第四話 無力の私

 春人はるとくんにキスして別れた後、眩しい程の白い光に辺りは包まれた。

 立ち尽くすクラスメイトと共に私は魔道士メイジの職業と共に得た魔眼を凝らして光の中にいるはずの春人くんを探した。

 

 「どこに行ったの……春人くん……?」


 だが、いくら魔眼を凝らしても春人くんを見つけることは出来なかった。

 春人くんは、自分を受け入れてくれない冷めたクラスのために犠牲になるつもりなの……?

 どうして引っ張ってでもこっちへ連れて来れなかったのか、どうして一緒に死んであげられなかったのか、無責任で無力な私は彼のために何もしてあげられなかった。

 自責の念に私の心が耐えきれなくなったとき、大きな魔法陣が鈍色の空に現れた。

 そして現れた光矢は見ているだけの私でも鳥肌が立つほど強力な光だった。

 でも私は何となくそれが春人くんによるものだと感じた。

 その魔法がキュクロプスを倒したのか、辺りに溢れていた光の消えた頃にはその醜悪な姿は既になかった。


 「春人くん!?生きてるんだよね!?死んでないよね!?」

 

 今度は魔眼ではなく自身の肉眼で幼馴染の姿を探す。

 でも彼の姿は何処にもない。


 「倉見は?」

 「あいつはどこいったんだ!?」


 クラスメイト達もそのことに気づいたのか辺りを見回していたが誰一人として見つけることは出来なかった。

 そこに春人くんの魔法に守られていた一人であるインドラさんが起き上がると、弱々しい声で言った。


 「あれは……おそらく、根源自爆の魔法だ」


 嫌な予感がして、それでも気になって僅かな希望に縋って私は尋ねた。


 「それってどういう魔法なんですか!?」

 

 するとインドラさんは黙ってしまった。


 「答えてくださいっ!春人くんはどうなったんですか!?」

 

 感情に任せたままキツくインドラさんを問い質す。

 するとしぶしぶインドラさんは告げた。


 「彼はおそらく魔力を暴走させることによって根源を臨界状態にさせ、その根源を爆発させてキュクロプスを葬ったのだろう……」


 その説明で私は全てを察した。


 「春人くんは……死んでしまったんですか?」


 しばしの沈黙の後、インドラさんは力なく頷いた。


 「あぁ、そうだ……」


 その言葉を私はどう受け止めていいのか分からなかった。

 止めどもなく溢れた涙が頬をつたう。


 「あの無職無能でも役に立つことなんてあったんだな!」

 「あいつの命を無駄にしないよう俺達も頑張ろう」


 クラスメイトの相澤くんと天童くんがそんな心無いことを平気で言った。

 天童くんが落胆する私の肩をポンポンと叩く。

 その瞬間、私は我慢できなくなった。


 「貴方達がそんなふうに接するから春人くんは、死んじゃったんじゃん!彼の忍耐強さに甘えて、最後は彼さえも見殺しにして、最低ね!」


 溜め込んで来た感情が爆発した。

 ごめん春人くん。

 こんなことでしか私は君を支えられなくて……。

 

 『今までありがとうな』


 彼の声がふと聞こえた気がした。

 何も出来なくてごめん。

 私は笑顔で彼を見送ることが出来なかった――――。


 ◆❖◇◇❖◆


 「やっぱり今のままじゃ、エステルから貰った魔力は活かしきれないか……」

 

 重力系統の古代魔法である飛行フルークを行使して戦場となったツェスタ郊外からは離脱できたものの、すぐに俺は力尽きてしまった。

 それから数時間、気がついたら眠ってしまっていたようで気付けば夕方を迎えていた。

 どうしたらもう少し消耗を減らして古代魔法を扱うことができるんだろうか。


 「古代魔法を得たけど、やっぱり身体は無職無能のままだったりするのか……?」


 だとすれば大問題だ。

 創造神エステルとの約束はいつまで経っても果たせそうにない。

 とにかく魔力消費の無駄をなくして古代魔法を使えるようにならないとな……。

 そんなことを考えているといくつもの馬蹄の音が聞こえてきた。

 どうやら俺は今、渓谷の上にいるらしく音は谷か響いてくるのだ。

 様子を窺うために覗き込むと終われるのは少女二人組、追うのは武装した男数人と言ったような状況だった。

 少女二人組の方は馬術がそれほど上手くないのかもはや男達に追いつかれそうだった。

 これは助けに行くべきか?


 「飛行フルーク


 数時間の睡眠で自然回復した体力を使い切るつもりで俺は古代魔法を詠唱した―――――。

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