第二部 4話 ギャルの昔話

「別に入院する様なモンじゃ無いのに…」


 病室のベッドで手持ち無沙汰なアタシ。

 おばあちゃんが運良く昨日の夜帰って来たからか、気が抜けたのか、熱が出て、そのまま病院に来たら入院なんて事になってる。


「おばあちゃんも大袈裟なんだしさー…」


 しっかしやる事無い。

 飾り切りの練習は当たり前にできないし、スマホは未だに死んだまま。

 暇というか……なんか、静かだ。


 と、思ったら。


「ゆみこー」


「死んでるかー!」


「死んでるようっさいなぁ…」


 ノックして返事するより先に入って来る二人。

 相変わらずのデリカシーとかどっかいってる感じが姫奈と真白っぽい。


「ん〜〜程よく死んでるってカンジ?」


「具合どーよ」


「全然大丈夫。おばあちゃんが慌て過ぎなんだよね…」


「しゃーない。孫がぶっ倒れたら年寄りは心臓止まっちまうって」


「ジェネレーター出力は〜大事」


 今の姫奈のはガンダムの心臓の話?なんかどうかはどうでも良いけど、とりあえず二人共、ちょっと心配してそうな顔なのは、分かっちゃった。


「あんがとね。二人共」


「まっこんくらいはな〜」


「あーしら行かんと、イッチー爆走して病院来るだろ?」


「!……壱正…」


 だよ…ね。

 昨日の今日で、こんなんだもん。壱正の事だから、絶対…思い詰めるっつーか、自分が気ぃ遣わせたせいでとか、何か負担掛けたーとか、思うよな…。


「だから〜ウチ等と玲香ちゃんとで暴れ馬をなだめてー、二人だけで来た訳。ほい。差し入れのミロ」


「ホンットに裕美子の事だと血相変えるもんな。今の裕美子みたく」


「!…うるさい…」


 渡された缶のミロを両手で握って、タブのトコ親指でクルクルなぞる。

 冷たい缶なのに、手の熱さであったまって来てる気がした。


「しっかし裕美子がこんなに恋する乙女顔ばっかする様になるとはなー」


「それな〜中学の時の出会った頃とは、まるで別人」


「ちょ、姫奈、その話は止めろし…」


 どっかり座る二人、こりゃ面会時間いっぱいまで居座るつもりだな…。





===============



「そんでさー、昨日のまゆぽんの振りがめっちゃ神っててさー」


「アレは激アツだったよな〜。他の黒髪ロングのツインテールとフリルスカートの揺れる感じがー……!あっ…」


「そこ突っ立ってっと、皆の邪魔だよ」


 言うなり、教室の入り口塞ぐ様に駄弁ってた男子二人は退いた。

 そのままアタシも入る。みんなチラッと見て来るけど、直ぐに戻す。

 相変わらずな、アタシの登校風景。


「黒井…サン、こわくね?」


「怖いっつーか近寄り難いっつーか…てかイマドキ中学からギャルってなぁ…?」





「(聞こえてるっての。中学からギャルファッションで何が悪いんだし)」


 そりゃ、アンタらが話してるアイドルと、真逆の格好の人種だろうし、見た目も派手で、目もキツく見えりゃ、ネイルやピアスも凶器にでも見えてんだろうな。


「(でもアンタらが好きなアイドルだって、メイクやネイルに掛けてる時間は、案外変わんないんだよ)」


 なんて思っても、表面のトコで楽しんでる人らには、意味ないかなとは思うけど。


 ギャルファッションは、昔から好きだった。

 好きな格好で着飾って、自分の体型、骨格、スタイルをしっかり見せつけながら振る舞う姿は、小学生の頃にはもう好きで。


 周りの女の子達は、良くてモード系。大体は多数派の流行のファッションをしてる中でも、アタシは引き締まった身体と肌をアピールしながら、人の目を気にしない生き方が、なんかカッコいいな、なんて思った。


