第3話 ギャルとイメージと
「どうだ壱正。オートバイ少し慣れたか?」
「うん。道ももう結構馴染んで来たよ」
「お爺さんそれより学校の事を聞きなさいよ」
帰ってきたら、夕飯はおじいちゃんとおばあちゃんと三人で食べる。
母さんはいつも夜十時過ぎ位になっちゃうから、先に済ませとく事になった。
それでも前に住んでた所だと独りご飯だったから、こうやって皆で食べられるのが嬉しい。
「すまんすまん。初日はどうだった?」
「うん。えっと…楽しかったよ」
「お友達は出来た?」
「友達…かはまだ分からないけど、知り合いにはなれたかな…?女の子だけどね」
「ほぉ〜…流石俺の孫だ手練れよのう」
「あらあら」
あ…女の子だって事は言わなくても良かったかな?
でも…ちゃんと自分達の事を教えてくれた裕美子さん達の事は、言っときたいって思ったから。
「皆優しい人達だから、多分やってけると思う」
「そうか。壱正は優し過ぎるきらいがあるから心配してたが、それなら大丈夫そうだ」
「何か部活もやるの?」
「えっと…それはまだ考え中かな?」
「うん…僕が入って良いかどうかは、わからないもんね」
ご飯食べ終わって後片付けして、課題終わらせたらお風呂入って、自分の部屋でゴロゴロする。
ココは凄く静かで、車の音も殆ど無くて落ち着くな。だから直ぐ眠くなっちゃうんだけどね…。
「裕美子さんのお弁当…美味しかったな…真白さんに姫奈さんも明るくて…ちょっと…スキンシップが激しいけど…みんな…いい人で良かった…」
ーーーーーーーーー
翌日。今日からは自己紹介も無い普通の登校が始まる日だから、普通に教室に入ったんだけど…。
「…?」
『………』
なんだろう?皆、凄く僕の方を見てる。
アレかな?バイク通学で目立ってるのかな?
でも、バイクってだけなら他の人もそれなりに居るし、なんなんだろう?
そんな中で、自分の席におずおずと座ったら、女の子がゆっくり、僕の方に近付いて来た。
確か…クラスの委員長って人だよね?
「あの…結城君?」
「ハイ…なんでしょう?」
「昨日さ…四組の黒井さん達と一緒に居たよね?」
「ハイ…えっとそれが何か…?」
なんだろう、話が全然見えない。
でも顔がやたら険しい委員長さんだ。
「結城君、悪い事は言わないから、あんま関わり合いにならない方が良いよ?」
「なんでですか?」
「あの人達、中学の頃から素行が良くないから、面倒な事に巻き込まれる前に、距離置きな?」
「そうなんですか?」
「うん…」
多分委員長さんが言いたいのは、裕美子さん達のイメージの話なんだろうな。
確かに僕も最初見た時は関わり合いにはならないと思ったけど、でも、ちゃんと知り合ったら、想像もしなかった部分が見れたから。
「でも…巻き込まれるかどうかは、自分で決めてみます。ありがとうございました」
「っ…そっか。一応忠告はしといたからね」
「ハイ」
そう言ってスタスタ席に戻る委員長さん。
他のクラスメイトの皆もまた話し出して。
ただ…僕に話しかけてくれる人は殆ど居なくなっちゃったな。
でもそれでクラスメイトを取って知り合った人との縁を無くすのは、なんか嫌だったから、それでいいや。
「あ、このサバの塩焼きも美味しいですね!ワカメごはんに合います!」
『……』
昼休みになって、また裕美子さん達に屋上に誘ってもらったんだけど、ちょっと皆浮かない顔をしてる様な…?
