巻かれるゼンマイ

 オルゴールから伸びる真鍮の管をたどってなんとかもとの病院に戻ってきた。

 

 地下への入口は霊安室。それも遺体安置用の引出しの中にあったみたい。

 

 こんなところに入れられてたなんて!

 

 もう夜になってるけど、お母さん怒ってるかな……?

 

 急いで病室に戻ったけれどそこには眠るおばあちゃんの姿だけだった。それどころか、病院には人っ子一人いない。

 

 みんな何処に行っちゃったんだろう?

 

 いつまで待ってもお母さんは迎えに来ない。そのうえ、おばあちゃんはちっとも起きないし……

 

 美空は置手紙をして先に家に帰った。

 

 お母さんへ

 先にお家に帰ってます。

 

 幸いバスはすぐにやったきた。だけどバスの中には、ほとんどお客さんは乗ってない。

 

 トレンチコートのおじさんがいち、に、さん、し、五人。

 

 みんな新聞を読んでるけど、新聞には百円玉くらいの穴が空いていた。そこから目玉が覗いてる。

 

 住宅地で降りると走って家に帰った。だけど家に帰ってもお母さんはいない。いくら待っても帰ってこない……

 

 お母さん……どうしたんだろう?

 

 お父さんは住み込みで働く炭坑夫だから、なかなかお家に帰ってこない。だから普段はお母さんと二人きりで暮らしている。

 

 お母さんの働く図書館に電話をかけてみたけれど繋がらない。

 

 明日の朝には帰ってくるよね?

 

 だけど朝になってもお母さんは帰ってこなかった。

 

 街はゼンマイ巻のお祭りの準備で大騒ぎ。

 

 誰も相手にしてくれない……

 

 島の中心ではそびえ立つゼンマイ鍵に、一日一色、七日間かけて、七色の縄がかけられていく。

 

 七日目の夜に、島民がみんな集まってゼンマイを巻くのがお祭りのフィナーレ。

 

 美空は仕方なく一人とぼとぼ図書館に向かった。図書館は開いていたけれど、中には誰も居なかった。

 

 こうなったらとことん探すぞ!

 

 図書館の中をしらみつぶしにくまなく探す。やっぱりどこにもお母さんはいない。

 

 ふと気になって、お母さんがいつも座ってる受付の席を見に行くと、そこには茶色い封筒がひとつ。

 

 表面には「美空へ」の文字。

 

 なんだろう? お母さんの字だ。

 

 開けてみると不思議な印と「七つのゼンマイを巻いて」と書かれた紙が一枚入っていた。

 

 七つのゼンマイ?

 

 美空は、昨夜Dr.ドクターが落したゼンマイをポケットから出してしげしげと眺めた。

 

 そこには手紙にあった不思議な印と「Ⅲ」の文字がついていた。

 

 あっ!

 

 美空は突然思い出した。

 

 この印、図書館で見たことある! 学校でも! 病院でも!

 

 美空はお母さんの手紙を大事に仕舞うと、七つのゼンマイを探すことにした。

 

 なんとなく、ゼンマイ巻が終わるまでに全てのゼンマイを巻かないと、二度とお母さんに会えない気がした。

 

 そんなの絶対に嫌!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る