少年3

 ジンはロールパンに、苺ジャムをたっぷりと塗りつけ満足げに頬張った。シウはバターのほうが好みであるため、銀紙をほどくとナイフを使い、一欠片をパンの表面にのせる。

「別に。どっかに犯人が潜んでないか、不安で見回ってたのさ」

「そういえば夜中、野良猫が唸っていたな。もしや、その時に不審者がいたのか? ありゃ夢じゃなかったんだな」

 その言葉を聞きつけたセトがわざわざやって来て、ジョッキになみなみと注いだ牛乳をジンの前にドカリと置いた。

「何だね?」

「牛乳ですよ。寝つきが悪いようなので、お持ちしました」

「ワシにだけか? だいたい、まだ朝じゃないか」

「じきに夜になりますよ。それに、ご子息様には疾うに飲ませましたよ。もっとも、ワタシじゃなくてレイですが」

 間が抜けた顔をするジンにセトは珍しく微笑んで、厨房に引っ込んでいった。入れ替わって、リースがトレイを手に持って出てきた。朝のデザートを配るようだ。

 ノアとサイリに配膳し終えたリースは、シウの許に来た途端、眉を顰めて囁いた。デザートは、薄皮を剥いたグレープフルーツに、ヨーグルトをかけたものだった。

「嫌ね、黒服なんて。レイ兄さんったら、あんな人たちを招き入れちゃうんだから」

 リースが覚えているのか定かでないが、昨日彼等がペンション裏の階段にいたのは本当だろう。サイリが負傷したことで遠くへも行けず、やむを得ずこの宿に泊まろうとしたところを彼女は出会したのだ。実際に宿泊許可を与えたのはセトに違いない。

 こそこそした態度を敏感に感じとったサイリが、軽蔑的な眼差しを向けてくる。シウはリースに早く離れるよう視線で促し、平静を装おった。

 隣のテーブルへ移ったリースに、四号室の女がそっと腕を掴んで耳打ちをする。幸い、あのうるさい男は席を外していた。リースは曖昧に頷いた後、やっと厨房へ引き返した。

 シウはデザートを食べながら、正面のテーブルをこっそり盗み見た。サイリはジンと同じく、ジャムポットを頻繁に触る。彼は姿勢を正して品よくパンを齧っていたが、うっかりジャムが上唇をはみ出てしまった。

「……行儀が悪いな」

 ノアは腰を浮かせて、サイリの上唇に付着したジャムを舐めとった。彼等はその行為をきっかけに互いに貪りつく。視線が釘付けになっているメイヤの瞳を、両親が揃って塞ぐ。老女は特に気に留めず、四号室の女は厨房の小窓に夢中だ。ジンは飲みすぎてお手洗いに立っている。ふとサイリと目の合ったシウは、自分が嫉妬していることに驚き顔を背けた。

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