第二部 6話 ギャルの一歩



「んーーーーよし!」


 念の為の入院も終わって、漸くっていうか、久しぶりの学校。

 毎日行ってた様なトコに何日か行ってないだけで、ちょっと緊張するのは、昔から変わんない気がする。


「エアコン調子悪いけど、せっかく放課後好きに使える家庭科室があんだから、休んでちゃ勿体ないもん………!あ」


「おはようございます。裕美子さん」


「う、うん。おはよう壱正」


 気合い入れ直したと思ったら、バッタリ朝から駐輪場で壱正と会った。

 ちょっと面食らっちゃったケド、言う事言わなきゃ。


「あのさ「良かった。元気になって…」う、うん……ありがとう」


 心底ホッとした様な顔で安心してる壱正。 

 やっぱり、心配掛けちゃったよね。

 そういう所気にし過ぎな位気にするのが、壱正だもんな。


「すいません。僕が……」


「それは言いっこ無しだぞ。壱正。寧ろ、一日だけの入院で済んだのは、壱正が見舞いに来てくれたからだと思う」


「そんな…」


「ううん。マジだって。最近店も、家の中もめちゃくちゃ忙しなかったから。気が抜けるトコ全然無い中で、壱正来てくれたんだもん。ホントに助かったよ」


「ど、どういたしまして」


「ん!」


 こんくらい言わないと、また抱え込んじゃうからさ。

 人に対しては、自信つけさす様な事、直ぐにポンポン言えるのに、自分に対しては、どうにも自信が持てないのが、壱正だから。


「じゃあ今日も「おっはよ〜!イッチー!」ほら、今日も騒がしいぞ?」


「で、ですね」


「なんの話しとんじゃーい。レビルとデギンでコッソリ停戦協定かぁ〜?」


「教えねーし」


「お、裕美子の独占欲出たコレ!」


「後10年はコレで戦えるな」


 そんな事言って乳を軽々しく乗せて壱正に密着してんのはお前らだろって言いたくなるけど。

 多分、昨日色々とアタシ等二人に気を利かせてくれたのは真白と姫奈なのは良く分かってる訳で、今日はちょっとだけ、くっ付き過ぎでも良い……って事にーーー。


「ってこの暑い日に直で谷間に腕挟ませんなーーー!!!」


ーーーは、させらんないわ。コレ。




ーーーーーーーー




「お、揃ってるな」


『………』


 放課後、今日から三日ぶりに四人揃っての家政部活動……かと思ったら、いきなり直ぐに家庭科室入って来た、青戸センセ。

 アタシも真白も姫奈も、壱正までも固まってた。


「おい!顧問が来たんだから挨拶ぐらいせんか!」


「いやだってさぁ」


「初っ端玲香ちゃん来るとは思わんじゃん」


「どうしたんセンセ?具合悪い?」


「御三方に同じです」


 壱正合わせて四連続ボケかましてるけど、そもそも青戸センセは来る事も稀で、部活開始時に来るなんて初めて過ぎて、超ビックリなアタシ達。寧ろ心配になる。


「まったくどんだけ不良顧問だと思われてるんだ私は……まぁいいや」


「いいんだ…」


「というかまぁ、そこそこに良い知らせかもしれんが、先ずコレだ」


『?……!』


 センセが小さい雑誌みたいなの出す。

 ていうかウチの市の広報誌だった。

 アタシんちの店でも新聞と一緒に置いてある広報だけど、ここら辺の街だと唯一フルカラーで作ってて、妙に拘りがあるっぽい。


 そん中に、載ってた先月のイベント、展覧会のページ。

 1ページの下半分だけだけど、イベントの様子が書かれた文と、出店の写真が載ってて。


「おぉ〜。ウチ等ココにちっこくいんじゃん」


「ドコよ?……あーマジだ!いるわ!裕美子の黒ギャルボディで良くわかる!」


「ボディ言うな。てか二人の髪形でもわかるし」


 アタシ達の一列向こうの出店から撮った写真だけど、丁度隙間の所から抜けて、三人写ってた。

 それと……その更に、右の奥に。


「イッチ「いるよ。ホラ」あ!マジだトンガリヘルメットぉ!」


「えっと……コレ…僕ですか?」


「そ〜だぜいっくん〜。バイクぶっ飛ばしてやって来て包丁届けたトコなぁ〜」


「っ…(全部説明された…見つけたのアタシなのに…)ホラ、ここの角に壱正のバイク写ってんしょ」


「あ!ホントだ!こうやって見ると会場の真正面に乗り付けてますね僕……恥ずかしいな…」


