ボート 編

 人生とは、ドコでどうなるか分からないモノである。

 遊園地デートで、ボートとの運命の邂逅を果たした茂は、美智子とのデートの度にボートを漕ぐようになった。


 そして徐々に、趣味から競技へと変わっていた。

 

 あの遊園地デートの日、対岸で茂に熱視線を送っていたのは、ボート日本代表のコーチであったのだ。


 のちに彼はこう語っている。

 ――あそこまで後ろ向きな奴は初めてだ――


 鳴り物入りでボート界にバックステップした茂は、その持ち前の後ろ向きさをいかんなく発揮し、あっという間に日本代表の座を勝ち取った。


 そして世界をも圧倒。とうとう、その頂へと登り詰めた。


 喝采を浴び、表彰台の一番高い所に立つ。

 燦然と輝く首元の金メダルよりも、汗に濡れた広い額が光り輝いていた――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オレが後退すればハゲない!! せんぶり @dreamjolf

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