第10話 わたしのお店(読まれない辛さ)

 モコりんは、細いさみしい道をひなに進ませます。


「モコりん、本当にこの道でいいの? さびしくて……怖い」

「いいんだよ、ひな。君にはここがお似合いなんだから」


 なんだかモコりんが変です。やがて広い広い、草だらけの大きな平原にたどり着きました。


「ここは?」

「ここは初心者の平原だよ」

「初心者の平原?」

「ほら、あちこちに屋台がでているだろう。ほらここ。ここが君の屋台。君はここでお店を開いて小説を売るのさ」

「ここが、わたしのお店?」


 小さくてもしっかりした屋台がそこにありました。使い込まれた跡はありましたが、よく整備されています。


「みんなこの場所から始めるんだ。朝行ったお店の人もここでお菓子を売ってたんだ。君もそうなるといいね、ひな」

「うん。がんばる」

「じゃあ、おやつ食べに行こうか」


 モコりんはそう言うと、ひなを歩かせました。


「なんだか、おいしそうなものがない」


 ひながあちこちのお店の商品を見てそういいました。


「君のりんご飴よりましじゃない?」


 モコりんがそう言うと、ひなは「あれはまだ未完成だから」と言いました。


「できたー!って感動してなかった?」

「それは……。まだなの!」

「そうだね。その方がいいね」

「でも、なんでお店に人がいないの?」

「ここは、無人販売所なのさ。たまに様子見にくる人もいるけどね」


 よく見ると、屋台の陰で膝を抱えている人がいます。


「なんだい、新人さんかい? うちのダンゴ食べていかないかい」


 お団子を見ると、形はおかしいし、色も変。固くなっているみたいなお団子でした。


「え、遠慮します」

「やっぱりか……。ここは『読んでもらえない地獄』だよ。食べに来る人も少ない。あんたもじきにこうなるのさ」


 店主はため息をつきながら、ひなに呪いをかけようとしました。

 

「危ない! プロテクト!」

 モコりんの手から魔法陣が現れました。ひなの全身を光が包み込みます。

「ホーリーライト」

 魔法陣が光りながらその人を包み込みました。お団子と一緒にさらさらと砂の様になってその人は消えていきました。

 モコりんは魔法を唱え、呪いからひなを守ったのです。


「危なかった。もう少しで読まれない呪いに君の精神が侵されるところだったよ」

「なに、今の……。怖かったよ」

「今のは、書いても書いても読まれない人たちの残留思念が産み出した怪物だよ。捕まるとやる気がなくなるから注意してね」


 モコりんはそう言いながら、ひなに向かって残酷な言葉を投げました。





「でも、あんな変なりんご飴を売ったら、すぐに君も読まれない地獄に落ちるさ。時間の問題だね」

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