第4話 あ、そこサラッと流すんだ。

 ガタンゴトンと馬車は揺れ、ドナドナ私を連れて行く。


「ドナドナドーナー…」

「なぁ神父ライデス。この子は大丈夫なのか?目が完全に死んでるんだが…」


 ワタワタしながら心配そうに私を見つめる青い鎧に身を包んだ女騎士さん。彼女はキリッとした厳しそうな顔をしているが、案外いい人なのかもしれない。

 無理やり乗せられた馬車の中には洗脳疑惑のある胡散くさ神父の他に鎧を着込んだ2人の男女?が座っていた。今の今まで見かけなかったので、ずっと馬車の中にいたのかな?はぁ…そんなことより、


「ドナドナドーナツ食べたい…」

「…大丈夫そうだな」


 解せぬ。全く大丈夫ではない。


「なあ、こんな田舎のガキが本当に聖女なのかよ」


 乱暴そうなガラガラ声が私の隣から聞こえる。

 そう言って私の頭を乱暴にぐしゃぐしゃ撫でるのはもう1人の鎧の男?である黒い鎧のトカゲ頭の巨漢だ。腐ってても仕方がない。私は気になっていた事について胡散くさい神父に聞くことにした。


「この騎士さんたちはどうしているんです?

 それと、なんでリザードマンがいるんですか?」

「馬鹿野郎!俺はドラゴニュートだ!あんなトカゲと一緒にすんな!」


 憤慨するトカゲのおじさん。いやぁ、どっちがどっちかわかんないもん。村のおじいちゃん神父がたまに授業してくれたけど、ほとんど覚えとらんし。

 教えて、洗脳系胡散臭神父さーん!


「私は胡散臭くありませんよ?洗脳はしましたけど。君の正面に座る青い鎧の金髪の女性は『青の聖騎士』カタラナさんです。そして、隣の黒い鎧の方は『黒の聖騎士』ドラゴニュートのタタラガさんです」


 どうやら心の声が聞こえていたらしい。やっぱりこの神父さんおかしいよ。それにサラッと言ったけど洗脳はしてたんかい!マッドすぎるでしょ。悪役かな?悪役でしょ。

 それから、悪役系神父の彼はリザードマンとドラゴニュートについて教えてくれた。

 リザードマンは鱗の色が緑色でのっぺりとした顔が特徴。

 一方、ドラゴニュートの鱗は赤色で、リザードマンより角張った顔立ちをしているようだ。それと、彼らの種族には頭からツノが生えていて、それを誇りとしているらしい。そう言われてちらっとタタラガと呼ばれたトカゲ頭を見てみると確かに額の辺りから短い二本角が突き出ている。ごめんね。おできかと思ってた。


「こんなところですかね、どうですタタラガさん?」


 説明を終えた神父はタタラガの方を向くが、彼は人差し指を立て、チッチッチッと舌を鳴らしながら指を振った。どうやら、まだ満足していないらしい。腕を組んで偉そうにするトカゲ頭を目にすると、なんだか無性にしばきたくなってきた。私だけかな?


「まだ不十分だぜライデス。一番肝心なことを忘れてらぁ。…そう!俺らドラゴニュートはなぁ!龍の系譜にあるんだぜ!」


 ドヤ顔を決めたトカゲ頭だけど何それ?興味ないや。適当に相槌しとこうかな。確かこういう時に便利な「さしすせそ」があるらしい。よぉし、実践してみるか!まずは「さ」!


「さすが!」

「だろぉ!」

「しばくぞはげ!」

「…ん?」

「すばらしい!」

「お、おう…(聞き違いか?)」

「せ…せ?」

「せ?(せ?)」

「そうなんだ!」

「いやお前話聞いてねえだろ!」


途端に怒り出したトカゲ頭ことタタラガ。はわわ!だめだったよぉ(激カワ)


「聞いてんのかてめえ!」

「聞いてる聞いてる。りゅーのけーふ、りゅーのけーふ」

「てめえコラァ!」


 諦めて鼻ほじし始めた私を見て激おこの彼。憤慨し、狭い馬車内で頭を打ちつけながら立ち上がるタタラガだが、剣の鞘を顎に突きつけられた事でぴたりと彼の動きが止まった。


「喧しいぞタタラガ、子供相手に情けない。やはり黒の騎士を聖女様の護衛につけるのは間違いだった…。貴様のような下品な輩が聖騎士の品位を貶めるのだ」


 厳しい目を向け、彼を非難する青い鎧のカタラナさん。先程までワタワタしてた彼女とは大違いだ。…あれ?なんか空気悪いな?

 タタラガの方もブチ切れだ。睨み合う2人。


「あぁん?!陰気クセェ青の騎士がよぉ。ガタガタガタガタ五月蝿えなぁ…!テメェらみたいな貴族の犬が聖騎士全体を腐らせてんじゃねえのかぁ!?」


 まさに一触即発。私の発言が原因だと思うとなんだかすごく申し訳ない。私はダラダラと汗を垂らしながら俯いていたが、助けを求めるべく洗脳系神父の方をチラリと見る。

 わ、笑ってやがる…!あいも変わらずニコニコ笑顔のクレイジー神父。感受性ぶっ壊れてるのかな?

 どうも彼は現状を変えるつもりはないらしい。ぐぅぅ!元はと言えば私が蒔いた種。私が解決するしかないのか。意を決して、私は2人の間に割り込むと、なるべくハイテンションで声を上げた。


「あー!私知りたいなぁ!!!青とか黒とかいろんなお色がどうしてあるのかとっても知りたーい!!!いろんなお色の騎士なんで!?ナンデ!?!?アイエーーーーー!!?キシナンデ!??」


 まさにやけくそ。私は顔を真っ赤にて恥ずかしさに耐えながらおどけてみせた。

 騎士の2人は呆気に取られて、口をポカンと開けている。


「ぶふっ!」


 あ、クソッタレ神父が噴き出した。

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