第37話 王様の器

 「悪い、ハルト‼やっぱやれねえわ、そいつ‼」

 婚約者お披露目だから、満座の席だ。

 すべての貴族の当主や国の重鎮達の目の前で、突然現れたイオがミウを奪う。

 胸に抱きよせ宣言した。

 「オレとミウは、本当の兄妹じゃない‼ミウはオレの嫁にする‼ハルトにはやらねえ‼」

 「ああ、やっぱりこうなったか。」

 完全な当て馬、大恥をかかされているにもかかわらず、ハルトが安心したように笑ってみせた。

 「でもな、僕は一応王太子だし、この責任、どうとる?イオ君。」

 「分かってらぁ‼ハルト‼お前がこの国の王である限り、オレはこの国を守る‼お前の1の家来になってやらぁ‼」

 言うだけ言って、リバーウェル伯爵兄妹……いや、夫妻は転移して消えた。

 1人残された王太子は涼やかに笑い、

 「さあ‼婚約者をお披露目しよう‼」と宣言する。

 侍女の1人が被り物をとると、クリーム色の髪が溢れる。

 ドレス姿も様になっている、サチ・マイルズだった。


 「私、王太子ハルト・ウィルランドは、ここにマイルズ子爵家令嬢、サチ・マイルズを婚約者として宣言する‼」

 当たり前のように上げた宣誓に、周囲の貴族がざわめきだす。

 マイルズ子爵家は、もう、ない。

 6年前子捨ての罪で平民落ちした。その悲劇の令嬢が歩んだ道は、ほとんどの当主が知っていた。

 サチ・マイルズはスラムにいた。

 スラムで1年以上、体を売って生活した。

 そう言うものが王家の一員となるなんて……

 「そんな汚らわしい‼」と叫んだのは、グラン侯爵家当主、アイスバッハ・グラン。

 「ほう」と、ハルトが隠し切れない怒りを滲ませる。

 「スラムの現状を知って、子捨ての現状を知って、それを放置していた汚らわしいグラン侯爵が意見を言うか。なら聞こう。貴様の汚らわしさに比べ、我が妻になる人がどれほど汚らわしいかを。」

 これまでのおとなしい、理知的な王太子なら決してしない、挑発的な発言だ。

 「う……」

 二の句が継げない。

 顔を真っ赤にする侯爵に、

 「どうした、グラン。言ってしまった言葉は戻らないぞ。返答次第では、私の最大戦力をもって貴殿を潰す」と、脅すような発言をする。

 その時、転んでもただでは起きない、したたかで頭の良い王太子の本当の狙いに、旧体然とした一同はようやく気付いたのだ。

 王太子は、全てわかった上で当て馬になった。

 代わりに引き出したのだ、国内最大戦力の忠誠を。

 数日前、レッドローズビル侯爵家が物理的に崩壊し、今彼らは通常なら間違ってもしない、スラムの立て直しに尽力している。

 その原因がリバーウェル伯爵なのだ。

 「私は貴様らの住みよい国は作らない‼誰もが幸せに生きる国を作るため、虎の威を借りようと思う‼文句があるなら私より、リバーウェル伯爵に勝ってから言え‼」

 格好いいのか悪いのか、よくわからない。

 ハルトの『虎の威を借る』宣言に、既得権益を持つ側は沈黙するしかないのである。

 「はは、すげえ。」

 恒例わざとはすっぱな言い方をするサチが、

 「ただのお坊ちゃんなら逃げるつもりだったけど、あんたならいいや。結婚してやるよ」と、笑う。

 「改めて言うよ。僕の妻になって下さい」と、ハルトがその手にキスをした。


 サチ・マイルズが王太子妃、ゆくゆくは王妃になって……

 どんでん返しだ。

 相手は変わってしまったが、イオは王妃様を作り出せたこととなる。

 ここからはウィルランド夫妻、リバーウェル夫妻協力して……

 理想の国を作り出す、果てしないお仕事が始まる。

                           (本編 了)



 あとはゆっくり、オマケ(未来)を更新してから終了予定です。

 もう少しお付き合い下されば幸いです(^∇^)

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