第二部 1話 ギャルの体調


「暑い…暑いなぁ」


 信号待ちに佇む、僕とバイク。

 季節は目下夏真っ只中に入って、バイクの停車中は蒸地獄に入り始めてる。

 でもしっかり長袖は着といた方が良いから、ちゃんと着とくんだ。


「あ、変わった。行こう…」


 青になって発進しても、中々涼しくもならない。排気ガスは一斉に襲って来るし、頭は蒸しっぱなしのままだ。

 真夏のバイクがこんなに大変だなんて、思いもしなかった。

 けど。


「やっぱり…楽しいものは、楽しいよね」


 学校への登下校路は、平日の数少ない乗れる時間だから、大事にしなきゃね。








「しまった美術で使う鉛筆、家庭科室に置きっぱなしだ…!」


 学校に着くや否や、最近部活で使ってる、美術用の濃いめの鉛筆を、筆箱ごと置きっぱなしなのに気付く。

 ホームルームまではまだ余裕はあるけど、そこそこ急いだ方が良さそうだ。


「ってそうだ鍵が無いと…?」



 もう直ぐって理科棟の階段を上がり切った所で、鍵を借りるのを忘れてるのも思い出した。

 流石に取りに行ってだと時間的に厳しいかなって思った僕の耳に。


「?…声…この声は…」


 家庭科室から聞こえて来た、はしゃいでる声。

 聞き覚えのある、女の子の声が二つ。

 開いてるのが分かって安心したし、二人とも朝から熱心だなぁなんて思いながら、戸を開けた…ら。


「真白さん姫奈さん。おはようございます。朝から頑張ってます…………ね……???」


『…』


「あ、の」


「おーイッチー朝練とか珍しーじゃん!」


「いっくんもやるかー?早朝プール〜」


 一瞬固まった後、元気に挨拶を返してくれた二人。

 金髪の白ギャル、黄山真白さん。

 赤髪の地雷系ギャル、紅林姫奈さん。

 だけどその格好は、その…お二人のとても大きなおっぱいをとても主張する、何とも際どい水着…ビキニ姿だった…。


「な、なんて格好してるんですかぁー!?」





ーーーーー


「いやーわりぃわりぃ。朝練がてら服の仕上げしよーと思ったらエアコンぶっ壊れててさ〜」


「右に同じな〜」


 黒いビキニで上下共に留める部分が紐になってる真白さん。

 白いフリル付きなんだけど、隠す面積が少なくていわゆるその、下乳ってのが見えちゃってる姫奈さん。

 二人が長方形型のビニールプールの両端に座って、リラックスしてた。


「それでビニールプールがある理由にはなってない気が…」


「イッチーコレは玲香ちゃんのだぞ?」


「えぇ…」


 青戸先生はなんでこんなモノを…あ、先生もエアコン壊れてるの知ってて、一人で楽しもうとしてたのかな…。


「つーかイッチー入んねーの?」


「楽しいぞ〜。うい」


「つめたいっ…もうすぐホームルーム始まりますよ?」


 姫奈さんが指水鉄砲で水を掛けて来るんだけど、二人とも一向に着替える気配が無いし、その、動くたびにおっぱいが凄く揺れて、目のやり場に困ってしまう…。


「おーん?おぉマジかこんな時間か」


「しゃーない着替えっか〜待ち人来ず〜」


「!アレ、もしかして姫奈さん待ち人って…」


「うん。裕美子こねーの」


「!」


 ビキニ姿に気を取られ過ぎて、もう一人…僕にとって大事な人が居ない事を、危うく忘れてしまう所だった…。

 

 ココは家庭科室。でも放課後、この部屋は真白さんと姫奈さん、あと僕っていう部員と…部長の、黒井裕美子さんの四人で、家政部の部室になるんだ。


「何時もなら裕美子ちゃんとライン入れんのにな〜」


「ハライタって訳でも無さげだしなー」


「それよ〜裕美子子宮つえぇからね〜」


「…」


 多分女の子の月のものの話だと思うから、変に反応しない方が良いと思うのでやめとこう。

 でも、確かに気になる。

 

