第二部 5話 ギャルの一回休み

〜〜〜〜〜


「おぉ、壱正ももう中学生だなぁ」


「お祝いだから沢山食べてね壱正ちゃん」


 えっと確か…小学六年生の春休み…かな。

 おじいちゃんとおばあちゃんに中学の制服姿を見せに、こっちに来た時だったな。


「う、うん。ありがとうおばあちゃん」


「もーお母さんこんなに食べきれないわよ」


「大丈夫食べられるよ!」


「あらありがとうね壱正ちゃん。おばあちゃん張り切り過ぎちゃって《♪〜》あらお客さんね」


「僕行ってくるね!」


「あぁいいのよー!ありがとうねぇ」


 この頃からやたらと張り切り過ぎる生活だったなぁ僕。

 勿論、転校が多くて、中々友達が出来なかったから、何か人の役に立てれば、仲良くなれるかもってのが、ずっと心にあったんだろうけど。





「はい…あ、えっと…」


「こんにちは。回覧板持ってきました…壱正お兄ちゃん?」


「うん。玲奈ちゃんだよね?」


「そうだよ。壱正お兄ちゃん帰ってきてたんだ」


 玄関開けると、僕より二つくらい下の、ショートカットの活発そうな女の子が一人。

 おじいちゃん家の近所(って言っても山あいの家だから300メートル位離れてるんだけど)の子、美鳥玲奈(みどりれな)ちゃんが居た。


「うん。久しぶり」


「お兄ちゃん、中学生だっけ?」


「来月からね。おじいちゃんおばあちゃんが制服見たいって言ってさ。こっち来たんだ。玲奈ちゃんは?」


「私は今小4だよ」


「そっか……あ、自転車で来たんだね!」


「そうだよ。もうどこまででも乗れるんだから」


「あははは。ごめんごめん」


 玲奈ちゃんは、去年辺り、小学校三年生位まで自転車に乗れなくて、その練習を、僕が見てたりしてた。

 僕はというとその頃はもう仮面ライダー大好き小僧だったから、将来オートバイに乗る為にも先ず自転車に乗ろうっていう、変な所アクティブな部分があっただけに。


「もー……でも、ありがとう。お兄ちゃんのお陰で友達と色んなとこ遊びに行けるよ」


「……そっか。良かったね。友達、沢山いるんだ」


「うん!」


 その報告が、嬉しくもあり、僕にとっては少し、羨ましくもあり。

 だけど少なくとも、コッチに帰って来た時だけは気軽に話せる、ちょっと歳下の、女の子の友達って感じだったんだ。








〜〜〜〜〜〜




「もしかしなくても……玲奈ちゃん?」


「そうだよ。やっぱり壱正お兄ちゃんだ」


 ヘルメットを取って、顔全部見せてくれる女の子。

 ショートカットの髪はボブカット?位までは伸びてて、大分変わってた。

顔つきは、ちょっと垂れ目気味だけど、ぱっちりした優しい目で、少し大人びたとはいえ、やっぱり玲奈ちゃんのままだった。


「わぁ久しぶり〜」


「そのなんか、のほほんとした感じお兄ちゃん変わらないね」


「そうかな?玲奈ちゃんは制服だと分かんなかったよ」


「だってもう中二だもん。ランドセル背負ってた頃と違うよー」


 なんて言いながら朗らかに笑う玲奈ちゃん。

 笑った顔はあんまりっていうか、全然変わらないけど、年頃の女の子に言うと機嫌損ねちゃうかもだからやめとこ。



「それもそだね……あれ、でも玲奈ちゃん確かウチのおじいちゃん家の…」


「うん。実は中学に上がる前にコッチの街引っ越したんだ。」


「そういうことか〜。だから話を聞かなかったんだ」


「?ていうか、お兄ちゃんその制服…」


「うん。実はおじいちゃん家に引っ越して来て、今あそこの高校通ってるんだ」


「え、そうなの!?」


 大分驚いた顔した玲奈ちゃん。 

 確かにこっちに遊びに来た事こそ何度もあるけれど、引っ越して定住した事は一度も無かっただけに、意外だったかな。


「うん。母さんの会社の本社が近くだから、漸く落ち着ける所に住めそうだよ」


「そうなんだ……なんだ。引っ越さなきゃ良かったな」


「え?なんで?」


「ううんなんでもない。ていうかあのバイク壱正お兄ちゃんの?」


「うん。コッチまでは自転車じゃ遠過ぎるからね」


「そっか。まだ仮面ライダーになりたがってるのかと思った。あははは」


