第12話 語彙力か?奴は死んだ。

 お風呂を上がった後、私たちは昼食を取った。出てきたのは見たこともない豪華な昼食。なんかステーキとなんかスープ。あとなんかサラダ。あとパン。美味しかった。語彙力は既に死んだ。多分、慣れない豪華なご飯で後でお腹くだすわ。覚悟しろよ私。すでにごろごろ言ってる気がするな。気のせいかな?

 今、私はうつらうつらと船を漕ぎ漕ぎしながら、食器の片付けられたテーブルで聖騎士2人と先生の合計4人で席についている。胡散くさ神父は未だに戻ってきていない。


「眠そうだな地味ん子。今日はもう休めよ」

「ん〜?ん〜」

「これは半分寝ているな…」

「ふふふ。旅の疲れが出た様ですね。では、今日はもうお休みになられますか?」

「ん〜」


 私は最早ん〜、としか言えない半寝半生状態だ。

 その答えに3人は笑い、先生がカタラナさんに寝室へ連れて行く様に促した。カタラナさんが私の席の前で背中を向けてしゃがむ。乗れということだろう。お言葉に甘えて…。ねむ…ねむ…zzzzz。

 

**************♪*♪***

〈タタラガ視点〉


 地味ん子の奴、すげーブサイクな寝顔だな…。白目剥いてんぞ…。

 カタラナのアホが半目で寝ているハリナのやつを寝室まで連れて行くのに部屋を後にしたので、俺はここぞとばかりに先生の方へテーブルから身を乗り出す。明日の予定について教えて欲しい事があったからだ。

 ハリナの奴をいろんな所に連れてってやりてーからな。俺のプランを聞いてもらおうってわけよ!先生なら安心して話せるぜ!


「なあ先生。明日なんだけどよぉ」

「ふふ。タタラガくんも成長しましたねぇ」


 先生はそう言ったかと思うと、席を立ち備え付けの棚から何やら瓶を取り出した。

 お?アレは…さ、酒だ!ふぅー!やるな先生!最高だあんた!


「ふふ、アリストアくんに頂いた20年もののワインです。今日はこれでも開けましょう。」

「おいおい!真っ昼間からとは、先生も悪だなぁ!」


 アリストア、それは『青の聖騎士』の団長の名前だ。いけすかない野郎だが、酒の趣味はいいと聞く。

 しかし、俺みたいな不真面目な奴はともかくみんなのお手本である先生が酒なんか飲んで良いのかよぉ?


「なぁに。可愛い教え子たちとの席を囲む時くらいは神もお許しくださいますよ」


 そう言って先生は微笑んだ。頭の硬いお偉い連中とは違って、先生は柔軟だ。だから俺みてーな不良生徒にも先生は好かれている。

先生はワイングラスを取り出すと、にこりと微笑んでカタラナの席にもグラスを置いた。


「カタラナくんが戻って来たら彼女も誘いましょうか」

「おいおい、アイツは絶対断るぞ!それに俺も先生も怒られるっての!」


 それもそうか、と俺たち2人は声を上げて笑う。まあ、今日くらいは良いよな!

 楽しい一日になりそうだぜ!


************♪♪♪♪♪♪♪*

 

「んむぅ…ふぁ〜〜〜」


 あれ?いつの間にか寝ちゃってたみたい。尿意を感じた私は目をしぱしぱさせながら、ベッドから起き上がる。窓の外を見ると、既に外は真っ暗だ。一体、何時間寝てたんだろう?でも、そんなことより…


「おしっこ…」


 覚束ない足取りで私は部屋を出る。ここどこの部屋なんだろう?というより、トイレってどこ?ドアの外を見回すが、薄暗くしんと静まり返った長い廊下にはたくさんの部屋がずらりと並んでいるだけだ。


「…これはまずいかも」


 とりあえず行動しなければどうにもならない。私は虱潰しに片っ端からドアを開けていくことにする。……違う、違う、違う、違う。


「やばい。膀胱が爆散しそう」


 私はモジモジしながら内股気味に歩みを早める。もう!トイレはどこなんだよ!全部似たような部屋ばっかじゃん!味気ないというか、これといった特徴のない部屋に廊下をズンズンと突き進む。

 そして、ふと私は気づいてしまった。

 あれ?もしかして、私戻ることも出来ないのでは?

 くるりと振り返ると最早そこは大迷宮。


「…詰んだか?」


 *******************


「うぅ〜、漏れちゃうよ。膀胱爆死事件だよ〜」


 戻っても仕方ないと感じた私は更に廊下を突き進む。やばいやばい。どんどん内股になっちゃうよ。すでに私の脳内は8割型おしっこに支配されている。決壊寸前の膀胱を抱えながらよたよた廊下を彷徨っていた私だったが、突き当たりを曲がった所で足を止めた。

………おや?これと言った特徴のなかった廊下だったが、正面の窓辺にふと何やら目に入るものがあった。それはおそらく…人影だ!おおっ!


「もしかして人!?」


 やった!もしかしたらトイレの場所知ってるかも!私は極力早足で人影に近づくが、その正体を見て驚愕した。


「ええ!せ、石像かよぉ!」


 そう。それは頭から爪先まで真っ白な男の像だ。窓の外をぼんやりと眺めるようなポーズで立っている。がっかりだよもう!

 …でもなんでこんな所に像?それによく見てみると、その石像は何故か同色の白いおしゃれな帽子や革鎧を着込んでいる伊達男といった感じの見た目だ。


「天使とか神様とかならわかるけど、なんで伊達男?」


 尿意も忘れて、まじまじと私は変な石像を観察する。すると、


「………驚嘆。俺なら吃驚だ」


 ぼそりと呟き、こちらに振り向く石像。


 ゑ?


「しゃ、喋ったぁぁぁ…むがもご!」


 慌てふためく私の口をそっと押さえ、伊達男の像はゆっくりとした動作で自身の口元で白い人差し指をすっと立てた。


「静粛。俺なら沈黙だ」

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