「裕美子さんも朝練の予定だったんですか?」


「んーん。単にあーしらが鍵借りて使ってただけなんだけどさ。裕美子既読も付かんのよ」


「せっかくいっくんガッツリ筆箱忘れてっから、朝から逢引出来んぞ〜って言おうと思ったんにさ〜」


「うっ」

 

 気付かれてた…見透かされてた…ちょっと恥ずかしいし、二人共それじゃあ殆ど狙い撃ちでビキニ姿を僕に見せつけたって事なんだろな…。


「まーとりまもっかい裕美子に鬼電入れてみっけど、もし連絡つかんときは、イッチーよろしくな?」


「へっ」


「へっ?じゃねーよいっくん。もしかしたら風邪引いたって事もあるべ。てなったら〜もう、強制イベント発生な訳よ。ルウム戦役開せ〜ん!」


 今度のよく分からないワードは何となくガンダムなんだろうなって思いながら、僕はその中身自体も益々わからなかった。

 

 んだけど…。














ーーーーーー


「あーサイアク…風邪引いた上に思いっきりトイレにスマホドボンとかさ…真白と姫奈から鬼電入ってっかも…」


 まだ、用足す前の水だから良かったかななんて、大した意味ない事考えながら、どうせ今日は修理に出しに行けないスマホをそこら辺に放って、ベッドにふて寝してたアタシ。


 それからもう六時間位経って、三時過ぎ。

 学校はとっくに終わってて、無断欠席確定だ。


「父ちゃん…商工会の旅行…おばあちゃん…敬老会の旅行…年寄り旅行好きすぎだしウケる…」


 なんて声に出して言ってみたけど、ものっそいガッサガサ声だななんて思うアタシ。

 完全に風邪なのが良く分かる。

 

 昨日は…なんだっけ。普通に飾り切りの練習して、あと…そうだ。スコッチエッグ作ろうと思って、そしたら何でか生卵レンジ突っ込んで、爆発させて、そんで風呂入って…。


「髪、まともに乾かさずに寝てるわ…」


 そりゃ、風邪引くに決まってるわ。

 てか生卵レンジに突っ込んでる時点で体調悪い兆候バリバリ出てんじゃん。

 もっと早く気づけよ…。

 あーダメだなぁアタシ。

 ホント、ダメだ。


「もー…ホント最近…アイツの事ばっか考えちゃって、ダメだ…」


 今頃、どうしてるかな、壱正。

 もしかしたら、ラインとか入れてくれてんのかな。

 したらゴメン…スマホぶっ壊れてて返事出来ない。

 電話も…出れんし。


「あー…ちょっと声聞きたくなって来たかも」


 なんてワガママ、言ってみる。

 どうせ叶いっこ無いから、言うだけタダだし。


「心配…してるかな壱正。心配性だもんな…」


 なんて言ったら、「それは裕美子さんもじゃないですか?」なんて言われそう。

 最近調子乗ってるよな壱正。まったくアタシ等の…アタシの事ちょっと分かった気になってさ…。

 ホントさ…そんな風に知ろうとしてくれたの、壱正が初めてなんだよ…だから…。


「もっと…色々、たくさん…声が聞きたい…な」


 そう、呟いたら。


「?…」


 エンジンの音。でもクルマじゃなくて、コレは…バイクだ。

 そんでもって、聞き覚えがある、バイクの音で、それが、直ぐ近くで止まったら。


「…チャイム…」

 

 ウチは店だから、要らないセールスも大量だけど、お得意さんなら、無碍には出来ないし、頑張って、出ないとだ。


「…はぁい…「あっ!裕美子さん…!」ふぇっ!?い、壱正…?」


 聞きたい声が、本当に聞こえて来た。

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