少年2

「勘違いされているようですが、俺たちは被害者です。昨夕、弟が何者かによって石を投げられ、額に怪我をしたばかりなんだ。恐らく、同一人物でしょう。ほら、サイリ」

 ノアは傍らにいる人物を、自分の前に引っ張り出した。ジンの横幅で見えなかったが、ソファにもう一人座っていたのだ。その正々堂々とした態度の少年を、シウは息を呑んで見つめた。昨日ビーチ沿いの歩道にいた、まさにあの少年だったからである。

 サイリという名の少年は、額にかかっていた髪を手で払い、傷痕を二人に示した。こめかみ付近に細長く切れた筋があるのを認めたレイは、閉ざしていた口をとうとう開いた。

「事情は判りました。ところで、宿泊名簿に貴殿方の名前がないようですが」

「俺はノア、こっちはサイリ。昨夜五号室が空いているというから行ってみたら、別室の母親たちが抱き合っててね、仕方なくこいつと野宿さ」

「貴殿方も抱き合って寝たんでしょう」

「そっちこそ、満足したんだろう」

 不意にノアと視線が交わった気がして、シウは咄嗟に顔を逸らした。幸いジンには意味が伝わらなかったようで、兄弟の仕業でないと理解した途端、悠長に背伸びをした。

「まあ、犯人は後でワシが捕まえてやろう。君たちもダイニングにどうだ? 腹が減っただろう」

「そうですね。じゃあ、遠慮なく……」

「ワタシもそろそろ厨房に戻らなければ」

 割れた硝子や破片をそのままに、一行はリビングを後にした。最後尾の少年がシウの脇を擦り抜けようというとき、突然肩を扉口に押さえつけられた。大人びているが、同じくらいの背丈だった。

「俺のこと、昨日からずっと見てるよね。……そんなに気になる?」

 黒曜石を雫形にしたネックレスが胸許から覗く。目の前の少年は狡猾な笑みを浮かべ、シウのアンダーシャツの中へ片手を潜り込ませた。シウは逃れようとしたが、サイリがそれを赦さない。たった二、三度の刺激により、シウの下半身はすっかり昂ってしまった。

「どうされたい?」

「……どうって」

「知ってるくせに」

 繊細な指の感触はあっという間にそこを離れ、サイリはダイニングへ駆けていった。束の間期待した自分を恨んだシウは、一旦お手洗いに寄り、熱を解放するしかなかった。


 ダイニングへ戻ると、既に朝食が提供されており、各々食べ始めているところだった。シウが着席すると、向かいのテーブルからサイリが微笑んで寄越す。シウは不快な顔つきを返したが効果はなく、彼は平然とコンソメスープをまた飲みだした。

「遅かったじゃないか。今まで何処にいたんだ」

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