第18話 ミ=ゴ

「数は」

『おそらくは……四、五匹ほどかと。ただ妙と言えば妙なのですが』

「というと?」

『こちらを』


 探索ドローンからの受信映像が投影される。


「……?」


 そこには何もない。だが、足跡はあるし、それが進行形で増えている。

 これは……


「不可視の存在ということか」

『おそらくは』


 少し厄介だな……と思ったが、窓から見ていたフィリムが言う。


「いいえ先輩。肉眼で見えます」

「ふむ?」


 それはいったい……


「ですけど、光学式双眼鏡で見ようとしたら、見えないんです」

「……機械に写らない、ということか?」

『なるほど。それなら納得いきますね』

「お前の故障でもなかったというわけだな。

 フィリム、どんな奴らだ」

「それは……」


 フィリムが報告する。


「二足歩行の……エビかカニ、って感じでしょうか」

「ふむ」


 その言葉を聞いて、カイたちが震えた。


「“奴ら”だ……!」」



◆◇◆◇◆


 襲撃してきた生物は、蝙蝠の翼を生やした、150cmほどのピンクがかった甲殻類のような生き物だった。

 大きなハサミのようなカギ爪を持っており、頭部は非常に短い触手に覆われた渦巻き状の楕円体という、奇妙な姿をしていた。


「なんだあいつらは」

「てけり・り」


 ノインが言う。


「ミ=ゴ?」


 ノインが言うには、そういう名の宇宙生物らしい。

 天界人の勇者が他の銀河から持ち込んだ、ということか。

 カイたちの怯えようから言っても、疑いようがない、


 敵だ。


 ならば……戦うしかないな。俺は剣を構える。


「先輩、気をつけてください。あの生物の装甲は並の剣では傷つきません」

「わかった」

『マスター、私が』


 アトラナータが言う。しかし見えないのだろう、大丈夫なのか


『やり方はいくらでもあります。足跡と音で位置は確認できます』

「ああ、頼む」


 アトラナータは電撃を放ち、敵にダメージを与える。

 ダメージは通るが、決定打にはならないようだ。


「硬いな」

『はい』


 アトラナータは電撃を連射するが、敵の防御力が高いせいか、あまり効いているようには思えない。


『仕方ありませんね』


 アトラナータは電撃を収束させ、光線として放つ。

 光線は敵を貫通し、絶命させた。


『まずは一匹』


 アトラナータは冷静に告げる。


「見事」

『当然です』


 アトラナータは自慢げに言った。


「俺たちもいくぞ」

「はい、先輩」


 俺とフィリムはブラスターを構える。


「はあっ!!」


 フィリムの放った熱戦が、敵の一体を貫く。

 だが、敵の勢いは変わらない。


「ガガッゴッギッゴ」

「ゴガッゴッ」


 仲間が倒されたのを見て、奇妙な声を上げながら二体が襲いかかってくる。


「先輩、避けてください」

「わかった」


 俺は横に飛ぶ。


 次の瞬間、フィリムのブラスターが敵を貫き、撃破した。


「ふう……」


 フィリムは額の汗をぬぐう。


「腕を上げたな」


 俺も一体を撃ち倒し、フィリムを労った。


 敵性生物を倒した俺とフィリムは慎重に歩を進める。

 すると……


「あ、あれ?」

「ん?」


 先程倒したはずの、四体の敵がいない。


「おかしいな……」

「逃げたんでしょうか?」

「いや、そんなはずはないのだが」


 確実に倒した。

 周囲を見回すがいない。

 ただ、油のようなシミがあるだけだ。


「あいつら、溶けて消えました」


 ラティーファが言う。


「そうなのか」


 倒したら消える。魔法生物ということか?

 ともかく、今は……


「カイさんたちは無事ですか?」

「あ、ああ……怪我もないよ」


 俺はカイたちに目を向ける。

 カイたちは俺たちを呆然と見ている。


「さて……」


 俺はカイに向き直る。


「貴方たちは、これからどうするつもりですか? このままこの村にいると、貴方たちも狙われますよ」

「わかっている。だけど……呪いが」


 カイは悔しそうな表情で言う。

 呪詛の菌糸がある以上、逃げられないのだと。

 だが問題ない。


「先程の続きですが、私たちはその呪いを解くことができます」

「え……?」


 信じられないといった顔で俺たちを見るカイ。それはそうだろう。

 そこに、ラティーファが声を上げる。


「本当ですよ」


 そして彼女は、ウィッグを取った。


「……!」


 獣人たちは、息を呑む。彼らはその顔を知っていたのだ。


「姫……様」


「そうです。私は獣王国王女、獣人族の誇り高き戦士、銀狼族のラティーファ・アリュリュオンです」


 ラティーファは誇らしげに名乗った。

 犬だと思っていた、とは言わないでおこう。


「で、ですが……なぜ、このようなところに……」

「それは……」


 ラティーファは俺に視線を送る。


「この人が、私を助けてくれたのです」


 獣人たちがざわめく。


「この人が……ディアグランツ王国に降臨した勇者……真の勇者様、私の命の恩人です」

「真の……勇者……ですと」


 カイは俺に目を向けてくる。


「はい。私は冥王ヘルディースを倒し、ディアグランツ王国に勇者として迎えられた天界人です。

 そして王国に逃げのびたラティーファ姫と出逢い、彼女を蝕む呪詛菌糸を取り除きました。

 そして彼女に頼まれ……皆さまを救いに来たのです。

 勇者を騙る悪党を打ち倒すために」

「…………」

「カイさん、あなた方にかけられた呪いは解けます。このディアグランツ王国の勇者が保証します」

「……ほ、本当に……?」

「もちろんです」


 カイは涙ぐむ。


「……ありがとうございます……ありがとうございます……」


 彼は俺たちに頭を下げた。


「アトラナータ。彼らに紫外線を」

『了解しました』


 そして素直になった彼らに、人工紫外線を照射して、呪詛菌糸を消去する。


 だが……


「村人全員に行うには、難しいな」


 理由はいくつかあるが……


「魂を抜かれたひとたち、ですね」

「ああ」


 彼らがどのような状況なのかは、調べてみないとわからないが……

 その状態の者が、もし遠隔操作されていたなら。

 こちらの動きがそこから露見してしまう危険がある。


「どこに耳があるかわからない。慎重に慎重を期さねばならない」

「……助けるのは、後回し……ですか」


 ラティーファがうつむく。気持ちはわかる。

 一人でも多くを助けたいのだろう。


「そうだな……すまない」

「いえ……いいんです」


 ラティーファは首を振った。


「でも……早くしないと、手遅れになってしまうかも」

「わかっている」


 確かに、急いだ方がいいかもしれない。


「朝になったら出発しよう。目標は王都だ。そこで情報収集を行いたいと思う」


 ……こうして俺たちはカイたちと別れ、旅を再開したのだった。

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