おまけ1 2年後、マリアンの傷が治ります

 今日北のスラムが無くなった。

 今までありがとうだね。捨てられて半年、なんとか生きてこれたのはスラムがあったお陰だよ。

 わたしが無能力なのはわたしのせいじゃないと思うけど、でもお父さんとお母さんは、わたしのせいだと思うんだろう。

 『しゅくふくのぎ』でまほうぞくせいがないと分かったわたしは、そのままあっけなく、捨てられて今にいたります。

 いや、あっけなくなかった。

 お父さんとお母さんがわたしをスラムに追いやっていると、すごいいきおいで兵隊さんがでてきた。

 「こら‼子捨ては犯罪だぞ‼教会でも説明されたはずだ‼」

 あっという間にお母さんがつかまり、お母さんを助けようとしたお父さんは、ぼうで頭をぶたれていた。

 「なぜだ‼ずっとそうしてきたじゃないか‼」

 「それが間違いだったと言っているんだ‼」

 「なら無駄な子供に飯を食わせ続けるのか‼」

 お父さんが殴られたのもこわかったけど、『むだな子供』と言われたことがつらかった。

 「お嬢ちゃん、待ちなさい‼」と兵隊さんがさわいでいたけど、こわくてつらくて、いっしょうけんめい走ってにげた。

 わたしは足だけははやい。

 スラムの1ばんおくまで走って、くずれかけた、スラムの人もすんでいないような空き家をみつけて、そこにかくれた。

 食べものはざん飯をひろったり、ときどきたきだしが来てくれた。

 いがいと不自由なかったよ。

 わたしは小さいからあまり食べない。

 大人のほうが大変だったのか、半年したころ、

 「みんなスラム街から出ろ‼」と言われた。

 出ればご飯や、おしごとがもらえるらしい。

 大人や、わたしより大きな子はすなおに従った。

 でも、わたしは出たくない。

 まだ5さいだ。

 おしごとはできない。

 食べるものもない。

 スラムの1ばんおくの家で泣いていると、

 「どうした、お前?外に出ないのか?」と、きゅうに声をかけられたからびっくりした。

 キラキラの銀色のかみの毛の、お兄さんだった。

 いつのまに来たんだろう?

 すごくきれいな青い目だった。

 「お外に行っても、小さすぎておしごとできない。しんじゃう。」

 そう言って泣いたわたしに、

 「そっか。じゃあ、オレの家に来るか?」と、お兄さんはわたしをだきあげる。

 世界がきゅうにたかくなってびっくりした。

 「オレんチ、上の男の子が1歳で、妹が生まれたところなんだ。奥さん、大変だから手伝ってくれると嬉しいよ。」

 そう言ってわたしをひろってくれた、イオくんが『りょうしゅさま』だと知っておどろいた。

 おうとの南のはくしゃくさまだって。

 イオくんの家には、

 「お帰り、イオ。」

 「とうたま……」

 「うみゃぁぁぁ。」

 やさしいおくさまと、小さなおうじさまと、あかちゃんのおひめさまがいた。

 「北のスラムの最後の勇者だしな。」

 名前をおぼえていないわたしに、イオくんが『ホクト』とつけた。

 メイドのせんぱい、アルルさんやローサさん、あと何人かいたけどおぼえていない、これから少しずつおぼえよう。

 わたしはこの家のさいねんしょうのメイドさんにしてもらって、みんなにおしごともおべんきょうも教えてもらって、すごしていこうと思いました。

 「あ、ホクト。やっと笑った。」

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