第31話 スルトワカルト・ナンテコッタ・トンデモナ!

「王子様?」

「うん!王子様!この国…トンデモナ王国国王ニャクトハルト・ナンテコッタ・トンデモナ三世の長男、スルトワカルト・ナンテコッタ・トンデモナ王子だよ」


 なんて?


 そういえばこの国そんな名前だったっけ。私はキューちゃんが口に出した早口言葉みたいな名前を反復しようとするも、危うく舌を噛みそうになってしまう。


「ニャル…スル…パンナコッタ?」

「ニャクトハルト・ナンテコッタ・トンデモナ三世とその息子、スルトワカルト・ナンテコッタ・トンデモナ王子!」


 …なるほど、わからん。これまた噛みそうな名前しやがって。白塗り伊達男こと、ワイドの名前のシンプルさを見習え!ワイド・ワイド!ふぅー!短いって最高!

 1人脳内で盛り上がっていると、キューちゃんが湯気でモワモワの天井を眺めつつ語り出した。


「国王のニャっくんはねぇ。小心者なのがちょい玉に瑕だけどいい人だよ!野心が無さすぎるって言う人もいるけど、トンデモナの気質には合ってると思う。十二神教への信心も厚いし、僕たちの活動にも口出ししてこないしね」


 へー。だから王都の至る所に教会があるんだ。じゃなくって!いまこの子、王様のことあだ名で呼んでなかった!?ほんとこの子いちいち発言が危ないんだよ!やだよ不敬罪とか!

 私が彼女のあまりにあんまりな発言に生唾ごくりしていると、彼女は自身の白い髪を摘み、口元で付け髭のようにしながら物知り顔でふぉっふぉっふぉ!とわざとらしい笑い声を上げる。


「東の帝国とかはここと違ってやばいんじゃよ?代替わりした帝王が野心モリモリ過ぎて争いが絶えないみたいなんじゃ。国民は疲弊しきってるらしいし、典型的な上だけが張り切ってるやつだね。まぁ、あそこ担当のヒルヒュージは喜んでるけどさ」


 ヒルヒュージ?誰だろう?帝国の方の神父さんとかシスターとかかな?でも、そっかあ。私たちってラッキーなんだね。

 王国っていうか王都はみんなのびのびしてる感じがするし。私も結構気に入ってる。

 物知り博士キャラに速攻で飽きたのか、キューちゃんはすぐに髪から手を離す。そして、代わりに彼女は人差し指をぴん!と立てた。


「で、話は戻るけど!王子様、スルトワカルト・ナンテコッタ・トンデモナくんはねぇ。えーと、噂によるとパパ王、ニャっくんを反面教師にすくすくと成長した結果…」

「結果…?」


 反面教師…?なんか嫌なワードが出た気がするなぁ。

 私が嫌な予感に顔を歪めていると、キューちゃんが勿体ぶるようなパフォーマンスを始めた。


「なんと…」

「なんと?」

「な、なんと!」

「なんと?」(イライラ)

「な、な、なんと!」

「…なんとぉ?」(長いなぁ)

「なんと僕たちジョルスキヌス十二神教が大嫌いな生意気つっけんどんになりましたー!どんどんぱふぱふ〜!」

「駄目じゃん!」


 駄目じゃん(心の声)!えぇ!?私そんな王子様と顔合わせなきゃ駄目なの?絶対イヤなんだけど!これ絶対、どっちもヤな気持ちで終わるやつじゃん!

 すると、私のリアクションに満足気なキューちゃんが腕を組んで、何故か偉そうに胸を張った。


「うん!宗教なんかくだらねぇ!ってタイプだね。まあ、ナヨナヨなニャっくんを見て育って、流れで十二神教の方も嫌いになっちゃったんだと思うよ?まだ13歳だから軌道修正は可能だと思うけどね」

「へ、へぇ…」


13歳なんだ…。カリオくんと同い年かぁ。


「でもこのままいけば、生意気王子様が王様になった暁には僕たち十二神教は追い出されちゃうね!きっと!」

「駄目じゃん!」


 まじで駄目じゃん!


「だから〜、ハリナには頑張ってスルトくんに興味を持って貰わないとね!」

「え!?なんで私が!」

「今回が初めてなんだよ」

「な、何が…?」

「あの生意気王子が自分から僕らに関わろうとするのが」

「うわ…」


 絶対面倒臭いやつじゃん。絶対アレだよ?「ふん、お前が救世の聖女ってやつか。随分と地味なんだな。お前みたいな子どもに何が出来るっていうんだか!」とか言ってくるよ!私が妄想を逞しくさせていると、不意にキューちゃんがざぱん!と勢いよく立ち上がった。わばば!お湯がすごい飛んできた!


「わぷ、どうしたの?」

「…むむ!僕のぼせるかも!先、上がるね!じゃあねハリナ!」

「え、あ、うん」


 そのままドタドタと浴場を後にした彼女を、呆れつつ眺めていた。相変わらず嵐みたいな子だなぁ。それからしばらく、ジャパジャパだだっ広い浴槽を泳いでから、私もお風呂を出ることにした。


コンコン


「んん?」


 風の魔法の込められた道具で、ぶおんぶおん髪を乾かしていると誰かが入口のドアをノックしてきた。誰だろ?


とてとてガララ。


「誰ですか…っと、あれ?オリオット先生!どうしたんです?」

「おや…。これはこれは聖女様。本日も修行の方、お疲れ様でした。聖女様は頑張り屋さんですねぇ」

「えへへ」


 そう言って優しく頭を撫でてくれたのはハーフエルフのお兄さんことオリオット先生だ。風呂上がりはやっぱオリオット先生だね!

 いや〜、やっぱ胡散くさ神父とは違うね!優しいところとか、爽やかなところとか、優しいところとか!ほんと理想を形にしたみたいな人だよ!

 私が頭なでなでに屈していたのも束の間のこと。そういえば、先生は誰かを探してたみたいだ。私は穏やかな笑みを浮かべるオリオット先生に撫で撫でされつつ、尋ねる事にした。


「先生、誰か探してるの?さっきキョロキョロしてたけど」

「おや、察しの良い方ですね。ええ、教皇様がこちらにおられると思い、足を運んだだけのことです。ですが、今は聖女様1人しかおられないようですね」

「うん。今は私しかいないよ!」


 キューちゃんはそそくさと出て行っちゃったしね。へー、それにしても教皇様がねぇ。私もまだ会ったことないなぁ。やっぱ偉そうな感じなのかな?イカつい感じ?ヨボヨボだったり?

 私が未だ見ぬ教皇様のツラを想像していると、オリオット先生が立ち上がる。あぁん。もうちょっと撫でて欲しかった!


「ふふ、また明日の授業の時に。では私はここで。おやすみなさい聖女様」

「うん!おやすみ!」


 オリオット先生を見送った後、ほこほこ湯気を上げながら部屋に戻ろうとすると、立ち去った筈の先生が早足気味に戻ってきた。どしたんだろ?


「申し訳ございません。聖女様にも一つお伝えすることがありました」

「うん?何?」

「十二司教の方々との顔合わせの日程が3日後に決まりました。どうぞ、そのおつもりで」


イベント盛り沢山だな、おい。

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