 小学校高学年から胸もやたら大きくなって来て、去年中学に入ったら、通学途中でも学校の中でも、明らかにエロい目で見て来る様なジジイが沢山出て来た。


 ただ大抵そういうジジイは胸の大きくて気の弱そうな子を狙うから、アタシは逆に堂々と振る舞う事にした。

 そうすると、最初はコッソリ見ようとして来る男どもも、コッチから見返してやると、バツが悪そうに目を逸らすんだよね。


「ん…?」


 そういえば、なんか周りが騒がしい。

 てか、隣のクラスがうるさい気がする。

 ドタバタ廊下走るなっつの。


「ねー今日から隣転校生来るんだってさー」


「へー男子?女子?」


「女の子っぽいよー。しかも二人だって!」


 …それでか。にしたって騒ぎ過ぎだと思うけど。

 ま、隣のクラスだと移動教室の時位でしか見ないだろうから、特に関わり無いだろうし、何でもいいや。







「いった…ダメだ、今月めっちゃ重い…」


 昼休み。理科棟のトイレでめっちゃ唸ってるアタシ。

 月のモノ来るの大分早かったから、わりかし自分の身体の特徴はそこそこ把握してたつもりだけど、まだまだ慣れないな…。


「はー…こんなんじゃまた父ちゃんに女が板場に入んなとかうざい事言われっし………?」


 溜息吐きながらポーチをガサゴソ弄る。

 したっけまさかのナプキンゼロ。

 めっちゃピンチ。


「うーわ最悪…トイペ…はさすがにだし……そもそも、誰も来ねーし…ココ」


 クラス近くのトイレは、女子のアレやコレで色々面倒で、わざわざコッチまで来てるアタシだから、助けを呼べる相手も居なくて。

 だけど流石にコレは初めてだからテンパるな…どーしよマジでトイペしかないか…。


「絶対くっついて痛くなる「もしもーし!大丈夫っすか!?」……は?」


 なんか、急にドアめっちゃノックされたと思ったら、すっごいデカい声で、ぶっちゃけかなりアホっぽい声。


「こーらマシロ。いきなりはこえーって」


「つってもかなり唸ってっし。なんか困ってっかもしんねーじゃん」


「…」


 あんまり、この学校で聞き覚えの無い声だ。

 先輩…でも、一年生でも、雰囲気違うっぽい。

 ならタメ…いや居たっけ?OG?誰だろ。


「(まーでも…しゃーないか)ごめんなさい。無理ならいいんですけど、ナプ「ナプキンとタンポンどっちー!?」!……えと、ナプキンで…」


「りょ!んじゃ上から行くからキャッチよろ!」


「マシロはノーコンだからウチやる〜」


「あーちょ!」


「ほい〜」


「!よっ…と。ありがとうごさいまーす…」


 うお、バチクソ柄派手なヤツ。

 こないだテレビでキャバの人が使ってる言ってたヤツだ。

  

 まぁでも、何にせよ助かった…。





「はー…良かっ「ていうワケで!」…は?」


「おねーさんこのガッコ、案内して欲しーんだわ〜」


 トイレから出たら、ドアの両脇に立って待ち構えてた女子二人。

 声の感じからして、さっき助けて貰った二人だ。

 ただ……アタシが言うのもだけど、めっちゃギャルだった。


「てかおねーさんめっちゃギャルじゃん〜うわ黒ギャルだわテンアゲなんだけどー!」


「い〜い感じに焼けてんすな〜あ、このヘアピンめっちゃ可愛い〜てかめっちゃオシャレで可愛いわ〜」


「えっと…誰?この学校の人らじゃないよね…?」


 金髪でアイラインガッツリ入ってる白ギャルに、赤髪ツインテでゴスロリメイクな地雷系っぽいギャル。

 こんな、ギャルギャルしいギャル女子中学生は、見た事が無い。


「あ!ごーめん!あーしら今日から転校だったんだ!」


「玄関のわかりみ無さ過ぎて迷子乙」


「で、オシッコ我慢出来んくてトイレ探してたらココな訳よ!」


「おねーさん唸っててお知らせしてくれてよかったわ〜」


「お知らせはしてないんだけど…」


 転校生ってこの子らか。なんか、凄いわ。

 見た目通り過ぎるんだけど、ギャルの真骨頂のバイタリティ全開で、深く考えん方が良さげなのがめっちゃ伝わって来る。

 でも…なんとなく分かる。

 悪い子達じゃ、無い。


「…いーよ。案内したげる。あ、アタシ黒井裕美子。二年だよ」


「あ、マジ同い年だったん?めっちゃゴメン大人っぽくて先輩かなーって!アタシ黄山真白ねー!マシロでおけー!」


「ウチ紅林姫奈です〜よろです〜てか裕美子氏めっちゃおっぱいおっきい〜なんか安心デンドロビウム〜」


 で、デンドロ…?

