第3話 なんか洗脳的なアレされた気がする。
「まあまあ、そう怒らないでください。」
笑顔のクソ神父様は両親の殺気を正面から受け止めながら、ニコニコ笑う。
なんでこの人こんなに余裕かましてるの?逆に怖いよ!このままじゃあ、本当に血の雨が降っちゃうよ!私は慌てて両親を止めに入った。
「ちょ、ちょちょちょっと!お父さんお母さん!私、気にしてないから!落ち着いて!」
「でも、おで、あいづ、ごろざなぎゃ」
「あららーらあーらら」
人の心とか無いんか?いや、むしろ人の言葉を失っているみたい!私1人じゃ駄目そうだ。慌てて村長夫妻を見る。あ、目を逸らした!エランソ!こっち見ろ!ヘラちゃん!(ニコッ)可愛いね!窓の外のみんな!居ねえ!薄情すぎる!滅びろこんな村!
「待ちなされ…」
そんな時、声を上げたのが1人。救世主か!?
声の方に振り向くとそこに立っていたのは…お爺ちゃん神父!お爺ちゃん神父じゃないか!存在感が無さすぎて置き物だと思ってたよ!ごめんね!そんなお爺ちゃん神父様はゆっくりとニコニコ胡散くさ神父に対して口を開く。
「神父ライデス…。
たとえカミッテル様の預言であろうと、まだ幼いハリナちゃんを両親から引き離すのはあまりに酷。
それに、聖女の責をこのような子どもに果たさせようとは…。本来であれば、迎え入れるのは16歳になってから…そう聖書にも書かれておるはずだ。
現十二司教様方は何を考えておられるのやら…。神父ライデスよ、責は私が取ろう。此度は引き上げよ…」
「おや、元十二司教のモービック神父殿ではないですか。どうも貴方は勘違いされておられるようだ」
一拍置いて、胡散くさ神父はお爺ちゃん神父(名前モービックって言うんだね、初めて知ったわ)の瞳を覗き込む様にして言った。
「これは教皇様が決められたことです」
「なっ!?キュ、キュクロースク様が…!あのお方が直々に…!」
きゅ、きゅきゅろ?言いづらいな!
でも、その名前を出された途端にみじろぎし始めるお爺ちゃん神父。教皇様って偉い人のことかな?いつものんびりしてるお爺ちゃん神父がこんなに狼狽えるのは初めて見た。
そして、彼は苦虫を噛んだ様な顔をして、がくりと諦めた様に頭を下げた。
「ぐ…、ならば、私には何も言えぬ、か。…すまんなハリナちゃん」
なんか勝手に庇ってくれたかと思うと、勝手に折れた。なんだったんだ。いや、気持ちはありがたいけどね?
ニコニコ胡散くさ神父は項垂れたお爺ちゃん神父を見て、満足そうに頷くと、くるりとこちらを振り向いた。そして、ツカツカと靴を鳴らしながら私の方へ近づいてくる。
「さあ、ハリナ様。参りましょうか」
「ま、待ってよ!私、まだ何も納得してないんだから!」
「そうだぜ!俺らはなーんも納得してない!」
「そうよ!聖女だかなんだか知んないけど、ハリナちゃんが可哀想だわ!」
「やめとけやめとけ!どうせろくなヤツじゃねーんだ!」
抵抗する私。周りの大人たちも彼に対してあまり良い印象はないようで、私を庇ってくれる。ひゅー!帰れコール食らわしてやろうぜ!
そんな私たちの野次にニコニコ神父は変わらぬ笑顔のまま小さくボソリと呟いた。
「クソ田舎の猿どもが…」
ほへぇ?
どうやら近くにいた私にしか聞こえていないみたいだけど、なんかこの人すごいこと言わなかった!?えぐい悪口言ったよね!?ね!?
そんなエグ悪口神父は懐に手を入れて、何やら血で書いたような赤く掠れた字で長々と文字が連ねられた紙を取り出し、
「…やれやれ。ジョルスキヌス十二神教教皇特別代理人ライデスが命じる。信奉術式『統べるは遍く大地』、発動」
神父が何か呟いたかと思うと、私の意識がすうっと消えていくのを感じた。
********************
「ほへえ?」
あれ?確か私、村長の家で聖女になるとかならないとかやってたと思うんだけど。
なんでか今はきんきらかんの馬車の前だ。
隣には胡散くさ神父が立っていて、私の正面には両親や村長、村のみんなが涙ながらに何やら語っている。
「うおーん!うおーん!がんばれよハリナー!」
「あらあら、貴方泣きすぎよ?今生の別れって訳じゃないんだから…、あら、嫌だ。貰い泣きしちゃったわ…」
「頑張れよハリナちゃん!」
「故郷に錦飾っとくれー!」
え?本当にどう言う状況?
な、なんかいつの間にか私聖女になる流れになってる!?慌てて私が何か言おうとするが、胡散くさ神父がガッと肩を掴み大きな声で語り出した。
「す、素晴らしい…。ハリナ様はこれ程までに愛されておいでなのですね…。きっと正式な聖女様になられた暁には国民皆に…いや!世界の皆んなに愛される素晴らしいお方になられることでしょう…!この神父ライデス、誇らしさに胸が爆ぜてしまいそうです…!」
なんだこの演技臭いセリフは…!そんなことを思っている内に、彼は私に有無を言わさず馬車へと乗せる。あー!発車しやがった!
私はせめて、と窓から顔を出して助けを求める。
「うおー!攫われるー!」
私の助けを求める声を聞いた村民たちは涙を拭き、互いに向き合い頷いた。
「うう…そうだよな…。ハリナだって辛いんだ…!おい、お前ら!俺らが泣いてどうすんだ!せめて笑って送ってやろうぜ!」
「おう!」
「そうね!」
「せやな!」
「やらいでか!」
口々に「頑張れ頑張れ」と応援の声が飛んでくる!馬鹿野郎かな?そんな彼らを見て、私は、
「ん、んああ…」
としか言えなかった。予測不能な事態が起きると人ってダメだね。何も言えねぇ。
あ、エランソとヘラちゃんが馬車の横へと駆け寄って来た。頼む!どうか抵抗してくれ!エランソお前登場してから良いとこゼロだぞ!ほら!男見せろ!
「おいハリナ!俺はぜってー冒険者になってお前のシスター姿見て笑ってやっからな!それまで頑張れよ!」
「お姉ちゃーん!頑張ってー!」
うーん。この晴れやかな門出。
最後にもう一発言っとこうかな。
「いやだー!聖女になんかなりたくないー!」
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