「あのー…皆さん?」
「いや…そのさ、壱正のクラスでの話、アタシ等の耳にも入って来てさ…」
「イッチー、イッチーはこのガッコ来たばっかだから、そっち優先でも良いんだぞ」
「ウチ等なんてどうせずっとドベだから、ほっときな〜」
そっか…皆、僕の事で気を揉んで…。
だけど、あのままなぁなぁにするのは、自分
が嫌だったから、アレで良いんだ。
「確かに…僕は皆さんの事全然知らないです」
「だろ?イッチーの想像よりめっちゃアタマヤバいよ?」
「それな〜…」
「でも、僕…元々友達が殆ど出来なくて、自分からは勿論、人からの距離の詰め方も、上手く受け取れなくて」
転校が多かった事もあるけど、そんなに仲良くならなくても良いかなって考えが、無意識に人との壁を作ってたんだと思う。
だからこの学校でもそれで良いかななんて、思ってはいたけど。
「壱正…」
「そうしたら、ココで皆さんが思いっきり踏み込んでくれて、嬉しかったんです」
きっかけは中々無い事だったけど、それでも唐突に出来た縁に、心が擽られた気がしたんだ。
今までに、味わった事の無い感情がして。
「いっくん、明るい顔して頑張ってたんな」
「頑張ってもはいないですよ…ただ、とやかく言われたって、こうやって裕美子さんが美味しいお弁当を作ってくれる事と、真白さんと姫奈さんが裁縫に凄く一生懸命な事は、皆さんが昨日教えてくれたお陰で知ってます。僕は、そっちを信じたい…信じてみたいです。それじゃ…ダメですか?」
『!…』
出会って三日目で、大仰かもしれないけど、初めて芽生えた気持ちだから、大切にしたいんだ。
皆には…気持ち悪がられる…かな。
「なーヒナ…」
「んー?」
「あーし母乳出そうだわ」
「それな。出たらいっくんに飲ますべ」
「えっえぇ…」
「アホな事聞かんで良い…でも、ありがとな壱正。アタシも、そんな風に思ってくれたのちゃんと言葉にしてくれて、伝えてくれたの、アンタが初めて」
「!…ハイ!」
良かった…嫌がられなくて…。
少し…不安もあったから。
だけど受け止めてくれるかもっていう期待も、半分ずつあったから、ホントに良かった。
「ってヤッバ昼メシの時間もー殆どねーじゃん!」
「よーしイッチーあーしも手伝うわ!裕美子筑前煮もーらい!」
「ちょ真白勝手に食うな!」
「頑張って急いで味わって食べますね!」
「お、おう壱正…」
「おーいっくんウチ等のノリ分かってきたな!後でおっぱい乗っけてやるよ〜!」
また何時もの三人に戻って、昼休みはあっという間に終わったんだ。
そんなこんなで午後の授業も終わって、今日もまた家庭科室に行かせて貰おうかなって思った放課後。
「えっと確か理科棟三階の…うわっ!」
「おぉ、すまんな少年」
「あ、いえこちらこそ余所見してて…」
「なら私も同じだ。お互い様と行こう」
「ハイ…」
ちょっと急いで小走りで角を曲がった所で、女の人とぶつかってしまった。
白いワイシャツとスラックスをピシッと履いてる、黒い髪が長くて綺麗な、身長の高いカッコいい女の人だ。
生徒…じゃなさそうだから、先生…かな?
「しかし…見ない顔だね?」
「あ、昨日転校して来たばかりでして…七組の結城壱正です。よろしくお願いします」
「転校生だったか。私は青戸玲香。見ての通りの教師だ。よろしくな」
「よろしくお願いします」
見ての通り…と言っても、先生というよりかはバリバリのキャリアウーマンって感じの先生だなぁ。
黒いバインダーを持ってないと分からない位だ。
「しかし…転校生が放課後理科棟三階とは…科学部室なら二階だぞ?」
「その…三階の、家庭科室に用がありまして」
「家庭科室……もしかしてキミ、家政部に行くのか?」
「はい」
答えた瞬間に、ジッと僕の方を見る青戸先生。
やっぱり、裕美子さん達の事を知ってるから、詮索されてるのかな。
止めとけ…とか言われるかもしれないけど、ちゃんと行くって言わなきゃ…。
って心構えをした僕に。
「ヨシ。じゃあ一緒に行こう」
「……へっ?」
ーーーーーーーーー
「イッチーちょっとおせーな」
「それな。やっぱ考え直しちったかな〜?」
「何でアタシの方見んだよ…」
「だってそしたら一番寂しいの裕美子だべ?」
二人からの視線が強い。
そりゃ、さっきの今だから、少しは思う所あるけど…壱正の学校生活は壱正のモノなんだから、アタシがとやかく言うもんじゃねーし。