「それは…あははははは」


 ゼロ…でも無い気もする…。

 いや、実際にではなくて、こう、概念的?みたいな感じだけど…さ。


「別にそれでも良いけどね。だからまた、こうやって会えたのかもしんないし」


「工具はあったのは良かったね。バイクには積んであるモノだから良かったよ」


「そっか……ありがとお兄ちゃん。やっぱり変わらないね」


「?…って何処らへんが「ねぇ、ライン交換しよ?」あ、うん。良いけど」


 スッと玲奈ちゃんのポケットから可愛いピンクのカバーの付いたスマホが出て来る。

 あの頃は長閑な田舎だったから携帯も要らなくて、たまごっちで遊んでた玲奈ちゃんも、成長したんだなあなんて、おじさんみたく思ったりしてしまった。


「………はい。じゃあ後で私送るね!」


「うん。いつでもいいよ」


「……ちなみになんだけどさ、壱正お兄ちゃんはか「あ!もう大分日が沈んで来てる!帰らないとだ!送るよ玲奈ちゃん!」あ、うんありがとう」


「距離はどれくらい?」


「後1キロくらいかな?」


「わかった。後ろからノロノロ照らしてくから、前走ってて」


「えっ、あぁ…うん」


 ちょっと気分が一段下がった様な表情になった玲奈ちゃん。

 でも中学生を真っ暗な中帰らす訳にはいかないから、川沿いの人の少ない所なら、少しの間伴走してってあげた方が、バイクのライトで前も明るくて良いよね。



ーーーーーーーーーー



「ママただいまー」


「あら玲奈お帰りなさい。ちょっと遅かったわね」


 壱正お兄ちゃんのバイクに前照らして貰いながら、住宅街入る手前で別れた。

 お陰で日が沈み切る前くらいに帰って来られて良かった。

 ここら辺も、夜は真っ暗だから。


「あ、うん。自転車でコケてさ、チェーン外れちゃって」


「えっ、ちょっと大丈夫なの!?」


「怪我は無いよ大丈夫」


「そう…でもチェーン外れてずっと押して来たの?」


「それがさ、助けてくれた人がいて」


「あら良かったわね〜」


「ビックリしたよ。壱正お兄ちゃんだった」


「……え!?あの、結城さんちの壱正くん!?」


「そう。お兄ちゃん、おじいちゃんおばあちゃんのウチ引っ越して来たんだってさ」


「あらやだそうだったの〜!もうお父さん達も教えてくれれば良いのに〜」


 私よりもビックリした顔で、でもおんなじ様に懐かしむ顔をしてた。

 普段何気なく帰ってくる道と家が、何時もよりちょっと明るい気がしたな。









「…よし」


 意を決して、友だち登録して。

 後は…。


【登録したよー。よろしくね!】


 最初から軽過ぎない方が良いかな…。

 お兄ちゃん、どういうタイプだろ。

 ていうか、顔は、昔から変わんない童顔だけど、なんていうかちょっと、男らしいっていうか、頼り甲斐のある顔っていうか。

 結構……カッコよくなってたな。


「!あ、来た…」



《ありがとう!これからよろしくね!玲奈ちゃん(^ω^)》


「あ、結構返信早いし、こういう所マメだよね昔から…」


【こっちこそありがとう。お兄ちゃんのおかげで凄く助かったよ!】


《本当はもっと早く直せれば良かったんだけどね!》


【ううん。お兄ちゃん来なかったら一人で押して帰ってたもん。本当にありがとう。送ってくれたのも嬉しかった!】


《女の子一人で帰せないよ〜!》


「っ…」


 お兄ちゃんはチャラチャラしてる訳じゃないんだけど、昔から優男?みたいな所があって、恥ずかしそうな女の子扱いする言葉を、平気で言っちゃう所がある。


【お兄ちゃんは相変わらず優しいね】


《そうかな?》


【うん。遊んでるといつも助けてくれたじゃん。今日みたいに】




《それは…たまたま僕が出来る事があっただけだよ》


【相変わらず遠慮がちだねお兄ちゃんは】







《遠慮なんかしてないよ。いつもたまたま、どうにかなってただけなんだ》


「………あれ」


 少し、返信のタイミングが遅くなってるし、ちょっと文面から元気が無くなって来た気もする。

 なんだろ。なんか地雷踏んじゃった…かな?


