第4話 ギャルと友達と
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「で、どうすん裕美子?」
「やんの〜?ウチはなんでもおけまる水産」
「うーん…」
部活終わって帰り道。今日も壱正はついてきてくれてる。
律儀っつーか。生真面目っつーか。
「壱正はどうよ」
「そうですね…僕としては…急といえば急ですけど…」
〜〜〜〜〜
「来月の終わり頃にこういうのがある」
「?…ユース…クラフトアート展覧会…?」
青戸センセがバインダーん中から取り出したチラシを読んでみた。
ざっくり見渡してみっと、要は高校生のハンドメイドの発表会みたいなモンっぽい。
「おーん?全国行ったるで的なヤツ?」
「ウチ甲子園より花園派なんだが〜」
「生憎そこまで大きくは無いんだがな。所謂小規模部活の総合展示会みたいなモノだ。君達も部になったから正式に参加出来る」
「タイミング良すぎじゃないですか…?」
疑問に思う壱正。そりゃそうだよな。
自分が入部したなら直ぐちゃんとした部活の体で色々やれとか。
「何、そろそろちゃんと、お前らが真面目に部活やってるって所、私が見せたくなって来たんだよ」
『!…』
「ずっと持ってたんだがな。今日漸く結城が入ってバインダーから取り出せたんだ」
「…いちいちカッケーよな。玲香ちゃん」
「それな〜」
「私だって顧問の端くれなんだぞ?」
じゃあもっと普段の活動見てよって言いたくなるけど、無理に部員集めろって今まで言わなかった辺り、センセー的にも、活動の妨げになるくらいなら、集めなくても良いって尊重してくれたんかな。
「勿論お前達の意思で出る出ないは決めてくれて良い。ただ…」
『ただ?』
「出店形式の出展も出来るから、売上が出る」
『!』
「そして結果が出れば部の予算会議で、部費が上がる!」
『!!』
「ま、そういう事だから、明日までに考えといてくれ」
って言い残して、さっさと帰ってったセンセだった。
〜〜〜〜〜
「でも…僕の入部理由は、裕美子さん達の頑張りを、僕だけでも知ってたいって事なので、もしそれが他の人にも知って貰えたら、僕は嬉しいですね」
「いっくんそれ答えになってね〜」
「何か的外れだぞイッチーウケるわ」
…確かにちゃんと答えにはなって無いけど、壱正はアタシ等の事、知らないヤツに何言われても知らんっつって、家政部に入ってくれた訳で。
それって…逆に言えば。
「アタシ等が結果残しゃ、壱正がおかしな事言ってるヤツじゃねえって、知らしめてやれるって事か」
「!…イイね裕美子。それはおもしれーわ」
「そろそろ材料費切り詰めんのもキチーしね〜。このガッコ、バイト基本出来ねーし」
「皆さん…じゃあ」
「おう。やってやろーぜ。壱正」
「っ…はい!」
元々、好きな事を好きな様に好きなだけ集中してやりたくて作った部活だもの、それを好きな様に見せびらかしたって良いよね。
「ちな何出すん?」
「ウチ今作ってんの量産しまくって売ろ〜」
「あんだよザク女ずりぃー。あーしどうし…!んじゃクラブTデザインすんべ。皆で着んの」
「イイね真白。じゃあアタシは…「出店だから裕美子さんの料理を食べて貰いませんか?」!…先に言うなし壱正」
「あっすみません!でも美味しい裕美子さんのご飯なら大人気ですよ!」
「…変なプレッシャー掛けんな」
「ご、ごめんなさい…」
嬉しいけど、緊張しちゃうのが、アタシなんだもん。
勿論、壱正はお世辞でも何でもなくて、本気で言ってんのは分かるけど…本音過ぎて、ちょっと気構えちゃうじゃん…。
「つっても絶対人気出るべ。ギャルメシ」
「な。裕美子が爆乳裸エプロンで売り捌けば優勝間違い無し」
「やらねーし、真白のクラブTでやっから…」
「じゃあ、僕もステッカーのデザイン、頑張って考えますね!」
「ん。頼むな。壱正」
皆やる事は固まって来たみたいだ。
昨日の今日でいきなりだけど、やる事は今までの延長だから、浮足立つ事もねーし、大丈夫っしょ。
ーーーーーーーーーー
「…おはようございます」
『…』
入部から少し経って、いつも通りに朝、自分のクラスに入って挨拶してみるけど、返事はもう殆ど無い。
やっぱり、皆裕美子さん達のイメージから、一緒に活動してる僕の事も引いた目で見てるのかな。
でも…良いんだ。それで。
「(全部の場所で…全部居場所にしなくたっていい)ッ…」
「オォ、悪りぃな。見えなかったわ」
「…普段の生活も前方不注意だと、いつか大事故になるよ」
「アァ?」
座ってる僕の斜め後ろから、わざとらしく足音立てて歩いて来ては、わざとらしくぶつかった身体の大きい男子生徒。
手には乱雑にステッカーを貼ったハーフヘルメット。
多分だけど、このクラスで僕以外だと唯一のバイク登校の生徒だ。
「ハーフヘルメットはいざって時頭を守り切れないし」