でも…あんな風に言われて、それで来なかったら、やっぱりちょっと、悲しくはある。
「転校したばっかで忙しいんしょ。いーから始め「おーい、居るかー」!…なんだセンセか…」
ノックの音が聞こえたら、答えるよりも先に入って来る、背の高いカッコいい女の人。
青戸玲香先生。アタシ達家政部の顧問で、家政部を作った時、唯一顧問を引き受けてくれた人。
「なんだじゃないだろ。顧問なんだから」
「不定期訪問の不良顧問じゃん」
「あーしらよりワルだよねー」
「先生は嫁入り修行しないタチだから良いんだよ」
「なんそれズルー」
「てか先生三日ぶりだよ?もう少し顧問やってよ」
あんまりアタシ等の事を見てはいない先生。
生徒の自主性を大事にするとか言ってるけど、サボりたいのが見え見えなんだよね。
でも、何やってても尊重してくれる、良い
先生でもあるんだけどさ。
「すまんすまん黒井。ただ今日は新人部員候補連れて来たゾ!」
『?』
三人一斉に頭にハテナを浮かべる。
けどそれは、直ぐに解消されて、昼間も見たばっかりの…ちょっと可愛い顔してる、男子の姿だった。
「すいません皆さん…青戸先生に捕まっちゃいまして」
「コラ人を国家権力見たく言うな」
「おじいちゃんが昔そうだったモノで…」
「そうだったのか…」
「…もう、壱正」
「ハイ」
「おせーし。早く部活やるよ」
「はい!」
「イッチー今日はあーしの見ろよ。あ、おっぱいじゃねーぞー?」
「真白さんは服を作ってるんですか?」
「そーそー。ココ田舎なのもあっけど、売ってる服ってイマイチピンと来ねーっつーか、なんかモヤッてたから、自分で作ろっかなーって、イッチースルースキルついて来たな…」
今日は真白さんと姫奈さんの作業を重点に見学する事にした。
真白さんは昨日裁断した生地を縫い合わせてく作業みたいだ。ミシンの音がリズム良く響いてる。
「ウチら量産型ギャルにはなりたくねーからねー、バチボコユニークギャルにならねーとなんよ〜」
「髪の色シャアだもんなー」
「ライデンだっつの〜」
「?」
多分、ガンダムの話なんだろうけど、僕はそこまで詳しく無いから、ちょっと分からなかった。
ていうか姫奈さんが詳しいのが意外…ううん。コレも勝手なイメージの決め付けだよな。良くないね。
「姫奈さんはどういう作業なんですか?」
「コレな〜ステッチ編みっつって模様付けてんよ。立体感あった方が3Dって感じだべ?」
「でも凄い複雑そうですね」
「ソコはこの姫奈サマの腕の見せ所だし〜まーでも肩凝っから、後でいっくんおっぱいスタンドよろ〜」
「バーカ先はあーしだっつの」
「あの…」
やっぱり僕が許可しないまま話が進んじゃってるなぁ…。
ココだけは今でもよく分からない…。
「おい黄山も紅林もやめんか」
「先生…!」
あ、先生はちゃんと注意してくれるんだ…!
やっぱり大人の先生はしっかりしてるよね…!
「こういうのは先生が先だ。そういう事してるなら教えとけ」
「え、えぇ…」
「おー楽だ。ありがとうな結城。私も凝りやすくてな」
「あーずりィよセンセー」
「大人の方が深刻なんだよクーパー靭帯」
結局今日も、頭の上におっぱいを乗せられてしまっている…。
今日も、凄く熱い…ホッカホカだ…。
転校して二日、おっぱいの大きい女性のおっぱいはとっても熱いという情報だけが、僕の頭に刻まれてしまっている…。
「(てか…多分このままだとまた裕美子さんに怒られちゃう気が…)っ…」
「……」
チラッとそっちを見れば、裕美子さんが凄い真剣な表情で、一筋一筋ずつ、丁寧に野菜に刃を入れていた。
昨日にも増して、集中した顔で。
「…出来た……なぁ壱正、コレ「綺麗です…」へっ…?」
「凄く…凄く綺麗です。この飾り切り」
「あっ、あぁ…そっか。ありがと…」
素人目でも分かる位に、昨日から更に上手になってる、裕美子さんの作品。
本当に本物の花みたいで、心の声が漏れてしまった。
でも今すぐ伝えたい位に、綺麗だったから。
「おーマジだ。めっちゃじょうずくなってんじゃん裕美子ー」
「愛の力すげー」
「は、はぁ?何でそういうの関係あんだし」
「…しかしコレは中々上手くなったな黒井。この間見たのと違う…なるほど」
真白さんも姫奈さんも、先生も僕の方を見てニヤニヤしてる。
裕美子さんが上手くなった理由に僕が関係してる……?