 恥ずかしくたってなんだって、壱正のお陰で成功出来たイベントなんだから、もっと胸張って良いんだぞ。

 でも、こういう時に調子乗らない、謙虚な所が、アタシは気に入ってるから、それでいい。


「いやー遂にあーし等も全国デビューか」


「あとあと価値が出るやつな〜。素人時代の貴重な写真」


「規模広げんのはえーって」


「でも、皆さん良い顔で写ってますね」


「壱正もだよ」


「僕はヘルメットで「壱正も」裕美子さん…」


 写真じゃ見えないけど、あの時はヘルメットの奥の顔がハッキリ見えたの、アタシは知ってるから。

 その瞬間の写真ってんなら、見えなくたって、それが写ってるって事だもん。


「写真見てイチャラブすんのは同棲してからにしろよ」


「んだんだ」


「そろそろ良いか?お前ら」


 センセ含めて三人に見られてる。

 別に変な空気にしたつもりは無いんだけど……ちょっと目が、合わさっちゃっただけだし。


「とりあえずこうやって公共の広報誌に取り扱ってくれた事で、この家政部もしっかり部活になった訳だ」


「あ、ホントだ。ちゃんとこの万葉高校の家政部って書いてありますね」


「うむ。そしてそれに伴い、良いニュースがある」


「玲香ちゃん。悪いニュース先に言ってくんね?あーしその方が気が楽だわ」


「黄山、別にこういうのは良い方しか言わない時だってあるんだよ」


「そ〜なん」


 でもアタシも正直、悪い方のニュースも来るかななんて、身構えたりしちゃった。ちょっと恥ずかし。


「先ず一つ。この家政部は、学校からの認可があり、行政にも認知されたから、問い合わせは学校をちゃんと通せと正式に出れる。不躾な来客はバンバンコッチに言えよ。黒井」


「センセ……」


「裕美子さん」


「うん。良かったよ。壱正」


 壱正も、安心した様に微笑んでくれた。

 昨日の真白と姫奈の話からしても、大分思い詰めてる気がしてたから、これで漸く壱正も奥歯に挟まったモノが取れたかな。


「そしてもう一つ。コレは…良いニュース……かは、お前等によるが」


「おろ?ティターンズ発足?」


「分かんねーけどソレ悪いニュースだろ姫奈。でもちょっとワクワクすんな」


「もしかして、僕のバイク関係で何か手間を取らせて…?」


「大丈夫だよ壱正。心配するなって。真白煽んなし」


 でも青戸センセの顔はなんかカタイな。

 本当に悪目立ちしたとかじゃないなら、良いんだけど。


「まぁ聞け。この学校は、夏休み始めの一週間、近隣の中学校との部活動交流会をしている」


「そんなんあるん?」


「そうだ紅林。中学生達がこの万葉高校に来て、高校生に手解きを受ける……まぁぶっちゃけた話シゴかれる、体育会系のイベントだ」


「昭和かよ?」


「とはいえそれでそこそこ大会なりで成果が出てるから続いてるんだよ。とまぁソッチは我々に関係ないが…」


 そんなん言いながらバインダーから紙をゴソゴソ取り出すセンセ。

 てかバインダーみたいな部活の事務で使いそうなモノも、殆ど持って来ないくらい珍しいから、なんか違和感。


「今年度から文化系部活動にもその交流会の幅が広がってな。手始めに吹奏楽部、美術部、そして……我々家政部が選ばれたんだ」


『!?』


「いやいや、同好会から部活になったばっかのトコにいきなりやらすかー?」


「カラバとエゥーゴは微妙にちげ〜んだが」


「注目度が高くなったからな、押しに推されてだ」


「裕美子さん……どう思います?」


 壱正は訝しんでる。

 アタシでも何となく分かる。盛り上げる対象を、アタシ一人から学校の方へシフトして、話題作りしようっていう腹積りなんだろうな。

 

「うーん…まぁ確かに、良い様に利用されてる感は強い」


「それな」


「同意〜」


「だけど、やるわ。センセ」


「裕美子さん…!」


 結構驚いてる顔の壱正。 

 でも、やろうと思う。

 何せ、その理由の原動力がーーー。


「うむ。黒井ならそう言うと思ったよ」



ーーーーーーーーーー






「壱正、今日弁当作って来られなかったから、おにぎり食べるか?」

 