「転校生よォ…一丁前にストファイ乗ってっからって説教する位に偉ぇんだなぁ。ヤンキー女共と連んで気ィデカくなってんのかよ?ハハッ」
「…」
「人差し指、あんまり力入って無いね。フロントブレーキしっかり掛らないよそれだと」
「ッ!……黙ってろ」
胸倉を掴まれた。
だけど、目は逸らさないでずっと見てた。
ココで逸らしたら、三人を馬鹿にする言い方を認めたことになる気がして。
眼は、絶対に逸らさなかった。
「(今度は…椅子からも浮かない位にしなきゃ)」
怖さは無いもの。
おじいちゃんの方が、よっぽどだから。
「イッチーどーよ?」
「中々難しいですね…」
「つーかいっくんは絵とか得意なん?」
「中学の美術は三です…」
「なんだ壱正フツーだな」
「そーですよ普通ですよ僕は。へへへ…」
放課後、もう慣れた様に通りに部室に来て、三人と一緒に活動を始める…んだけど、今日は皆僕のステッカーデザインの作業ばっかり見てた。
でもこうやって、みんなと『普通』に部活動出来るのが一番良いんだ。
「イッチーって得意科目なんなん?」
「えっと…特に無いですね」
「えーそうなん?」
「まーいっくんなんか平均でバランス型っぽいもんな」
「その平均にも届いてねぇアタシ等が言う事じゃねぇっつの」
「インテリギャップ萌えギャルにはなれねー!」
だらーんと机にへばりつく姫奈さん。
大きなおっぱいがクッション代わりになってるなぁなんて思ったりしちゃった。
「で、でも皆さん家庭科は得意じゃないですか!」
「おーんまぁな?」
「分かってんじゃんいっくーん」
「いーよ気ぃ遣わなくて…第一、得意なモン無くたって、壱正にはガッツが……おい壱正、そこどうした」
「えっ?」
裕美子さんがやたらと僕の方を注視して、少しドキッとしてしまった。
でも見てるのは僕の目じゃ無くて…。
「ココ、ワイシャツの襟んとこ。黒くなってっけど」
「?…あ」
「おーどしたイッチー、機械油みたいなんで…指紋?」
真白さんの言葉で、何なのかは大体察した。
多分、今朝のアレなんだと思う。
あの人ライディンググローブも付けないで乗ってるから、車体の何処か触ってついた真っ黒なオイル染みが、指から移ったんだろな。
「いや…大丈夫ですよ「誰だ。壱正」っ…」
「クラスの連中か?」
裕美子さんの顔は凄く落ち着いてるけど、目の奥が、とても震えてる気がした。
震えてる…怒りに。
「…クラスにもう一人、バイク通学してる男子が居て、その人に少し因縁つけられちゃって」
「イッチーのクラスって七組…!オイ裕美子」
「あーだな真白。アレだわ」
「…あの野郎ォ…」
「皆さん…?」
察したかの様な顔をしたら、直ぐに眉間に皺を寄せた三人。
あの男子と心当たりがある…のかな?
「悪りーなイッチー、そのデクのボー、こないだ裕美子に告ってフラれたバカだわ」
「!」
そういう…事だったんだ。
妙に僕に突っ掛かって来る様な態度だったのは。
だけど、それとは別に少し、思ってしまった事があった。
やっぱり…裕美子さん達皆綺麗な人達だから、モテる…よね。
良いのかな。僕なんかが一緒に部活やってて。
「壱正?大丈夫か?やっぱりどっか怪我してんじゃ」
「全然大丈夫ですよ!」
「そっか…ゴメン。アタシのせいで…」
「裕美子さんのせいなんかじゃないですよ。それに…もしそうだとして、僕に因縁を付けてくる様なら、器が小さいと思いますし」
裕美子さんに気負って欲しくないのもあるけど、今の話を聞いて、益々萎縮したくない気持ちが強くなった。
八つ当たりしてくる様な人に、屈したくない。
「おーイッチー言うねー!」
「こーいう所顔に似合わずオス臭くてウチすこだわ〜」
「…ん。でもあんまりしつこいならちゃんと言ってくれよな壱正」
「はい!」
裕美子さん達に面倒が掛からないように教室じゃ相手したつもりだったのに、結局気を遣わせちゃったな。
もっと心配させない位に頼り甲斐がある人間にならなきゃ…だ。
「んじゃさ!ココらでいっちょ、団結深めるべ!」
『?』
ーーーーーーーーー
「えっと…こっちの先に…あ、あのショッピングモールかな?」
翌日、土曜日のお昼前。
姫奈さん主導で交換してもらった連絡先から送られて来た目的地を目指して、バイクを走らせて30分。
国道沿いに見えるこの辺りで一番大きいショッピングモールに辿り着いた。
「こんなに大きいトコあったんだ…」
ショッピングモールにホームセンターに、大型家電量販店もあるタイプの広い敷地だった。
コレだけ纏めてギュッと詰まってる所は初めてだから圧倒されるな…。
「駐輪場、ココで良いかな?」
とりあえずショッピングモールの真ん中辺りの駐輪場にバイクを停めて、集合場所の中央入口って所に向かってみる。
中央だから真ん中だよね…。
「アレ、まだ皆居ないのかな…?」
標識を見るけど合ってるっぽくて、でももう後五分位で集合時間なんだけど、三人とも居ない。
皆、時間ピッタリに来るタイプなのかな?
