第7話

 チョコが固まり、私とノエルは祖父の小屋を掃除しテーブルクロスやお茶を準備して、チョコレートを並べて、来客を待つ。

 ジュデッカも美味しそうにしてたし、こっそりと試食(あくまで試食であり、我慢できなかったわけではない。)をしたので出来栄えもわかっている。これならば大丈夫なはずだ。



「失礼します……お嬢様が呼んでいると聞いたのですが……」



 恐る恐るといった様子で長髪と短髪の二人組のメイドが入ってくる。彼女達はユグドラシル家の使用人であり、甘いもの好きかつ、そこまで私を嫌っていないであろう二人である。

 ノエルにチョコレートの試食役として人選をお願いしたので間違いはないはずだ。



「ノエルから話は聞いているかしら?」

「はい、お嬢様が先代様も蔵書を解き明かして、新しいお菓子を作成したと聞きました」


 

 失言がないようにと気を張りながら長髪のメイドが答える。もちろん、祖父の蔵書というのも嘘だ。だが、チョコレートの作り方をどうやって知ったのかと聞かれた時の言い訳である。

 警戒している使用人たちに私は笑顔で皿に乗っているチョコレートを差し出した。



「ほら、これがチョコレートよ!! かつては神の贈り物とまで呼ばれていたのよ!!」

「なるほど……これがチョコレート……とやらですか。確かに良い匂いですが……」



 興奮気味の私に反比例するかのように使用人たちの反応は渋い。見慣れない茶色い固形物である。これを食すのは抵抗があるだろう。ノエルまでも微妙な顔なのはやはり馴染みの無い色だからか、ジュデッカは良くあっさりと食べてくれたものだ。

 安心させるように、私は完成したチョコを口に含む。食感こそまだザラザラとするし、何か物足りない。だけどチョコだ……口の中に広がる甘みに私は思わず感嘆の吐息と共に笑顔がこぼれる。

 


「美味しい……」



 ようやく出会えたチョコレートに恍惚としていると、ノエルもつられるようにしておそるおそると口に含む。

 そして、彼女は目を見開いて……



「なんですか、この口に含むと同時にとろける食感は!? すごい!! 甘みが口の中に広がっていきますし、香りが食欲をそそります!! これは世紀の発明です!! 名前はリンネチョコレートにして、お店に売り出しましょう」

「私より食レポがうまい!?」



 想像以上の反応をしめすノエルに私は嬉しく思う。この自然な反応を見たかったからこそ、私はノエルにも試食をさせていなかったのだ。

 そして、私とノエルの反応を見た二人のメイドは目を見合わせて……長髪のメイドが少し警戒しながらくちに含んで……



「なにこれおいしい……初めて食べる感じ……癖になる……」

「え、本当? 本当だーーなにこれ!! いつもつまみ食いしているデザートより美味しいかも!! あ……」



 つられるようにして短髪のメイドも口にして感動したとばかりに大声を上げて、私と視線が合うと気まずそうに頭を下げる。

 そんな彼女に苦笑しながら私は笑顔で答える。



「ここでは素直に騒いでいいのよ。その代わりチョコレートを食べたら忌憚のない意見を言ってちょうだい。より美味しいものを作りたいの」

「「はい!!」」


 

 私の言葉に彼女達はあーでもない、こーでもないと色々と意見を交わす。そんな様子をノエルが見守るような笑顔で見つめているのがちょっと嬉しかった。

 やはり、チョコレートは特別な食べ物である。チョコレートを通じて私たちは少し仲良くなった気がしたのだ。こんな風にチョコレートを通じてみんなと仲良くなっていけば私の破滅フラグも遠のくのではないか? なんちゃって。

 こうして、異世界初のチョコレートが完成したのだった。

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