第30話 新感覚が過ぎる
「ちょ、止まんない止まんない!…ぶ、ぶつか!どわー!!!!」
がっしゃーん!
大きな音を立てながら、私は頭から物置小屋に突っ込んだ。
いたた…あ、おっす!どうも!ハリナだよ!ただいま絶賛修行中!聖女としてまだまだの私は、シスター見習いという形で大聖堂で頑張ってるよ!え、そんな扱い許されるのかって?…どうなんだろうね?私からの希望だからアウトよりのセーフなんじゃない?もしくは黒寄りのグレー。
あ、そうだ!少しずつ十二神教について勉強もしてるんだよ!初めて知る事ばっかで案外楽しいかも!めっちゃ眠いけど!
お祈りも様になってきたってこの前、先生に褒められたよ!めっちゃ眠いけど(照れ隠し)!
でも、でもね?たった一つだけ疑問があるんだ。それは…
「おやおやハリナ様。新感覚礼拝スタイル『スライム滑走礼拝』を覚えるのに一体どれ程の時間を掛ける気でしょうか」
ニコニコ胡散くさい笑顔で近づいてきたのはご存知、胡散くさ神父ことライデス神父。相も変わらず顔は良いのに、そこはかとなく胡散臭い。
私は、ニコニコ笑顔の鬼畜神父をジト目で見ると、スライムの粘液でベタベタになった全身を見せつけながら声を上げた。
「ねぇ!ホントにこんなの覚える意味あるの!?」
「ええ、もちろんですとも。シスタープックランなど、毎日、錐揉み回転しながら『スライム滑走礼拝』してますよ。…おや、ちょうどあちらにプックランさんが」
「へ?」
神父が中庭の廊下を指差した。すると、長い渡り廊下を真っ直ぐに飛んで行く何かが…。
「がっはっは!天に召します我らが十二の星々よ!皆様の栄光のおかげで私たちの日々は健やかに照らされております!がっはっはっはっは!」ギュオオオオオオオン
す、すげぇ。投げられたボールみたいに豪速で飛んでった…。あのガハハ系卵型おばちゃん、あんな事できるんだ…。…って錐揉み回転ってなに!?なんか今空飛んでなかった!?
「逆に神舐めてない?」
「敬い過ぎたのですよ」
そんなもんなのかな…。私は訝しんだ。いや、どうなんだろう。多分違うと思う。
「我々は神に仕える身。ハリナ様も今後、聖女として多忙になるでしょう。その為にも早めに『スライム滑空礼拝』を覚えましょうね?」
なんか地味にレベルアップしてない?というかやだな!あれが当たり前になるとか!私は絶対ああはならないよ!
…その後も、私はぶーぶーと文句を垂れながら日が暮れるまで、『スライムなんちゃら』こと『土下座スライディング礼拝』の練習をした。
「うぅ…全身ベタベタだし、あちこちが痛い…」
「多少は形になってきましたね。後一歩というところです」
この修行だけ体バキバキになるからヤなんだよ。お風呂の時間とか擦り傷にめちゃくちゃお湯が染みる。そうだ。聞きたいことがあったんだ。私はシスター服からスライム汁を絞りながら、胡散くさ神父に尋ねた。
「ねえ、ライデスさん。カタラナさんはどうなの?」
「…彼女は未だ塞ぎ込んでる様ですね。アリストア様もお怒りですが、先日の出来事がかなりショックだったようで。今もウィンスキン伯爵家…彼女の実家に引きこもっておられるようです」
「そっか…」
私は少しだけ俯く。先日…2週間前の、街中私誘拐事件の件で、カタラナさんは洗脳されてしまっていたらしい。
その時、バリュー司教こと同士じいちゃんに襲いかかった事を気に病んでるみたいで、あれからずっと大聖堂の方には顔を出してないみたいなんだよね。
胡散くさ神父曰く、理由はそれだけじゃないみたいだけど、どうしたのかな?心配だなぁ…。
「ねぇライデスさん」
「はい、なんでしょう?それと、さんは不要ですともハリナ様」
「善処するよライデスさん」
「…。で?なんでしょうか」
「カタラナさんの後任とか要らないからね?私はカタラナさんがいいから。…今度、会いに行けないかな?」
「はあ。一度確認しておきましょうか。…まあ、貴方自身が行く事に意味があるのでしょうしね」
「?」
いえ、と彼は一言断ると今日は解散となった。私は1人てちてちとお風呂場に向かう。このだだっ広い大聖堂にもすっかり慣れた。通り過ぎるシスターさんや神父さんに頭を下げながら、スライム滴るいい女な私。
なんで胡散くさ神父とか、他のシスターとかは土下スラでスライムまみれにならないんだ…。全身に満遍なく絡みつくはずなのに…。ジョルスキヌス七不思議の一つに入れよう。他の6つはまだない。
お、気がつけばお風呂の目の前だ。よし、気を取り直してお風呂お風呂!ほんとここのお風呂広いよなー。お世話役の用意もしてもらえるんだけど、私はそういうのはちょっと…。洗ってもらうとか恥ずかしいしね。
私がいそいそと服を脱いで、髪と体を清めて…なんか太ったかも…気のせいかな。お腹がぷにっとしてきた気がする。う、うん、気のせい気のせい!さ、湯船にダイビングだ!私が湯船に近づいたその時だ。
「ざばー!!!」
「わっ!て、キューちゃんか!ビックリさせないでよもう!」
湯船から勢いよく飛び出してきたのは白い髪の女の子、キューちゃんだった。私が来るまでずっと潜ってたの!?彼女は口からダバダバお湯を吐きながら元気そうに笑顔を浮かべてきた。
「ドッギリ゛大゛成゛功゛!!しむかと思った!」
「何してんの…」
この子たまーに、会うんだよね。シスター見習いっぽいのに礼拝堂とか、他のシスターたちの中では見た事ないんだけどなぁ。こんな目立つ子すぐ見つかると思うんだけど…。
私は破天荒な彼女に圧倒されながらもすぐ隣に腰を落ち着けた。ふぅ…温かい…。
「ねぇハリナ!知ってる?」
「な、なにを?」
「ごくごくごくごく」
急に湯船のお湯をがぶ飲みし始めたキューちゃん。シンプルにきしょい。私は慌てて彼女を止めに入る。
「ちょ、汚いよ!やめなよ!」
「ごくごくごく!聖女の出汁が効いてるね!」
「私の前にシスタープックランが入ったらしいよ」
「おえー」
「失礼だよ!嘘だし!てか吐くな!」
「吐かない吐かない。冗談だよ!」
「一発のネタに体張りすぎなんだよいちいち!」
突拍子のない行動ばかりするキューちゃんはマジでクレイジーの類だと思う。彼女の前ではツッコミ役にしか回れない。
そんなイカれぽんちな彼女は、グイッと口元を拭うと、宝石の様な真っ赤な瞳を向けて改めて話しかけてきた。
「で、話は戻るんだけど。今度さ、王城から王子様がハリナのこと見に来るんだって!楽しみだね!」
「おーじさま?」
初耳なんですがそれは。
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