第8話 爺医の縦書き脳

 40代の中頃、松葉杖を突いたことがある。

 大学のスキー部時代に傷めた右膝の半月板を国立弘前病院の柿崎寛先生に手術してもらったときだ。


 74歳の今、また〈杖〉の世話になっている。


 老化した(下肢ならぬ)イシアタマには非常に重宝な補助用器具。

「医師脳の杖」と名付けた。記憶力だけでなく、作文力も支えてくれる。


 パソコンとの付き合いは30年以上だが、最初の頃は(モニター画面が小さすぎて)パソコン上で作文することは無理だった。

 あらかじめ手書きで作文した原稿を清書するだけだから、作文する思考過程に変化はない。


 その後、モニター画面が大きくなって、原稿用紙が2枚以上も見渡せるようになると、作文の思考過程も変わった。

 メモ程度の下書き(プロット)をもとに、パソコン入力しながら画面上で推敲を繰り返す。


 そんな風に文章の途中からでも打ち始めて繋ぎ合わせる癖がついてしまうと(原稿用紙の升目を埋めた時代のように)あらかじめ文章を考え文頭から書き始めることが難しくなった。


 今では、葉書を書く際に、予めパソコンで打ってみたり……と情けない。


 パソコンは〈医師脳の杖〉である。

 もはや手放すことはできない。


 モニター画面を見ながら両手の指を動かす作文は、爺医の脳にも良い刺激になっているはずだ。

 そんな自信作だが……。


  推敲し洒落きかせしつもりのエッセイも妻にはうけず寂しき夕餉


  『明鏡欄』へ三か月ぶりに掲載され妻の評価もソコソコなりき


  二年ぶり月刊『弘前』への連載に「ごきげんね」とぞ妻も喜ぶ


  ピン札の原稿料を仏壇に供へし妻の読後感まつ


  我がエッセイ更に南下し仙台市の季刊し『みちのく春秋』にも載る



 パソコン画面を縦書きにしたら、作文の思考回路まで変わった。


 それにしてもパソコンの作文機能は素晴らしい。

 レイアウトの変換も自由自在で、文字通り縦横無尽の活躍である。

「さすがは爺医の脳の杖だ!」と煽て挙げておこう。

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