を差し出してくる。


「今回は、随分とまわりが早いですね。前回はつい1週間前でしょう」 


…短所は、自分の感情で行動できないこと。


「君なんかに話すと思うかね?君はただ、何も考えずに、仕事をしていればいいんだから。しかしまあ、こんな若いのに金が有り余るほどあるなんて、羨ましいよ」


睨まないよう、気をつける。ため息もつかない方がいい。あまり、喜ぶようなことをしたくない。


「…報酬、忘れないでくださいよ、とお伝えください。では」


 それでも、久しぶりに、感情で動くことができた。先日ひょんなことから引き取ってしまった死にたがりの女子高生は、どうしても見過ごせなかった。いずれ彼女を巻き込んでしまうことはわかっていたのに、だ。感情で動くことはデメリットの方が大きい。罪滅ぼしができるとは思ってない。ただのエゴだ。これは。自分でもわかってるつもりだ。

彼女をどうにか、巻き込まない。これが今の1番の課題だ。



「今日、午後から出張なの覚えてるよな? 」


 全く喋らないことが疲れるのか、たまに話題を振ってくる。


「もちろんですよ。というか、忘れるわけないじゃないですか。今度の企画をやってくれる会社との会議ですよね? 」


「ああ、そうそう。ま、お前がいればなんとかなるだろ」


「買い被りすぎですよ……」


ありがたいことに、企画は順調に進んでいて、なんの問題もなく、会議は終わった。

そのまま帰れるというので、いつもよりだいぶ早いが、帰れることにした。


 家に着いても誰もいなかった。澪依華は今日はバイトはないと言っていたから、てっきりいるもんだと思っていた。まだ、日も暮れてないし、高校生だし、寄り道くらい当たり前か。

 着替えて、ソファに寝転ぶ。疲れた。先刻、渡された封筒にはUSBが入っており、中を見ると、日時が書いてあった。やりたくない。もう逃れようのないものだ。本当に疲れる。


 

 「…ゅう。秀!ご飯だよ!起きて〜! 」


「ん…?あ、おかえり。今日の夕ご飯何? 」


寝てしまっていたのか。もう、外は日は暮れて真っ暗になっている。


「ふっふっふ。今日は親子丼ですっ! 」


起き上がって、席に着く。


「ふぅん。美味しそうだね。いただきます。」


このまま、何も起きないことを願った。

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