第11話 ぶくぶく。お風呂だよ。
ちゃっぷりん。
「ぶくぶく。お風呂だよ」
「何言ってるんだ、聖女様は…」
一緒にお風呂に入ってるカタラナさんがなんか言ってる。むむむ。中々なおっぱいだ…。
すると、私の視線を感じたのかすっ…と両手で胸を隠すカタラナさん。なんでい、けち。
…ふいー。それにしても広いお風呂だなー。村ではお風呂なんてなかったからね。沸かしたお湯で体を拭うだけ。暑い時は川でジャバジャバ洗ってた。え?なんでお風呂を知ってるかって?昔、住んでたエルフさんが色々お話してくれたからね。なんだったか、火の神様を奉る火山?のある里のお風呂は凄いらしい。私も聖女ならいつかは行くのかな?でも暑すぎるのはやだなー。
そんな事を考えながら私はすいすいとカエルみたいにお風呂を泳ぎ回る。
「こら、行儀が悪いぞ聖女様」
「ふぁーい。…ねえ、カタラナさん。前から思ってたんだけど聖女様って呼ぶのなんかヤダ。タタラガみたいにハリナでいーよ」
「む。アレはタタラガがおかしいんだ。本来であれば、もっとかしこまった態度をだな…」
じーっ。
「なんだその目は」
じじじーーーっ。
「な、なんだよぉ」
じじじのじーーーーっ!
「…わ、わかったわかった!ただし、皆の前では聖女様で通すぞ!わかったなハリナ!」
「うん!」
諦めた様に頭を押さえてため息をつくカタラナさん。
やったぜ!同じ女の人がカタラナさんくらいだからもっと仲良くなりたかったんだよね。旅の途中でも何かと気をかけてくれたし、これからも仲良くしたい。まぁ、タタラガも嫌いじゃないけどね。胡散くさ神父は知らん。
「ねーカタラナさん」
「なんだ。というより、ハリナの方も聖女であれば私のことを呼び捨てするべきなんだぞ?タタラガのことはそうしてるじゃないか」
「えー?だって、タタラガはタタラガって感じだし。カタラナさんはカタラナさんって感じなんだもん。今更変えたりできないよ」
「……まあ、タタラガはわかるが」
納得するんかい。まあ、タタラガにさん付けはなんか申し訳ないけど考えられない。なんでだろうね。不思議だね。「不思議で済ますんじゃねぇ!」なんかタタラガの幻聴も聞こえるね。
「ねー。そんなことよりカタラナさんのこと教えてよー」
「私のこと?例えばなんだ?」
「おっぱいのサイズと「この話は終わりだ」
ザパーン、と彼女は音を立てて立ち上がり風呂から出ようとする。そんな彼女のしっかりとした筋肉のついた太ももに私は必死に縋り付く。
「冗談!冗談!冗談だよぉ(にへらぁ)」
「ライデス神父そっくりの嘘くさい笑顔だな…」
嘘ぉ!やだよそんなの。私は絶望で風呂の底に沈みかけるが、カタラナさんががっしと私の胴を掴んで引き上げた。わお、力持ち。
私はまるで持ち上げられた子猫の様にぷらぷらしながらカタラナさんと目を合わす。
「で?何が聞きたいんだ?」
「んー?なんでもいいよ!そうだ!改めて自己紹介しあおうよ!」
そう言うと、カタラナさんはなんだかむず痒そうな顔で頬を指でかいた。
「どしたん?話聞こか?」
「なんだその軽薄なセリフは…。いや、その、聖騎士には同性のものが少なくてな。子ども相手とはいえ、なんだか気恥ずかしいと言うか」
可愛いとこあんね。私はついつい口角が上がってしまう。
「な、なんだ?笑うな!笑うなよぉ!」
「んふふふふ。いやー、なんでもないよぉ。
じゃあ、私から自己紹介するよ!
私の名前はハリナ!10歳だよ!羊毛の名産地ソンダケ村の出身で、好きな食べ物はトマトとかお芋とか!
嫌いな食べ物はとくになし!
胡散くさ神父に聖女として無理やり連れてこられました!よろしくぅ!」
元気いっぱいに自己紹介する私に初めは呆気に取られていたカタラナさんだったが、不意に楽しそうに笑い始めた。
そんなに面白かったかなぁ?
「なんだよぉ」
「あはは!いっ、いや…すまない!あまりに元気に連れてこられたなんて言うものだから…。う、胡散くさ神父ってライデス神父のことか?!っあはははは!」
なんかツボに入ったみたい。
「こ、こほん。では、私の方も自己紹介するとしよう。
私の名前はカタラナ・ディ・ウィンスキン。年齢は19歳。ウィンスキン伯爵家の末の娘だ。
好きな食べ物はユメミ茸のソテーサラダ。
嫌いな食べ物は瓜系の果実。
ジョルスキヌス十二神教の『青の聖騎士』を務めている。今はおてんば聖女様の世話役だな」
「え!?誰がおてんばじゃい!…じゃなくて、カタラナさんって貴族なの!?」
「…見てわからないか?」
ふーん。ほーん。言われてみると確かに気品とかあるかも?……いや、わからんわ。全然わからん。
まあ、いいでしょ。そんなことより女同士なら腹割って話そうや!ガールズトークってやつだね!普通は寝室でやるもんだって?知らん知らん!さぁさぁ!めくるめくワクワクドキドキの時間だよ!
「ねえねえ。カタラナさんって好きな人いないの?」
「はああ?突然何を言い出すんだ。いるわけがない」
私の突拍子のない質問にカタラナさんはじっとりとした視線を向けてくる。
ちなみに村ではいつも突拍子のない質問を投げかけるから『
そんな彼女に私は負けじと言葉を続ける。
「えー?でも、顔はいい人多くない?ライデス神父もそうだし、オリオット先生とか」
「ふん。まだまだお子様だなハリナは。そもそも神父は趣味ではない。それと、先生は人として尊敬しているだけだ」
「じゃあタタラガは?」
「一番ないだろ!」
ひどい言われようだ。なんでじゃい!タタラガだっていいとこあんだぞ!
「でも、結構相性いいと思うよ?」
「ないない!あんなトカゲ頭となんで私が!」
「えー?でもー?」
「でももへったくれもなーい!」
お風呂で年甲斐もなくはしゃぐカタラナさん。
そんな彼女とたっぷりとガールズトークを楽しんだ頃には私たちはすっかりのぼせ上がっていた。
**************♪**♪**
「おまえら、風呂長くね?」
ラフな服装に着替えたタタラガがアホ面で聞いてくる。そんな彼をカタラナさんはギロリと睨み付けた。さっきのお風呂のことをまだ引き摺ってるんだろうか。
「うるさいベニイロトカゲ」
「なんで急に悪口言われたんだ俺は」
ごめんねベニイロトカゲ。私のせいだと思うよ。口には出さないけどごめんね。
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