第10話 妖怪"褒め殺し先生"、そう名付けたよ。
「先生?」
「ええ。先生ですよ。」
にこりと微笑む自称先生。
また濃いのが来たな、とちらりと後ろの胡散くさ神父を見ると、彼は半ば動揺したように問いを投げかける。
「先生…何故ここに?今の貴方は教皇付きのお役目を頂いていた筈…本来であれば教国の方におられる筈でしょう…!」
珍しく声を張る張り上げ神父。すると、自称先生は彼の方を振り向き、立ち上がる。そして、人差し指を立てると実に朗らかに「では問題です」と宣った。
「さぁライデスくん。賢い君なら答えがわかる筈です。なぁに、簡単な問題ですよ。はい、では皆さん!解った方は手を挙げてくださいねー」
「答えなんて…いや、まさか…そんな…」
す、すごい。あの胡散くさ神父がたじたじだ。それとこの人ザ・先生って感じだな。まあ、こちとらお爺ちゃん神父しか先生っぽい人は見たことないけど。
でも、なんとなく聞いた限り答えってアレなのかな?私ははーい、と手を挙げる。すると、オリオットさんは私に手のひらを向けて答えるように促してきた。
「はい。では聖女様」
「えーと、きょーこー様?がここに来てる?」
「はい、正解です!きちんとお話を聞いておられた様ですね。花丸をあげましょう」
人の良い笑みを浮かべながら、1人拍手を送ってくれる。ほう、案外良い気分だぞ。…ってあれ?なんだか聖騎士2人と神父が静かだ。
「…おいおい、マジかよ」
「教皇様がこちらに…?」
「ええ。今は奥にて礼拝中です。」
振り向けば口をあんぐりと開け、固まった聖騎士たち。
そして、その言葉に1番の反応を示したのはまさかの胡散くさ神父。その顔からは笑顔の仮面が完全に剥がれ落ちている。へー、胡散くさ神父の素顔ってこんなんなんだ。……って、え!?人相わっる!目つき鋭っ!うそん!あれがいつもニコニコ胡散くさ神父?うっそだー!職業人攫いとか言われても信じちゃいそう!
人殴るのが趣味みたいな険しい表情を浮かべた彼は、ばっと手のひらで顔を覆った。
「っ!あの野郎…!申し訳ありませんが急用を思い出しました!失礼します!!」
そう言って早足で聖堂の方へと神父は向かって行く。え?何?何なの?ただならぬカンケーってやつ?
そんな神父の去って行った方を見ながら、自称先生はおやおや、と声を上げる。
「ふふふ。彼も変わりませんねぇ」
変わらない?変わらないって何がだろう?あのクソ悪い人相がデフォルトだったりするの?まっさかー。HAHAHA!まさかだよね?
しかし、神父が行ってしまうと私はどうすればいいんだろう?
「えーと、私たちちょっとゆっくりしたいなーと思うんですけど…」
「おっと!申し訳ございません。聖女様にお会いできると思い、少々、気が逸ってしまいました。いやはや、それにしても大人に対してもしっかりと意見が言える。実に良いですよ」
「え、えへへ。ど、どうも。オリ…オリオリ…オリオさん?」
めっちゃ褒めてくるななんだこれ?チャンスか?しかし、名前がポンと出てこない。さっきから色々ありすぎたせいだろう。私の記憶力がやばいとかじゃない。絶対違う。じ、地頭は良い方なんだぞ!
私が名前を言い淀んでいると、ずい、と出てきたのはカタラナさんだ。
彼女はこほんと咳払いをし、姿勢を正して声を張り上げた。
「説明しよう!」
説明キャラかな?
「彼の名前はオリオット・ラブアンドハート!現在、十二神教に所属する全ての聖騎士の教師を務めた者だ!」
「全て?それってどう言う…」
「先生はよぉ。そりゃあすげえ人なんだぜ?聖騎士の最年長は100歳なんだけどよ、そんなとんでもねー爺さんよりずーっと昔の世代から教師をしてるんだ!」
「んん?どゆこと?」
タタラガはまるで自分のことの様に胸を張りそう言う。一体どういうことかな?100歳よりずっと上の世代…って100歳!?極度の人材不足かな?お年寄りをもっと大事にしてあげて!
…でもそんな高齢の人を師事してた?でも、先生の見た目はよくて20代後半だし…。
「第二問、ですね。さあ聖女様、解りますか?」
私はしばらく腕を組んでう〜ん、と唸る。あ!もしかして?
「エルフ?」
「おや!惜しいですね。しかし頭のいい子ですね聖女様は。ですが、手を挙げずに答えを言うのは推奨されません。ほら、カタラナくんが残念がってますよ」
カタラナさん?私は後ろを振り返ると。ちょこんと手を挙げたカタラナさんが悲しそうな顔を浮かべていた。
…な、なんかごめんね?
「答えの方ですが、正解はハーフエルフです」
そう言って白金の髪をかき上げてエルフの特徴である尖った耳を見せてくれた。エルフとハーフエルフ、二つの種の違いは耳の長さ。エルフの耳はマジで長い。ハーフエルフが人差し指くらいの長さだとするとエルフは更に手首の付け根くらいまでの長さがあるのだ。え?なんで私がそんな事を知ってるかって?その理由はね…
「しかし、聖女様はエルフをご存知なのですね。限られた土地にしか住まぬゆえ、地方では実在すら訝しむ者もいると言うのに」
「うん。私がもっと小さな頃に村にエルフの人が住んでたんだよね。もう出てっちゃったけど」
「ほう、そうなんですね。聖女様は記憶力が良いのですね」
「ま、まあね!」
また褒められて気分をよくした私はえへーん!と胸を張る。んん?でも、さっきの話で引っかかることがあるぞ?
「あの、オリオットさん?は聖騎士の教師役だったんですよね?」
「ええ。その通りです。あと呼び方は気軽に先生で結構ですよ」
あ、はい。なんだか人はいいけど押しの強さを感じる人だな。そんなことは置いといて、私は気になっていたことを聞く。
「胡散く…ライデス神父のことも昔から知ってる様な話し方でしたけど…」
聖騎士と神父って案外、関係が深かったりするのかな?すると、先生はああ、と声を出し私の頭を撫でてくる。少し硬いが優しい手のひらだ。私は心地よさに思わず目を瞑ってしまう。
「聖女様は賢い方ですね。ええ、ライデスくんは元聖騎士なのですよ」
「「「え?そうなの!?」」」
マジで!?なんだか想像できないなぁ?って、なんでタタラガとカタラナさんもびっくりしてるのさ!同年代でしょ!多分!
「タタラガお前記憶にあるか?」
「いや、まったく…」
う〜ん、と腕を組み頭を傾げる聖騎士2人。薄情だな!私はジト目で2人を見る。
そんな様子を笑顔で見ていた先生は口を開く。
「ふふふ。聖女様は感情表現が豊かな方だ。では、風呂の手配をしましょうか。それから食事のご用意も。健全な魂にはまず健全な肉体から…ですからね」
この人、さっきから事あるごとに褒めてくるな。褒め殺されちゃうよ。先生は再び腰をかがめ、私に握手を求めてくる。よろしくぅ!
「改めて…以後よろしくお願いしますね。我らが聖女様」
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