第42話 なぞの男

「沙織、ごめん、今日は一人で帰れるか?」




「え?どうして?」




「仕事終わったらすぐ美優のところに行きたいんだ。」




「…うんわかった。」




仕事が終わるといつも巧に沙織は家まで送ってもらっていた。




本当は今日車の中で沖縄でのことを謝って巧に相談したいことがあった。




「明日…時間ある?」




「明日?」




「相談したいことがあるの。」





仕事が終わると巧は急いで現場を出て行った。




(本当にあの子のことが好きなんだ…)




巧と仕事現場で一緒に働けるのは嬉しかったが、巧のそういう片思いをしている姿は近くで見たくなかった。




「はぁ…」




何度もため息をつきながら沙織は家に帰り着いた。




“カチャカチャッ…”




沙織は家について鍵を開け玄関を開けた瞬間――




“ドンッ…”




「キャアッ!!」




後ろから急に押されて玄関に倒れこんだ。




「いっつもあの男といやがって…手間とらせんなよッ…」




“カチャカチャカチャ…”




男はベルトを外し、チャックも下げて沙織に覆いかぶさった。




「やめて!!もうやめてよー!!!」




いつもの笑顔の太陽のような沙織からは考えられないような、涙でぐしゃぐしゃの顔だった――









「もうやめて!!お兄ちゃんッ…」






「もうこんなのやめてよぉぉぉ!!!」




“バチンッ…”




暴れ叫ぶ沙織の頬を兄が思いっきり叩いた。




「お前が家を出て保護施設にいってから親父は俺に矛先を向けたんだよ…お袋は出て行くし…中学から働かされて働かされて…俺はずっとお前を恨んでいるんだよ!」




“ズッ…”




「痛い!!痛いよぉ!」




「そうやってお前が泣く姿が俺は好きなんだよ。」




父親の暴力に耐え切れなくて家を出た。




それから保護施設で暮らしていたけど、12歳の時18歳の兄が迎えにきた。




父親が死んだからもう大丈夫だよって…




迎えにきてくれたのが嬉しくて…




だけど待っていたのは毎日苦痛で逃げ出したくなるような行為を――




恋人同士がするような行為を妹の私にしてきた




お金にするためにイヤラシイ写真をたくさん撮られた




でもある日隙をみてまた家を飛び出した――




再び家出をしたのは18歳、6年間毎晩泣いて過ごしていた生活から飛び出したのに…




抵抗する気も起きなくなり、沙織はされるがままだった。




兄は一方的な行為を終え、沙織から離れると放心状態の沙織のバッグを漁った。




お財布からどうせお金をとるのだろうと思ってボーっと眺めていた。




だけど手に取ったのは携帯だった。




携帯を操作し、兄は携帯電話を耳にあてた。




「で…んわ?」




「…」




「誰に…ハッ!」




兄が電話するのは一人しかいない。








「巧に電話しないで!お願いだからしないでよぉぉぉ!!」









“ピリリリリリッ…”




美優の家に着いた瞬間、巧の携帯電話が鳴った。




「はい。」




「…ぇしてぇぇ!!」




「…沙織?」




「…」




「沙織の携帯に画像送ってきた奴か?」




沖縄のとき、沙織の携帯に沙織の卑猥な画像を兄は送ってきていた。




どこにいっても逃げられない、と――




「おい!!!答えろ!」




「沙織の家に来い。」




兄はそれだけ言って携帯を切った。




巧はエンジンをまたつけて、アクセルを踏み続けた。




美優の電話での態度が気になっていたけど…




それでも沙織の緊迫した状況がただ事じゃない気がして




沙織の家に向かった――

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