「どうしよ…嫌な気分にさせたくは無いけど……うん」


【そういえば、お兄ちゃんは今日なんであそこにいたの?】


「既読……ついた。返信…来るかな」


 ちょっととぼけたフリで送ってみて、良くないとは思うけど、何か思うところあるなら、三年ぶりだもん。聞いてみたいな。


《ちょっと、部活の事で考え事してて、なんとなく下校中に寄り道して、あそこらへん走ってたら、良い感じのあずまやがあったからさ》


「!部活…やってるんだ」


 あんまりスポーツとかめっちゃ得意って感じでも無かったけど、なんだろ。

 バイク関係とかかな?高校の部活ってよくわかんないけど…。


【部活入ったんだね!何部か聞いていい?】


《えっと……家政部なんだ》


「かせっ…家政部って、あの」


【お裁縫とか、料理とかの?】


《うん。ちょっと意外だよねやっぱり》


 確かに凄くっていうか、めちゃくちゃ意外だけど、お兄ちゃんがその部活の事で真剣に悩んでるっぽいから、からかっちゃいけないやつだ。


【バイクとか家政部とか色々チャレンジするんだねお兄ちゃん!】


《挑戦しては壁にぶつかってなんだけどね》

《って久しぶりに会った玲奈ちゃんにいきなり愚痴っぽくなっちゃってごめん!》


「こうやって人に気遣うのも壱正お兄ちゃんらしいな……」


 お兄ちゃんは転校が多い人で、友達も中々出来なくて悩んでたっぽいのは、おじいちゃんおばあちゃんからも何となく伝わってた。

 だから、人の為に何かしようと考えて、それで人がいい気持ちになれたらそれでいいみたいな。

 私に自転車の乗り方教えてくれた時も、そんな感じの人なのが、小さい頃から何となく分かってた。


【ううん。お兄ちゃん、頑張り屋なだけだよ!私知ってるし!】


《ありがとう。玲奈ちゃんは優しいね》


 だから、ちょっと、ここは、望みを、出して。


【そうかな?でも、私、高校の事よくわかんないけど、もしよかったら、いろいろ聞かせて?】




《ありがとう。そうだね。玲奈ちゃんと話すのも久しぶりだしね》


「!……これは…」


 どっちだろう。でも、悪い感触じゃないと思う。

 鬱陶しがられたり、気持ち悪がられたりは…してないよね。多分。

 でもとりあえず今日は、ココまでにしよ。


【うん!私も色々話したいから、また連絡するね!今日は本当にありがとう壱正お兄ちゃん!おやすみなさい!】


《うん。おやすみなさい!》







「ふー…良かった」


 とりあえず、久しぶりの会話っていうか、メールは初めてだけど、大丈夫そうだった。

 でも…あの壱正お兄ちゃんが悩み事か…。


「家政部って言ったら、やっぱり女の子いっぱい居るよね…」


 好きな人…とか、いるのかな

 それかもう…彼女もいるのかな。

 お兄ちゃんに彼女なんて…って思うけど。


「居たら……ちょっとやだなって、私思っちゃってるな」


 だって、今日会って、ううん、今日会ったから、昔から思ってた気持ちが何なのか、分かった気がしたから。

 中学に入ったら、彼氏彼女が普通に居る子も沢山増えて来て。

 でも私はそういう人が欲しいって、今まで思って来た事無かったけど。


 今日、困ってる私に手を差し伸べて、助けてくれて。

 それが、幼馴染の、優しいお兄ちゃんだって知った、あの時。


 多分、私は………。


「壱正お兄ちゃんのこと、好きだってわかっちゃったんだもん……」

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