「あっ!ありがとうございます」


 そのままその日は解散して、真白さんと姫奈さんがさっさと帰っちゃって、裕美子さんと二人、バイク押しながらの帰り道。

 日は大分沈んで来たけど、まだまだ暑い。


「!シャケと高菜ですね。ちょっとピリッとしてて美味しいです!」


「シャケは甘鮭だから丁度良いかなって」


「すみません。病み上がりなのに…」


「だから気にすんなって。やっぱりアタシは、料理してた方が調子良いしさ。てか、今の壱正のリアクションで本当に調子戻ったよ」


 裕美子さんは、僕はいつも美味しそうに食べるなって褒めてくれるけど、僕にとっては本当に美味しいから顔に出てるだけだ。

 だけど、そんな顔した僕を見る裕美子さんが、笑顔になるのが嬉しいから、僕も美味しいものを、おいしく食べるだけなんだ。


「あの……裕美子さん。さっきの話なんですけど」


「?あぁ……アレ」


「はい。お店の事もありましたし」


「まぁアタシもさ、学校に良い様にされてるとは、勿論思うよ?」


「…」


「でもさ、ウチに勝手に大人が取材来るとかじゃなくて、中学生の、歳下の子らがさ、来るって思ったらさ」


 裕美子さんは、とても面倒見の良い人だから、歳下の子達にも教えるのは上手いと思う。

 ていうか、僕なんかを気に掛けてくれるんだから、中学生の女の子とかなら、ピッタリだろな。


「もしかしたら、やりたい事とか、やってみたい事、上手く挑戦出来ねー子らも、居るかもしんないじゃん?そういう子らにキッカケを与えられたらなーー…なんて、柄にも無く思った。そんだけ」


「!………素敵です。凄く、凄く裕美子さんらしいと思います!」


「何だよアタシらしいって、こんな小っ恥ずかしい事言うのがアタシらしいってか?」


「あーそうじゃなくて〜!」


 う、上手く説明出来ないけど、自分の持ってるモノを、次の子達に優しく渡してあげられそうな……うーんやっぱり難しいな。たはは…。


「そう思えたのは、壱正のお陰だよ?」


「へっ?」


「壱正が、何のしがらみも持たないで、思ったまんま、アタシ達に伝えてくれたから、アタシも…そういう風な事、出来るかもなーって、思っただけ」


「裕美子さん…」


「それで、ソレ乗って、アタシ達の為に、めっちゃ身体張るんだからさ…そんなん、絶対影響受けちゃうよ。壱正」


 隣を見れば、裕美子さんの真っ直ぐな瞳。

 綺麗に染まってる銀髪が、夕陽にキラキラ輝いて。

 でもそれ以上に光って見える、眩しい眼差しだった。


「ありがとう………」


「っ………」


 眼が、離れられなかった。

 吸い込まれるみたいに、お互い、距離が近付いてったと思う。

 その目も、段々閉じられてって、近付くごとに、彼女の優しくて、甘い香りが、心を震わせて。


 僕達はーーーーー。















「《prrrrrrrrrrr》っ……ゴメン」


「あぁいえ!!電話出て下さい!」


「うん……もしもし?あ、おばあちゃんか。何?」


「……」


 反対方向を向く裕美子さん。

 多分太陽じゃなくて、日焼けしたほっぺが、赤かった。

 でも、それは、僕も鏡見たら、おんなじなんだろうな。
















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「えー皆さんは2年生ですので、万葉高校との部活動交流会が今年はあります。運動部はそのままシフトしますが、文化部、及び帰宅部の生徒は、木曜日までに希望届を出して下さいね」


 ホームルームの最後に、担任の先生がそんな事言って、そのままバラバラに解散。

 部活行く子はそのまま直行してるし、帰宅部の子は残ったり帰ったり色々。

 私も普段はこのまま自転車乗って帰る所だけど……。


「玲奈ー、希望書いたー?」


「ナミちゃんは?ってそのままテニスか」


「まーね。でも万葉のテニス、軟式鬼厳しいからヤなんだよなぁ」


 クラスメイトで友達のナミちゃん、佐山香奈美ちゃんは、部活は程よく不真面目だから、直ぐには行かなくて、毎日何分か駄弁ってから帰る。

 でもお陰で?帰宅部の私とも仲良くしてくれるんだ。


「てか玲奈はどーすんの?絵上手いし美術とか?」


「うーん知らない高校生の前で描くの緊張するよね」


「それな〜やってないのもやってないで辛みよな」


「ねー………!(あれ、コレって…)」


 相槌を打つ私の目に留まった、《家政部》の文字。

 同時に、私は昨日会った幼馴染のお兄ちゃんの制服も、思い出して。

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