「(…あ)裕美子さん、褒められると伸びるタイプなんですね!」
「!?お、おー…そうだな。そうだよ。壱正が褒めてくれたし、良く…出来たわ。サンキュ」
良かった。裕美子さん、凄い嬉しそうだ。
中々上手く行かなかったって言ってたもんね。喜びもひとしおだよな。
「いえいえ!どういたしましてです!」
「…なぁ黄山、紅林。結城はタラシなんだな」
「ね、やべーっしょ」
「だからおっぱい乗せがいがあんよね〜」
青戸先生からの妙な視線を感じつつも、今日も部活の時間は過ぎて、あっという間に下校の時間だ。
「さて、そろそろ終わりだな。ところで…結城」
「はい」
「君はこの家政部に入るのか?」
「えっ」
「見学に来るという事は、入部の意志があると見て良いのかな?」
当たり前だけど聞かれる質問。
昨日の流れで今日も見に来ちゃったし、そもそも昼にあんな事言っちゃったし、普通に考えたら、そういう意味だよ…ね。
「僕…は」
『…』
皆、ジッと見てる。特に裕美子さんは…なんか、少し不安そうな顔をして。
もしかしたら、嫌かもしれないし、三人の仲良い空間を、邪魔しちゃうかもしれない。
だけど…。
「裕美子さん。真白さん。姫奈さん。良かったら僕も…家政部に、入れてもらえませんか?」
「……」
「…」
「…よっしゃあ遂に部活として認可じゃおりゃあぁァァァ!!!!」
「…えっ!?」
真白さんが凄く喜んで雄叫びを上げた。
というか部活として認可…ってどういう事?
「あの、どういう「ゴメンな壱正。アタシ等、家政部って言ってたケド、まだ同好会だったんよ…」そうだったんですか?」
「なんよ〜四人からじゃねーと部として認めねーってさ〜」
「だからイッチーが見学してっ時、めっちゃハラハラだったんだわ!あーしら嫌われたらヤバいってさ〜!」
皆口々に安堵の言葉を並べてた。
本当に肩の荷が降りたっていうか、止めてた息を吐いたみたいな。
「だから、もち普段もテキトーにはやってねーけど、ちゃんとしてるトコ見せて、壱正に…興味持って欲しかったから、ホント…ありがとな」
「皆さん……なんか凄く可愛いですね」
「ちょっ、イッチー生意気〜!おっぱいサンドすっぞ姫奈!」
「あーもうギャルにチャラいセリフは許さみ無しだかんな〜!」
あ、可愛いって言っちゃうの、ギャルの女の子達には良くなかったのかな!?
でも、一生懸命魅せようってのは、凄く可愛くて、カッコいい事だと思うな。
「ところで結城は何をする?」
「あー、そっか。壱正部員になんなら何かやらんとか」
「やっぱ服作ろーぜ!」
「雑貨っしょ」
「料理…やりたいなら、教えても…イイよ」
「えっと…」
どうしよう?どれも楽しそうだし興味があるなぁ。
一つずつやって見るのも良いけど、でも皆集中してる中頼りにするのもな…。
「そういえば最近駐輪場に停めてある、見慣れないネイキッドは結城のか?」
「はい。おじいちゃんが買ってくれたバイクです」
ネイキッドってバイクの種類知ってるのは、先生も乗ってたりするのかな?
「フム。ではそうだな…結城壱正。キミはステッカーを作りたまえ」
「えっ?ステッカー…ですか?」
シールみたいなモノ…だよね。
バイクとか、ヘルメットとかに貼るヤツかな。
確かにそれなら、皆の邪魔をしないで、一人作業に集中してやれそうな気もするし、良いかもしれない。
「良いじゃん楽しそーだなイッチー」
「ハイ…ちょっと家庭科ってより図工とか美術な気もしますけど…」
「いや、コレは大事な役目だよ結城。キミに最初に任せたいのは、この家政部のロゴステッカーだからな?」
「…?」
「センセ、壱正にロゴステッカーって…何?なんなん?」
なんだろう、青戸先生、ちゃんと部になったから、話を一つ進めようとしてる…?
「単刀直入に言うとだ、君達の作品、今度沢山の人に見せてみないか?」
『…?』
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