 つか…この子達も凄いな…こんだけ大きい子同級生で初めてかも。


「分かんねーから止せや姫奈ー。でもホントだ同じくらいあんじゃん!カワイイブラ全然無くて困んよねー」


「あー、うん」


「男どものエロい目は鬱陶しいしな〜」


「うんうん」


「でもだからって恥ずかしがってかくしたくねーっつう!」


「そう!」


「裕美子氏めっちゃわかりみシンクロ率2兆%だわ〜!」


「転校初日にギャルで爆乳の子と最初に知り合えたの運命だわ!」


 あーそっか。この子達もアタシと同じ悩みとか持ってたんだ。

 でも二人で友達だったから、抱え込み過ぎなくて良かったのかな。


「…アタシも「じゃーはよ行こ裕美子ー!」!」


「いきなり友達出来てんよきよき〜爆乳トライアングル阻止限界点〜!」


「……うん!」


 何でか、案内する筈のアタシの手を引っ張って、走り出す二人。

 やっぱりって位、あったかい手だった。

 コレが、アタシと、真白と姫奈との、最初の出会いだ。













==============



「まーやっぱり女同士の最初のやり取りはナプキンかタンポンだよな」


「んな訳ねーだろ…」


「やっぱり乳は乳を呼ぶんだよな〜」


 思い出すと恥ずかしさが勝るけど、あの時アタシがトイレ篭ってて、そこに立ち寄ってくれた二人が居なかったら、今みたくはなって無かったかもしれなくて。

 だから…間違ってるし、合ってる気も…する。


「だからさー裕美子」


「?」


「もっと、ウチらにしてくれたみたく、しても良き〜〜って、ヤツ」











ーーーーーーーーーー



「はぁ…」


 真白さんに今日は部活も無しって言われて、一人寄り道した。

 少し、遠回りをして、今まで走った事の無い、この街の道を走って。

 川の近くのあずまやっぽい所で、ちょっと休憩。


「自分の生活してる街の事もよく分かんないのに……女の子の気持ちを分かった気になるなんて、思い上がりだよね…」


 途中でドライブスルーで買ったシェイクを飲む。

 バイクはドライブスルー出来なくて駐輪場に引き返したのも、恥ずかしいけど知らなかった事だしね。


「退院した裕美子さんに…先ず何を言えば良いのか「きゃっ!?」…?」


 ボーッとしてた僕の耳に、女の子のビックリした声。

 振り返ると自転車と、女の子が倒れてた。

 アスファルトの亀裂にタイヤ取られちゃったっぽい。


「痛た…」


「大丈夫…ですか?」


「あぁ…ごめんなさい…」


「怪我は…?」


「血は出てないです…」


 恐る恐る近付いて、大事を確認した。

 怪しい人じゃないと思われてると良いけど。

 中学生くらいかな…?被ってるヘルメットがツヤツヤだ。


「じゃあ大丈…あっ!」


「どうしたんですか?」


 倒れてた自転車を起こしてあげたら、良く見たらチェーンが外れてた。

 このままじゃ走らないかも。


「チェーン外れてるね」


「じゃあもう走れないんですか?」


「っ…そんなに大袈裟じゃないよ。ちょっと待っててね」


 少し涙目でこっちを見る女の子。ここで泣かれちゃうと長閑なこの街でもちょっと目立つから、落ち着かせつつ、バイクに戻ってシート。外した。


「…多分ココにあるので直ると思うよ」


 車載工具を取り出した僕。まさか先に使うのがバイク本体じゃなくて知らない女子中学生の自転車になるとは思わなかったけどね。


「お願いします…!」


「う、うん。頑張るね…」


 凄く見てくる女の子。

 確かに今アテになるのは僕だけだもんな。

 頑張ろう。そんなに難しくは無いと思うから…。








 それから十分ちょっと。コレだとかかり過ぎるっておじいちゃんには言われるだろうなって思うけど、なんとか外れたチェーンは戻って、たわみも調整出来た。

 その間…ずっと女の子は見てた故の、緊張も少しあったけど。


「うん。大丈夫。もう乗れるから気をつけて帰ってね」


「はい…本当にありがとうございました」


「どういたし…………あ、あの…」


 その場から去ろうとする僕を、何故かずっと見つめてる女の子。

 なんか…顔に付いてるのかな…?


「……さ、おにいちゃん」


「…へ?」


「やっぱり……壱正おにいちゃん。だよね?」


 いきなり…急展開…?

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