「まだ全然知らない街の知らないお店に一人…中々寂しいな」
でも、転校して四日でこんな風に遊びに行く事なんて無かったから、今が変なのかもな…。
「皆、距離の詰め方が早くてビックリしちゃったな…ギャルの子達のバイタリティって凄いなぁ。でも優しくて、凄い面倒見が良い人達で…」
トントン拍子で話が進んで、部活にまで入って、展覧会にまで出ようってなって…凄い密度だ。
「夢みたいな…っ」
ちょっと不安になる、もしかしたら、夢だったのでは?と。
いくらなんでも色々、事が運び過ぎな気もする。
そんなに、おっぱいを軽々しく乗せる女の子や、手作り弁当を作って来てくれる女の子がいるだろうかって。
出会って間もない僕の身を、あんなに親身に心配してくれる子達なんているだろうかって。
もしかしたら今でも夢を見てて、僕はまだ転校してないのかもしれない。
「それは…嫌だな。もし全部、裕美子さん達も居なくて「いっくんめーーーっけ!」……あ…」
「えっ?…およっ…?」
視界が塞がれて、声が届く。
背中におっぱいの感触も一緒に。
思わず安心して、目が潤んでしまった僕だった。
「イッチーゴメンな?ちょっと驚かせてやろってヒナがさー」
「あんだよマシロもノリノリだったべ〜…でもいっくんマジごめん」
「いやいや!僕こそ勝手に不安になって恥ずかしいですよね…」
姫奈さんの声に続いて真白さんの声も聞こえて、本当に夢じゃないなって落ち着けた。
勿論…最後には。
「いや、やっぱアタシ等距離感バグってんよな壱正…」
「でも、そこが裕美子さん達の良い所じゃないですか」
「それに裕美子が三十分も早く着いたから思い付いたネタだしね〜」
「なー」
「関係ねぇだろお前らなぁ!」
そうなんだ…そんなに早く…僕が土地勘無いから、なるべく早めに来ようとしてくれたんだ。裕美子さん。
やっぱり、凄い優しい女の子だ。
「ていうか…」
『?』
「皆さん、今日の服、可愛いですね」
「おーいっくんわかってんな〜。イイだろこのマインレイヤー系女子〜」
「マイ…?」
「地雷系なイッチー。ヒナこんなんしか持ってねーのよ」
「な、なるほど…」
ピンクのフリルのついたシャツに、黒いミニスカートも短いけどフリル付きで、バッグとか小物もみんな可愛い系のなんだな、姫奈さんは。
「こんなんじゃねーし〜。オフショルしか持ってねー風邪引き予備軍に言われたくね〜」
「ワンショルもあるっつーの。つかギャルは肩出してなんぼだし。なぁ?イッチー」
「そう…なんですね!」
真白さんはいわゆるオフショルダー?っていう肩が見えてるタイプのセーターに、ショートパンツでおへそも見えてて露出がかなり多い格好だ。
でも自信たっぷりに着こなしてる感じがカッコいい。
「壱正まともに聞かんでいいから」
「あはは…裕美子さんも、とても良く似合ってますね」
「ん…サンキュ」
裕美子さんはダメージデニムに、シンプルな白いTシャツで、上に黒いライダースジャケットだ。銀髪の綺麗な髪がポニーテールで纏められてる。
クールでカッコいい装いだなぁ。
あと…やっぱり皆、私服でも、おっぱいが凄い目立つね。大迫力…!
「つかバイクで来たいっくんがライダース着てなくて、裕美子着てんのなんかウケる」
「おーそれなー」
「バイク乗らなきゃ着ちゃいけねー訳じゃねーし」
「そうですね。ライダース着なくてもバイク乗れますから」
「アッハハハハ!やっぱイッチーあーしらのノリ分かって来たなぁ!」
「よっしゃご褒美に一回おっぱい乗せとくべ」
「もーいーから先にメシ食うかんね!」
『うーい』
大変だけど楽しそうな一日になりそうだ…。
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